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ノミナル・ナンバー  作者: 小早川廉
第1章
6/11

4

 

 流石に疲れてしまった。単なる歩き疲れという訳ではない。

 やはり魔法は使い慣れないため、どうしても体力を消耗してしまう。


 足の動く早さは変わらず、それに加えて辺りに視線を配る。どこか体を休められそうな場所を探す。

 だがそんなに都合の良い話もなく、ずっと進んでも同じような景色しか見当たらなかった。


 仕方なく、数本の木々が密にまとまっている所に身を寄せた。安全性に欠けるが、やむを得ない。


 一つ径の大きい樹木に背中を預け、膝は曲げたまま一息吐く。

 手持ちに水も食料もない。ただ額から細かく吹き出していた汗を服の袖で拭いながら、天を仰いだ。

 相変わらず、樹冠の一部が丸く照り輝いていた。しかしやはり、地表までは然程さほど暖かみが届いていなかったが、むしろ今の俺には丁度良い気温に感じられた。


 ざざざ……。


 その時、背後で下草が強引に揺れる音がした。慌てて振り返ると、そこには先程の女性がいた。それを確認すると、俺は軽く溜息を吐いて少しだけ警戒を解いた。

 出会した頃と比べて大分血色が良くなっている。どうやら元気になったみたいだ。しかし何故ここに?


 俺一人疑問に思っていると、女性は別段体にまとわり付いた下草の茎葉を気にすることなく、その口を開いた。


「あ、あのぉ……」


「……?」


 だが、その声は意外にも小さかった。というのも、俺は女性のその活発そうな体躯と慣れた身形みなりから、もっと明るく物を言うものだと勝手に思い込んでいた。


「さ、さっき、私を助けて下さったのは、あなた様ですか……?」


「ああ、まあな。丁度あそこを通ったら見掛けたもんでな」


「……っ! 本当に、 ありがとうございましたっ!」


「それで、俺に何の用だ? まさか……礼を言うために態々わざわざ追い掛けてきたのか?」


「……はい、目が覚めた時、遠退いていく影が見えたのでもしかするとって思い……。

  それに……私の命の恩人ですから、当然のことです」


 自身の胸に手を当てて、沁々しみじみと言葉を綴る女性。その際に、女性が浮かべた頬笑みを、俺は見逃さなかった。


 そこで俺は自分の目的を思い出した。

 大体の挨拶も終わったようなので、俺は地べたから多少軽くなった腰を上げた。


「そうか、それは良かった。見たところ……、もうどこも悪くなさそうで」


「あ、どこへ……?」


「とある場所に。……もう行かないと」


「だったらっ……!」


 足早にその場を立ち去ろうとしたが、女性に服を掴まれて叶わなかった。

 振り返ると、女性はもじもじと、はっきりとしない態度を取りながらも、その言葉を一所懸命に発した。


「わっ、私の家に来ませんかっ!」


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