009 ガ〇タンク
遅くなってほんっとぉおおおおおおに申し訳ありません、再開します。
「──実は、あと一ヶ月後以内に部員を一人も増やせなきゃ、廃部になっちゃうんだよね、この部活」
項垂れたまま、リルが重々しく口を開いた。
口調こそ平然としているが、その声音には微かな憐憫が含まれていた。
「──そ、それは本当なんか部長!?」
シンジが瞳を大きく見開きリルに詰め寄った。
なんで君は知らされてないのかな?
「ごめんね、伝えるタイミングがなくて······。そうしてる内に忘れちゃってたんだ」
リルが申し訳なさそうに俯いて零す。
真面目感出してもダメだからね?超重要事項部長が忘れちゃってるからね?
クルスがそろそろ帰ろうかと思考を巡らせたその時、背後の扉が、まるで壊れても構わないといった風に、乱雑に開かれた。
「あの〜、魔法研究部の者なんですが〜、進捗どうですかぁ〜?まあ、あるわけないですよね〜、こんな部活に入りたがる物好きなんて──ぇええええええ!?」
扉の奥から現れたのは金髪のイケメン君。
最初こそ嘲りを存分に含んだにやけずらを隠すことなく晒していたものの、クルスと視線が交錯した途端、顔を驚愕に染めた。
「──そ、そんな、こんな部活に、新たな部員が······?」
「いや、違いま──」
入部するつもりなんて欠片程もないと弁明しようとするクルスだが、リルが長机を思いっきり叩き、その呟きを半ばで止めてしまう。
爆音と振動により静寂に包まれた部室で、リルに三つの視線が集まる。
しかし、まるで臆した様子のないリルは、伏せた顔を持ち上げて、ゆっくりと口を開いた。
「いひゃい」
瞳には、大粒の涙が溜まっていた。
なにそれ可愛い。全く、ナデナデしたいものだ······ふとももを。
「と、ともかく、条件は達成したんだ。これで廃部の話はなくなったよね?」
「──ぐ、ぐぐぐ」
イケメン君が苦虫を噛み潰したような顔で呻いている。
あー、ダメだなこれ、調子乗ったBランクくらいの冒険者がヤケクソで挑んね来るやつだ。
「──決闘だ!」
ほらやっぱり······。
「魔法研究部は都市伝説研究部に決闘を申し込む!」
「──え?ふつーに嫌だけど······」
真顔で即答するリル。
当然だよね?と傾げた顔が聞いてくる。
「「「······」」」
息苦しい沈黙が数秒。
金髪イケメン君は目を点にして唖然の表情をありありと浮かべている。
空気悪いなー。一発芸でもかますか?
突発的な思考を即行動に移すべく、クルスは深呼吸で気合を入れる。
膝を畳んで正座、床に垂らした両腕を肘で直角に折って前に突き出す。視線は正面のまま、ぽつりと一言。
「ガ〇タンク」
──空気が、凍った。
部室内の温度すら下がったのではと錯覚する程だ。
一ミリたりとも動かない三人を前に、クルスはやりきった顔で息を吐く。
しかし、その溜息を引き金に、金髪イケメン君が小刻みに震え出した。
「こ、この、僕を馬鹿にしてぇ〜」
真っ赤に染まった顔は酷く歪んでおり、折角の美形が台無しだ。
「こうなったら、勝手に先生に決闘願いを提出してやる!」
「ひ、卑怯だぞ!?」
踵を返して走り去る金髪イケメン君に、リルは涙目で訴える。
類は友を呼ぶって、こういうことを言うんだなあ。
廊下の先で小さくなったイケメン君が、大声で叫んでいる。
「そんな部活に入ったこと、必ず後悔させてやるからなあ!!」
そして遂に姿が見えなくなる。
──────あれ?俺この部活入るつもりないんだけど······。
ガン〇ンクの姿勢で、クルスは思った。