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006 オペレーション『共食い』 中













 クルシーズ騎士学園は、巷どころか他国にまでその名を轟かす超有名校だ。

 校舎は当然のごとく超巨大。屈強な戦士たちを排出するため、様々な施設が完備されている。

 迷うことなど日常茶飯事で、校舎内の至る所に地図が貼られている。

 そして屋上も高くて広い。そらもう高い。柵で仕切られてるものの、簡単に身を乗り出せてまうそこから、遥か下の地面を見ると単純に怖い。


 わざわざ面倒な階段を登らなければ辿り着けない屋上は、人などいるはずもなく、穴場スポットと言えるだろう。

 先頭を行くシンジが、屋上への扉のドアノブに手をかけ、ひねって開ける。

 その後ろをスノウ、クルスと続く。

 心地よい風が顔を突き抜け、三人の髪を撫でる。

 三人だけの暖かな団らんを過ごそうと思っていた矢先、そこには予想外の先客がいた。


 だだっ広い屋上の真ん中で、太陽に照らされて輝く金髪縦ロールをそよ風で揺らし、一人黙々と昼食を頬張る──フレイニー・デ・バランの姿が。



 ──ま、まさかのぼっち飯!?



 しかし、弁当に夢中でクルスたちに気づかないフレイニーは、丁寧に作られたタコさんウィンナーをフォークで刺し、そのまま口に運ぶ。


 ──しかも庶民的!?


 その後数秒間噛み続け、やっと飲み込んだかと思えば、ふにゃっと顔をだらしなく綻ばせた。

 教室での常に凛として傲慢な態度を崩さない彼女からは想像出来ないなんとも気の抜けた可愛らしい笑み。


 ──誰!?


 そしてまたフォークでタコさんウィンナーを二つま止めて刺して、口の中に放り込む。


 ──タコさんウィンナー大好きかよ!!


 咀嚼すること数秒、フレイニーがおもむろに横に首を回すと、未だ入り口前で立ち尽くすクルスたちとバッチリ目が合った。

 それからどれほどの時間が経っただろうか。

 フレイニーとクルスたちの間を、冷たい風が流れていき、細い風の音だけがこの静寂を破っていた。

 タコさんウィンナーを噛んだ状態で器用に静止するフレイニーと、ドアノブに手をかけたまま固まるシンジ、その後ろで目を丸くして立ち尽くしているクルスとスノウ。


 しかし、突然フレイニーの顔が赤く染まる。


「んむーー、ん〜〜〜、んむーーぅ!!」

「ゆっくり食べて」

「んっ!」


 何かを訴えようにも、口の中に残っているタコさんウィンナーたちが阻んで叶わない。

 クルスが穏やかな声音で落ち着かせると、元気いっぱいに了承の意を示してきた。


 何この子素直。


 教室での印象の吹き飛んだ従順なフレイニーに、クルスはたじろぐ。そして、しばらくもぐもぐと口を動かした後、やっと喉を鳴らしてタコさんウィンナーを胃袋に流し込み、口の中を空にすると、間髪入れず罵声が飛んだ。


「だ、誰の許可を得てわたくしの至高のランチを拝謁しているのかしら!?」

「あそこら辺でよかか?」

「無視ですの!?」


 シンジがさも当然といった様子でフレイニーから少し離れた日向を指さす。

 当のフレイニーは頬をリスのように膨らませ、腕をブンブンと不規則に振り回している。


「ふーん、いいですのよー、離れて下さった方が食事に集中できますしー、ああ、今更後悔しても遅くってよ?たとえ靴を舐めて懺悔してきたところで許してやりませんわ。まあ精々わたくしとランチを共にするという人生最大の幸福を取りこぼしたことを心から悔やみながら涙で昼食を濡らしなさいな」

「うお!スノウの弁当めっちゃ綺麗じゃん!」

「これ全部手作りかいな!?」

「ふふ、褒めてもデザートしか出ませんよ?」

「ひゅ〜、スノウさん太っもも〜」

「むきー!!」


 フレイニーの大きな独り言をBGMに、クルスとシンジとスノウは円になって弁当を広げ始める。


「高級魚の開きなんて初めて食べるぞ!?」

「この卵焼き超フワフワや!」

「あっ、これとか自信作ですよ?」

「あーあ、わたくしの手作り弁当はなんて美味なのでしょう。わたくしのて・づ・く・り弁当は」


 クルスとシンジがスノウの手作り弁当で盛り上がっていると、フレイニーの独り言もボリュームが上がってきた。

 一人で胸を張り高笑いをしている。

 傍から見たら完全に頭のネジが二、三本外れている。

 頭のネジ外れ子ちゃんだ。


「なんかこだわりみたいなのあるんか?」

「ええ、これは──」

「オーホッホッホ、長年作り続けたわたくしのタコさんウィンナーは流石、とてつもない出来ですわ!こだわりといえば、タコさん一つ一つの表情が全て違うというところですわね!」


 屋上中に響き渡るフレイニーの声音が、スノウの言葉をかき消し、鼓膜を震わせた。


「へえ、これは「オーホッホッホー!」あの「オーホッホッホ!!」あ「オーホッホッホッホッホッホッホー!!!」······」


 ──すげえうるせえ。もうなんか会話できないもん。


 シンジとスノウも、クルスと同じく微妙な顔をしていた。


 狂気の高笑いが学園の壁に反響しこだまする。恐らく一階の一年の教室まで届いているだろう。それだけの大音量が、クルスたちの至近距離で発せられるのだ。


 耳壊れるわ。


 溜め息一つ、クルスは膝に手を立てて立ち上がる。

 迷いのない歩みで、一直線にフレイニーに近ずいて行く。

 今尚続けられる大音響の高笑いが、一歩ごとに大きくなるのを肌で感じるが、クルスは速度を緩めない。

 俯き気味に歩いているため、灰色の髪が顔の前に垂れ、表情を隠している。


 やがて、弁当を膝に乗せ、左手のひらを口の前で反らせて固定、胸を突き出し全身全霊で高笑いをしているフレイニーの真横まで到達した。

 フレイニーは、高笑いに夢中で未だクルスが至近距離に佇んでいることに気づいていない。

 息切れし、玉の汗を浮かばせながら、それでもフレイニーは休みなく高笑っている。


 この子は高笑いに何をかけているんだろう。


 そんな疑問を胸にしまい、クルスはゆっくりと手を上げる。

 屋上で、しかも日が真上から差すお昼に、悠然と手を掲げる姿は、一種の絵画のような風景であった。

 クルスが、勢いよく腕をふり下げて、



 ────フレイニーの後頭部をひっぱたいた。



「ふぎゃっ」


 短い悲鳴とともに、フレイニーが前のめりにつんのめる。

 喧しい高笑いがやっと静まり、辺りが一瞬で物音ひとつなくなる。


「何をしますの!?」

「黙れ、縦ロール引きちぎるぞ」


 勢いよく振り返るフレイニーの怒声を、クルスが凄味をきかせて一蹴する。

 その息苦しいほどの覇気を前に、フレイニーはビクリと身体を跳ねて、みるみるうちに涙目になっていった。


「──ごめんなひゃい」















今年最後の投稿かな?

来年もよろしくお願いします!

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