002 VS金髪巨乳縦ロール
クルシーズ騎士学園には、戦闘演習という授業がある。
読んで字のごとく、生徒が自らの能力を高めるため研鑽する授業なのだが、それには生徒間での模擬試合も容認されている。
──例えばそう、今向かい合っている二人のように。
「逃げなかったのは褒めて差し上げますわ」
金髪縦ロールのフレイニーが自信ありげに模擬刀の切っ先をクルスに向ける。
ギャラリーが二人を囲み、円形のフィールドを作り出していた。
何故だか視線に哀れみが込められている気がする。
「──ああ、まただよ」「可哀想に」「気に食わないと直ぐアレだ」
冒険者時代に鍛え抜かれた超人的な耳が囁きを拾う。
フレイニーには聞こえてないようだ。
そうか、皆ボッチの俺を心配してくれているのか。
ピタリと合った模擬刀の先で、クルスは初めて向けられる同世代の心遣いに目頭が熱くなる。
······でも心配無用だぜ皆。だってこれアレだろ?いがみ合っていた二人が戦いを通して友情を誓うという青春イベントなのだろう?ああ、ついているぞ俺、転入初日で友達げっちゅだ!
「このわたくしの慈悲深い配慮で、先制攻撃をお譲り致しますわ。どうぞお好きなよう攻撃してきて下さいませ」
「じゃあお言葉に甘えて──いくぜ友達一号!」
右手に握る模擬刀の感触を確認し、地面を強く踏み込む。
一瞬のタメを作って、全力で大地を蹴った。
「友達?なんのはな────ッ!!」
突如として目の前に現れたクルスと上から振るわれる模擬刀に、フレイニーの喉元で声にならない悲鳴が響く。
幸い模擬刀は既に上段に上げていたため、間一髪でクルスの振るう模擬刀と自分の顔面の間に差し込むことに成功した。
もし剣を持ち上げていなかったら、確実に今の斬撃で勝負は決していただろう。
衝撃に腕が痺れる。──しかし、クルスは力を微塵も緩めない。
──速い、速すぎる。わたくしの目で捉えられないなんて······しかも──重い!!
フレイニーの表情が歪み、首すじを冷や汗が伝う。対してクルスは無表情、ただし、その双眸はしっかりと開かれていて、フレイニーの一挙一動を見逃さない。
恐るべき集中力が可能とする技。
幼い頃から冒険者という職業でひたすらに凶悪な魔物、もしくは人間との戦闘に身を浸していたからこそ身についた技能だろう。
輝く青い瞳と吹き出すオーラが、彼をひどく情熱的に見せる。
「──くぅっ!」
剣を傾かせ、クルスの剣を滑らせるフレイニー。
見た目こそ簡単だが、それを戦闘中に実践するのは難しい──しかし、フレイニーはA組、実力は折り紙付きだ。
──勝ちましたわ!
渾身の斬撃をいなされ、重心が前に傾いたクルス。その不安定な姿にフレイニーは邪悪に嗤う。
──瞬間、フレイニーの目に飛び込んで来たのは白い制服のズボンだった。
鈍い衝撃をどこか遠くに感じ、視界いっぱいに広がる一面の青空をぼんやりと眺めて、やっと自分の顔を蹴られたことを悟った。
──淑女の顔に······なんてことを······。
「むぎゅっ」
背中から地面に墜落したフレイニーの口から、可愛らしい悲鳴が漏れる。
静かに体勢を起こしたクルスが、模擬刀をベルトに差し込みフレイニーを見下ろす。
文字通りの、瞬殺だった。
一瞬の出来事、場は静寂に満ちていた。
地に転がる無様な自分の姿に、次第にフレイニーが真っ赤になってぷるぷると小刻みに震え出す。
「──お、覚えておくがいいですわー!!」
目尻に大粒の涙を溜めて、演習場から走り去っていくフレイニーは、開け放たれたドアを潜り、長い廊下に小さくなっていった。
授業を飛び出す彼女の背中を、先程まで囲うように観戦していたギャラリーとマルチリーナ先生、そしてクルスが茫然と見つめる。
「むぎゅっ」
──あ、コケた。