005 オペレーション『共食い』 上
青春を送る中で日常的に発生するイベント。友人と昼食を共に食し、絆をより強固なものにする通称〝共食い〟。
頻繁に起こるものの、その重要性は計り知れない。
「お、おう、たたたた食べようか」
「──?急にどないしたん?」
く、こんなに緊張するのは古代龍とやり合ったとき以来だぜ。
「ところでお前弁当持っとるん?」
「──────あ」
たっぷり数秒間思考停止してから、クルスは途方もない衝撃に襲われる。
「あばばばばばば」
「どないしたっ!?」
俺としたかとが、弁当を忘れちまうなんて······!この時間だとたぶん購買も売り切れだし。
「──あの」
不意に、後ろから声が投げかけられる。
クルスが衝撃冷めぬまま振り返ると、天国があった。
座ったクルスの目の前に迫るのは、白く柔らかそうな太もも。
「揉んでいいですか?」
「え?」
「いえ、なんでもないです」
ふぅ、危ないところだったぜ、危うく本音が漏れちまうところだった──え?もう漏れてたって?馬鹿野郎、あれは本音のほんの一部だ。
──てかなんでこの人が話しかけてくんだ?
クルスが上を仰ぐと、パッチリとした水色の透き通るような瞳と視線が交錯した。
──〝雪姫〟スノウ・レイ・マスコッティ。学年トップの人気を誇る少女が、周りの人だかりを掻い潜って男二人に話しかける。
確かに、傍から見たら異常な光景だろう。
「あの、お弁当、作りすぎちゃったので、少し貰って頂けませんか?」
二つの弁当箱を見せつけるように掲げる。
節々から優しさが溢れ出てくる発言だ。
──ああ、眩しい。邪な心が洗い流されるようだ。あと太もも触っていいですか?
あまりの優しさに目を細めるクルス。しかしその欲望の塊は衰えることを知らないらしい。
悟ったような表情で邪な心を垂れ流す。
「ありがたく頂戴します」
「ふふ、どうぞ」
学年一の美少女からの弁当を受け取るクルス。
──ん?でも弁当二つって作りすぎのレベル超ええないか?······うっかりさんなのか?
「ではどこで食べましょうか」
「あ、一緒に食べるんや」
ちゃっかり輪に入ってくるスノウのコミュ力に、クルスは驚愕する。
しかし、飯は人数が多いほど美味しいと誰かが言っていたのを思い出し、内心に喜色を写す。
大人数でランチなんていつぶりだろう。おれはずっとソロだったからなぁ············ソロだったからなッ!!クソがッ!!
「うおっ!?どないしたん!?」
一人血涙を流すクルスに、シンジが飛び跳ねるほど驚く。
まあ、一緒に話してた友達が急に目から滝のように出血しだしたらそりゃ驚くよね。
「大丈夫だ、気にすんな」
「そういうことなら気にせへんけど······」
「······うん、そうして」
結構薄情なんですね君。自分から言っといてなんですけど?普通もっと心配しません?友達が目から血出してるんですよ?
「屋上とかどうでしょう」
「おお、ええな。ほな屋上へレッツゴーや」
先行して教室のドアを潜るシンジとスノウ。
その後ろ姿を、クルスは静かに見つめる。
あっ、これホントに心配されてないやつだ、ははは······。
ってクリスマス終わってんじゃねえか!!
やっべイブも当日もなんもしてねえや。
あれ?目から汗が。