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流石に疲れてしまった。単なる歩き疲れという訳ではない。
やはり魔法は使い慣れないため、どうしても体力を消耗してしまう。
足の動く早さは変わらず、それに加えて辺りに視線を配る。どこか体を休められそうな場所を探す。
だがそんなに都合の良い話もなく、ずっと進んでも同じような景色しか見当たらなかった。
仕方なく、数本の木々が密に纏まっている所に身を寄せた。安全性に欠けるが、やむを得ない。
一つ径の大きい樹木に背中を預け、膝は曲げたまま一息吐く。
手持ちに水も食料もない。ただ額から細かく吹き出していた汗を服の袖で拭いながら、天を仰いだ。
相変わらず、樹冠の一部が丸く照り輝いていた。しかしやはり、地表までは然程暖かみが届いていなかったが、寧ろ今の俺には丁度良い気温に感じられた。
ざざざ……。
その時、背後で下草が強引に揺れる音がした。慌てて振り返ると、そこには先程の女性がいた。それを確認すると、俺は軽く溜息を吐いて少しだけ警戒を解いた。
出会した頃と比べて大分血色が良くなっている。どうやら元気になったみたいだ。しかし何故ここに?
俺一人疑問に思っていると、女性は別段体にまとわり付いた下草の茎葉を気にすることなく、その口を開いた。
「あ、あのぉ……」
「……?」
だが、その声は意外にも小さかった。というのも、俺は女性のその活発そうな体躯と慣れた身形から、もっと明るく物を言うものだと勝手に思い込んでいた。
「さ、さっき、私を助けて下さったのは、あなた様ですか……?」
「ああ、まあな。丁度あそこを通ったら見掛けたもんでな」
「……っ! 本当に、 ありがとうございましたっ!」
「それで、俺に何の用だ? まさか……礼を言うために態々追い掛けてきたのか?」
「……はい、目が覚めた時、遠退いていく影が見えたのでもしかするとって思い……。
それに……私の命の恩人ですから、当然のことです」
自身の胸に手を当てて、沁々と言葉を綴る女性。その際に、女性が浮かべた頬笑みを、俺は見逃さなかった。
そこで俺は自分の目的を思い出した。
大体の挨拶も終わったようなので、俺は地べたから多少軽くなった腰を上げた。
「そうか、それは良かった。見たところ……、もうどこも悪くなさそうで」
「あ、どこへ……?」
「とある場所に。……もう行かないと」
「だったらっ……!」
足早にその場を立ち去ろうとしたが、女性に服を掴まれて叶わなかった。
振り返ると、女性はもじもじと、はっきりとしない態度を取りながらも、その言葉を一所懸命に発した。
「わっ、私の家に来ませんかっ!」