003 寮部屋は寮部屋でも、友達のできない寮部屋ってなーんだ
青春とは何か。
クルスは漠然とした問いに頭を悩ませていた。
学園生活というのはそれだけでは青春ではないらしい。
このままでは只々時間だけが過ぎていくという悲しい結末になりかねないと危惧したクルスは、聞き込みを開始した。
「──なあ、青春ってなんだと思う?」
「貴方、どの面下げて聞いてきてるんですの······」
憎しみを込めた瞳でクルスを睨むフレイニー。
今日もいいドリルっぷりだ。
揺れる縦ロールを微笑ましく見つめるクルスは、爽やかな笑顔をで答える。
「俺、友達お前しかいないから」
「ふんっ」
頭を振るい、二本の金髪縦ロールでクルスをビンタするフレイニー。
「だ・れ・が、友達ですか!わたくしは貴方みたいな薄汚い平民とは友達になった覚えなどありませんわ!」
クルスの全身を電流が駆け巡る。
「──ば、馬鹿な······。友達と思っていたのは、俺だけだったと言うのか······」
急速に萎んでいくクルス、最後にはくずおれて地面に手をつくまでの落ち込みようだ。
「──え!?あの、そ、そういうことじゃなくて、ですね?えと、紛いなりにも貴族と平民な訳ですし?や、やっぱり、ちゃんと順序を踏んでからの方が、ということ、ですわ······」
──おや?ノリで絶望する演技してたらフォロー入れてきたぞ?これは予想外だ。
意外な反応に、隠れて目を丸くする。
「いいよ、そんな心にもないこと言わなくても、本当は僕のこと邪魔だと思っているんだろう?」
必死にニヤけるのを我慢しながらの必死の演技、しかし、そのことによりクルスの身体は震え、あたかも泣いているような姿になっていた。
「──ちがっ、先程は言いすぎましたわ。だから泣かないで下さいまし」
フレイニーの声が徐々に濡れていく。クルスが顔を上げると、顔を顰めて今にも泣きだしそうなお嬢様が目に飛び込んで来た。
いかん、ちょっと楽しくなってきちゃったぞ。
しかし、泣かれては流石に困るので、昂る気持ちを無理矢理押さえつけ立ち上がる。その時に目尻を拭う仕草も忘れない。
「その言葉を聞けて安心したよ。またねフレイニー」
満面の笑みで放課後の教室を後にするクルス。
──ああ、楽しかった······あ、聞くの忘れた。
■■■
さて、予想外のアクシデントにより唯一の友達の意見を聞けなかったが、ひとつ分かったことがある──それは、
あれ?俺友達少なくね?
ということだ。まだ初日とはいえ話した同級生が一人······泣きたい。
というわけで、当面の目的は友達を作るということだ。
頭の整理がついたところで、クルスは足を止める。
クルスは冒険者時代から学園についての研究をしていた。
その結果によると、最も友達が生成される確率が高い場所は──ここ、寮だ。
ひとつ屋根の下で暮らすことにより、親近感の激増が望める。これが大規模クエストをサボってまで研究を続けた成果だ。ちなみにあの時の言い訳は「俺も裏で動いてみる」と意味不明なことをぬかしてたらなんとかなった。クエスト後に何故かすごい感謝された時には罪悪感で胸が引き裂かれそうになったけどね!
ともかく自分の号室を確認すると、高鳴る鼓動を抑えドアノブに手をかける。
一度大きく深呼吸をしてから、意を決してドアを開けた。
「これから同室になりますクルスです!宜しく御願いします!」
固く目を瞑り、背筋を伸ばして挨拶の言葉を発する。
··················。
············。
······。
時間にして十秒くらいだろうか、何故か返事が返ってこない。
恐る恐るといった様子で瞼を解くと、そこは少し狭めの部屋に、日用品とベッドが一つ置いてあるだけだった。
──クルス以外に、人はいない。
「一人部屋··················」
零れた呟きは、当然の如く届け先を持たず、静かに壁に溶けて行った。