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004 友達と二つ名、そして昼食












 転入二日目、クルスは意気消沈していた。


 一人部屋てお前。運命が俺の青春を邪魔してくる。神様きらーい。


 項垂れるその背中に、近寄る影がひとつ。

 足音を決して接近してくる何者かを、既にクルスは察知していた。

 気配の察知というのは、並の修羅場では手に入らないものだ。しかしクルスは当然のように備えている。

 理由は明確、生きるため。冒険者は死が隣り合わせの職業だ。Aランク以上の者だとほぼ確実に会得しているだろう。──まあ、クルスほど完璧に察知できるものはごくごく稀だが。


「俺に何の用だ?」

「──うおっ!?なんやお前、後ろに目でもついとるんか?」


 すぐ背後で上がる驚きの声。男にしてはやや高めの声音だ。


 ······ドヤッ。


「ま、ええわ、ワイはシンジ。お前平民のでやろ?実はワイもなんねんこれからよろしゅうな」


 クルスが振り返ると、そこには真紅の髪の細目の男が立っていた。


 ──は、話しかけられた······だと!?


 突如現れたシンジと名乗る男を前に、クルスは口をパクパクと開閉させるかとしかできなかった。

 しかしシンジは、そんな軽く不気味なクルスを大して不快に感じた様子もなく続ける。


「しかも初日であの〝金色薔薇(こんじきばら)〟フレイニー・デ・バランを倒したし、お前はワイら平民組の希望の星や!」

「〝金色薔薇〟?」

「そや、フレイニー・デ・バランの二つ名。誰が呼び出したかは知らんけどな〜」


 カラカラと陽気に笑うシンジ。その人懐っこい笑みに、クルスの緊張も氷解する。


 ──にしても二つ名か、冒険者時代は〝蒼穹のクルス〟なんて意味不明な名前で呼ばれてたな。特徴目の色しか捉えてないじゃん。


「二つ名持っとるっちゅーことは、学園トップクラスの実力者ですって証明や。このクラスで他に二つ名もっとるんは一人しかおらん。ほら、あそこの人だかり見てみぃ」


 シンジの指さした先には、確かに人が山となって群れている。男子の方が圧倒的に多いが、その中には数名の女子の姿も見受けられた。

 その隙間をぬって、薄水色の髪が煌めいた。

 白い肌にスラリと伸びる細く長い足、キュッとしまったお腹とは正反対に膨らんだふくよかな胸、下ろした髪が、彼女の清楚さを倍増させている。

 周りに振りまく神秘的とも言える暖かな微笑みに、群がる男子たちが揃って顔を赤くさせる。


「アレが〝雪姫〟スノウ・レイ・マスコッティ。容姿は〝金色薔薇〟も負けとらんけど、性格がなぁ。対して〝雪姫〟は誰にでも分け隔てなく接する聖女様みたいな性格や。学年トップの人気を誇るのは明らかやな」


 ──おっぱいでは勝ってるぞ縦ロール!やったな!


 この男、最低である。

 しかし、クルスが太ももから視線を上げると、スノウと目が合った。


 一度目を丸くしたあと、どこか嬉しそうに笑ってくる。

 穏やかで可愛らしい仕草に、違和感などあろうはずも無い。

 だがクルスは、そんな万人が放心するような笑顔と向かい合い、首筋にチリチリとした感覚を覚えて眉を顰める。


 これの後には必ず厄介事に巻き込まれるんだよな······。


 冒険者時代に培った、〝嫌な予感〟という代物だ。

 さしたる根拠もないが、決して蔑ろには出来ない感覚にクルスは大きく息を吐く。


「はー、相変わらずべっぴんさんやなー〝雪姫〟は」


 クルスの様子の変化に気づかずに、スノウを眺めるシンジだったが、すぐに思い出したようにクルスに向き直る。


「せやクルス、昼飯まだやろ?一緒に食べへんか?」

「────っ!?」


 こ、これは、青春において欠かせない超重要イベント──〝共食い〟!?


 まさかの申し出にクルスは腕を大きく広げて天を仰ぐ。


 ──ああ神よ、貴方はやはり最高だ。
















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