010 揉ませて下さい
「······」
「······」
「······」
息が詰まり、物理的な重さすら錯覚する程の沈黙。
何やら神妙な顔つきの三人組のみが居座るそこの扉には、選手控え中と掛札がたてられている。
そう、彼らがいるのは選手控え室だ。
「──何故、先生に事情を話しても決闘を取り消せないのでしょう」
三人の内一人、銀に近い灰色の髪の男が、椅子に座ったまま口を開く。
その言葉に答えるのは声も姿も幼い少女。
「一度申請した決闘は取り消せないって言われちゃったね」
「ガバガバ過ぎないそのルール!?」
灰色の髪──クルスが喉を震わす。
──いや、だっておかしいじゃん。そんなん相手に無断で申し込んでも成立しちゃう上に断れないって、この学園大丈夫かよ······。
「──まあ、決闘なんて殆ど起きへんからなぁ」
手を頭の後ろに組んで壁に寄りかかる赤毛の男──シンジは溜息混じりに言葉を吐き出す。
「しかも相手は十人、こっちは四人。かなり厳しいなぁ」
「だからおかしいよね!?かなり厳しいなぁじゃなくて!相手の狡さとルールの不完全さどうにかしよう!?」
憂鬱の感情が見て取れるリルに、クルスは叫び散らす。
「それにワイらの部は一年三人に二年一人、対して魔法研究部の代表は全員三年やからなぁ」
「すげえガチじゃん!ガッチガチに潰しにきてんじゃん!!てかこの部活の最後の一人誰だよ!?引っ張りすぎだろ!!引っ張りハンティングか、引っ張って引っ張って読者の心をハンティングってか!?やかましいわ!!!!」
「まあまあ、そんな引っ張ても全然敵をハンティングせずに全力アタック決める某ゲームは置いといて、もう扉の前にいるから呼んじゃうよ?」
「なんで待機してんの!?」
リルが拍手と共に、入ってきてーと声を飛ばす。
ガチャり、とドアノブが捻られ、扉がゆっくりゆっくりと焦らすように開いてく。
自然と、クルスの中で緊張と苛立ちのボルテージが上がっていく。
──そして、
「わたくし、登場、ですわ!」
煌めく金髪縦ロールを右手で払ってを靡かせ、金髪巨乳縦ロールことフレイニー・デ・バランが、何処までも傲慢に振る舞う態度と、輝かしい学園最高峰の美貌を持って控え室に足を踏み入れた。
「うわ頭のネジ外れ子ちゃんだ」
「何ですのそれ!?」
どうやらお気に召さなかったようだ。
美を完全に再現したような顔をムキーっと歪ませている。
──それにしても素晴らしい太ももだ。
傷一つない白い肌が、黒いニーソックスから覗いている。
肉付きがよくとても柔らかそうで、それでいてスラリとした完璧な太もも。
「──揉ませて下さい」
不意に零れた呟きに、フレイニーは何を勘違いしたのか両腕で胸を抱いて後ずさる。
「あ、ああああなた、何を言っていますの!?も、もも揉ませてだなんて、嫌に決まってますわ!!」
揉ませてのところは相当恥ずかしかったのか、かなり小さい声で、顔を真っ赤にしていた。
「いや、胸じゃなくて太ももを」
「尚嫌ですわ!!」
「──え!?なら胸はいいのか!!??」
クルスの必殺揚げ足取りに、フレイニーは顔を林檎さながらの色にして、小刻みに震えている。
「──嫌に決まってますわー!!!!」
パシンッと乾いた音が響く。
この不毛な争いは、あろうことか決闘開始十分前の出来事である。
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