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篭の八分程山菜を集めたところで撤収の準備を始めた。余り採り過ぎないようにしている。これは私がまだ幼い頃から父に教えられてきたことだ。そうすれば、また次にちゃんとした量を確保できる。
気が付けばもうお昼を過ぎていた。結局弁当にも手を付けずに作業を続けていた。
(……食べながら帰ろうかな……?)
一度意識すると空腹というものは拭えない。一番良いのは休憩している最中だが、生憎、私は今急な斜面にいるためどちらにせよ移動しなければならなかった。
(……とりあえず、下に降りよう)
そもそも下にある道からここに逸れて来た。なのでこのまま真下に向かえば来た道に戻ることが出来る。
そう思った私は思考と同時に行動していた。
しかしその刹那、自分の身がふわりと浮いた。多少焦っていたのか、右足がちゃんと斜面を捉えていなかった。
不本意に斜面を降っていく最中、私の意識は今は亡き父のことに向かっていた。
間もなくして、後頭部に強い衝撃が走った。それに伴い先程までの意識がどこかへと吹き飛び、目の前の視界だけになる。それもかなり薄暗い。
助けて。
そう言っているつもりだったが、実際には何も聞こえて来なかった。
誰もいない家の中に向けて発した言葉同様、それは自身の心中でのみ虚しく反響した。
何だか体が寒い。水気を帯びた地面が密着していることに加えて、体が熱を造る状態にないのだ。
私はとうとう瞼を閉じた。しかしその直後に、また開けたいという衝動に駆られた。
視界が闇に染まるその寸前、そこに影が現れたのだ。
お父さん…………
私はその温かみのある影に抱かれて、遂に意識を失った。