013 決闘 激戦
なんでこんなに遅くなってしまったのかと言いますと、
僕にも分かりません。ごめんなさい。いやほんと。
更新速度、上げていきたい(願望)
四戦目、フレイニーVSクナシ・マンド
尊大な態度で再び登場したフレイニーとは対照的に、猫背に覇気のない気だるげな表情を携えて三年B組クナシ・マンドは入場する。
瞳の下には大きな隈。手入れされてないボサボサの黒髪 。右手に握られてはいるものの、ダラりと下げられ、先端が地面に触れそうになっている装飾も何も無い粗雑な木の杖。
高揚した決闘の雰囲気には不釣り合いの男。
如何にも陰湿そうだ。
「あらあら、随分と覇気のない殿方ですわね。今回も瞬殺させていただきますわ」
自信満々だなぁフレイニーちゃんは。
「覇気ねえ、ま、僕と君とじゃ戦い方が根本から違うからねぇ」
マンドが杖の先で地面をコンコン、と軽く二回叩く。
おちょくるような態度は、フレイニーの癪に障ったようで、直ぐに剣に炎を纏わせ始めた。
こうか は ばつぐん だ。
びっくりするぐらい挑発に乗りやすいぜ!
「死になさい!」
放たれた炎の柱は、一直線にマンドの懐に吸い込まれる──その刹那。
マンドが地面を蹴る。
軽快に空へと躍り出た彼の顔には、先程の陰湿さは何処へやら、好戦的な笑みが宿っている。
「空へ逃げたところでッ!」
初撃を躱され、驚愕と憤りに暮れるフレイニーが、すぐさま追撃の炎を伸ばす。
空中では回避は不可能。フレイニーの口が勝利を確信した。
──が、
「ぬるいねえ!!」
マンドの前にかざした杖が、水柱を吹き出し迎え撃つ。
僅かな拮抗を見せたものの、相性差に押し切られる形でフレイニーの炎が水柱に呑み込まれた。
降りかかる激流をバックステップで避け、フレイニーは乱れ始めた場を仕切り直す。
「経験則から言わせてもらうよ、単調な攻撃は読みやすいんだ。控えた方がいいねぇ〝金色薔薇〟君」
薄ら笑いを浮かべるマンドの、嘲るような助言は更にフレイニーに苛立ちを募らせる。
「ムキー!!黙りなさい下級貴族風情が!!」
「ハハッ、ここはクルシーズ騎士学園だよ?階級よりも強さがものを言うのさぁ」
ひゃっほい正論だあ!
「ブッハ、バラン家のご令嬢ともあろうお方が下級貴族に完全論破、アハッ、アッハハハハハハ!!」
逆側の入場ゲートからスキロットの喧しい笑い声が響き渡る。
「お前が言うなー!」
今なお笑い続けるスキロットに、頬を膨らませてプリプリ怒るリル。
──こいつスキロットに当たり強いな······。
今に至るまでに唯ならぬ因縁があったのだろう。
仲良くやろうぜ、学園生活だろ?青春せねば!
スキロットの言葉など華麗に無視、外の喧騒を意識外に、フレイニーは深呼吸で心を鎮める。
──遠距離からの攻撃が防がれてしまうのでしたら、懐に入るッ!!
フレイニーが踏み出す。
敵は遠距離型、ならば剣の間合いにさえ届いてしまえば!!
「その判断は正解だねぇ〝金色薔薇〟君」
言葉と共に、頭上に掲げた杖の周囲に数本の巨大な氷柱が出現。そして射出。
眼前に切迫する一本を、首を捻ってかわす。
次いで直ぐ後ろに控えていたもう一本を下からの斬り上げで両断。
頬を撫でる冷気の中、フレイニーは足を進める。
上半身を極限まで前に倒し、二本の氷柱の下を抜ける。
その先には、いつの間にやら目前まで迫っていた水の玉。
──思考が、加速する。
時間が引き伸ばされる感覚。
極限状態、脳が燃えるように熱い。
限界まで見開かれた双眸で、あらゆるルートを模索する。
人一人丸々飲み込めそうな大きさのソレをこの距離で横や上に跳んで避けれる可能性は絶望的。
ならば斬るか?──否、確かに可能かもしれないが、足を止めてしまえば一瞬で魔法の波に呑まれてしまうだろう。
同様に防御も無理。
横、上、防御、全てが駄目。
──ならば、
「──下ッ!!」
勢いそのまま、水球と地面の僅かな隙間にスライディングで身体を差し込む。
砂埃を上げながら地面を滑るフレイニーの目先スレスレを、水球は凄まじい速度で駆けていく。
輝く金色の髪を掠めて水球が通過した後、流れるような動作で体制を整え、再び加速。
──だが、待っていたのは自分へと鋭利な切っ先を向けるアーチ状に羅列した五本の氷柱。
一瞬の間を置いて、輪郭が霞むほどの速さでフレイニー目掛け撃ち出された。
──チカりと、一瞬フレイニーが片手に握る剣が紅色に瞬く。
刹那、灼炎が巻き上がる。
「やあッ!!」
刀身を覆うソレを、フレイニーは五本の氷柱へ振り払う。
荒れ狂う業火に呑まれ、氷柱は跡形もなく蒸発した。
「はァァァ!!」
未だ残火が尾を引く中、目前まで迫ったマンドに剣を上方より振るう。
しかしマンドは、冷や汗一つかかず歪んだ笑みのまま杖の底で地面を叩く。
突如吹き出た水壁が、マンドをドーム状に覆う。
フレイニーの属性は火。
水の防壁の前では、斬撃に炎を乗せたところで直ぐに消火されて終わりだろう。しかしなんの属性も乗せないとなると、フレイニーの太刀筋では激流に弾かれるだけ。到底貫けないことなど分かりきったことだ。
属性というのは、それ程までに勝敗を左右するものだ。
どう足掻いたところでフレイニーに有効打は望めない。
──と、思うでしょう!?
刀身が、重低音と共にスパークした。
属性付与、しかしそれは、炎ではなく雷の属性だ。
止めどない水流の奥で、マンドが初めて動揺するのを感じる。
高揚感に、フレイニーは笑う。
宙を滑りながら、刀身を走る電流は更に激しさを増していく。
直視も躊躇われる激光が全てを包む。
五臓六腑に轟く激音が心の臓を震わす。
溢れ出るエネルギーによる激震が観客席迄揺らす。
──その激雷は、
水流諸共、クナシ・マンドを斬り裂いた。