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感覚が戻り、まず感じたことは、温かさだった。
余りの心地良さに、天に召されたかと思ったが、これまで然程良いことはしてこなかったことを思い出し、それはないなと思い止まった。じゃあここは地獄なのか。
「…………んん……」
だが目を開けて見れば、そこは見慣れた森の中。しかし私は斜面の途中ではなく、路肩の木に背中を預けていた。
おかしい……。確か私は足を滑らせて頭を打って、そのままだった筈……。もしかすると、本当に死んだのかと思った。でも、生きている。
私は目の前に両手を持って来てその機能を確める。指は一本一本動くし、力も入る。丸で何事もなかったかのようだった。
しかし服に付いた汚れや斜面に転がる篭と山菜を見れば、確かに事故があったことが分かる。
本当に摩訶不思議なこともあるものだ。
ざっざっ……。
その時、近くで何かが擦れる音がした。そちらの方に振り向くと、黒い影が道の上を歩いて遠退いて行くのが見えた。
それを見て、私は篭も拾わずに慌ててその影の後を追い掛けた。