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日が西に傾きだして暫く、私は久々に同年代の人と肩を並べて歩いていた。以前は良く、母親と共に出掛けていたが、今ではそれも叶わない。
でも、今は違う。
踏み固められた路面に目を落としながらも、時折隣の彼を見る。お互いに喋らないものだから、彼はずっと前方を見ていた。
「町の入り口が見えてきたけど、ここで合ってるのか?」
「――っ!? は、はい! ここです」
「?」
唐突に、見た途端に話し掛けられたので、心臓が飛び出しそうになるくらいに驚いてしまった。
すぐさま先を確認して、大分拓けた場所が見えたのでそう返した。
私の家もとい村はこの森の中にある。中、と言ってもまた少し山の麓沿いに行けば別の町がある。そこは結構大きい所なのでここはその郊外に当たる。だからドが付く程の田舎ではない、と思う。
「こっちです」
村に浮わついた気持ちで入ると、彼より少しだけ前を歩いた。
もう日が黄昏色に染まり、この辺り一面を包み込んでいた。そういった時間帯なので、外を出歩いている人の影は二つしかなかった。
「ここです。さあ、どうぞ」
村の一角、入ってきた所とは離れた位置にある自宅。家屋は皆画一的で、基本木造で壁には土と稲藁と水を混合させた資材を用いて、屋根は無難に木の板数枚を段々に重ねた造りになっている。
だが、家の前まで来た時になって彼は口を開いた。
「本当に、ここ?」
「はい、そうです。 今、灯りを点けますね」
そう返して、私は玄関の戸を開けた。
「ただいま」
いつものように挨拶をして、慣れた手付きで玄関脇に置いてある蝋燭二つに火をつける。据え置き用と持ち運び用だ。
内一つの持ち手を握り、居間にある大きめの照明、寝室、廊下、浴室各所にある小さめのランプを巡る。徐々に室内も夕日の色と同様の色調に染まる。すると、心は安らかになっていく。
「そこにどうぞ」
「ん? ああ、悪い……」
彼が席に腰掛けるのも見ずに、私は台所に立っていた。
「よし」
前掛けと頭巾を装着して、愈調理に取り掛かろうとするも、あることに気が付く。
山菜を置いてきてしまった。
何て愚かなのだろう。彼と一緒にいたいがために、そのことを失念していた。一応、畑で作っているものもあるが、やはり天然ものの美味しさを紹介したかった。
今回は仕方なく、それらを取り出してある程度の大きさに千切り、軽くオイルで和える。そして豚肉の燻製を程良い厚さに切り分ける。それらの乗った皿と乾パンとを準備し、彼の所に持っていった。
「はい、簡単ではありますが、どうぞ召し上がって下さい」
「ああ、それじゃあ……いただきます」
「いただきます」
配膳し終えたと同時に彼の対面に座る。
食事は決して豪勢というものではないが、久々に一人ではない食事にありつけて、自身の心は何処か弾んでいた。
この感覚は、本当に久し振りだ。