奇跡
さあ、クライマックスです!
演出を凝ってみましたので、お楽しみください♪
マリーが広場を訪れると、そこには、あの時の女性がいた。こちらに気づいたのか、彼女は手を振っている。
マリーは嬉しくなって、すぐそばに駆け寄っていく。
「…天使様、本当にいらしたんですね」
「…お久しぶりです。」
女性は、何だか元気がないように見える。
「…マッチ、買わないとだね。今日はお財布持ってきたから、大丈夫だよ!」
「…その、昨日で全部売れてしまいまして…」
「…おお、さすがは。…もしかして、天使の恰好でマッチを売ってたの?」
「…はい!お姉さんのおかげです。」
マリーはずっとお礼が言いたかった。自分に勇気をくれた人に。
「…その、ほ、ほんとに…ありがとうございます!」
突然に感謝の言葉をぶつけられた女性の方は困惑している。が、すぐに「何かの役に立てたなら、光栄だわ」と微笑んだ。
…女性のほうが、次の話を切り出した。
「…私、仕事で失敗しちゃってさ。その対処のために時間を割いてたら、おととい、昨日と時間が潰れてしまって」
「…そー…なんですか?」
「…だから、昨日からこの公園に寄ることが出来なくて。ごめんなさいね?」
「…いいえ、私は大丈夫です。」
…マリーが遅い時間に家を出たのもあって、もう日は落ち始めている。それに伴って、この街のあちこちで光があふれ始める。
そして、奇跡が起き始めていた。
少年は、これから上がるという、花火を見に行きたかった。
でも、突然魔力の供給が切れたのか、部屋の明かりが落ちてしまっていた。少年はその修理を手伝っていたのだ。
「…これは…今日中には治りそうにないな」
「何か明かりになるものが、あるといいのだけれど…」
少年は焦って、ポケットの中をまさぐった。そして、マッチの箱に手が触れた。
「…お父さん!マッチがあるから、コレ使ってランプを付けて!」
…焦った様子を察したのか、父はすぐにランプを用意してくれた。
「…つき合わせてしまって申し訳ないな。…確か、恋人が待っているんだっけか」
「…うん。行ってきます!」
少年は家の扉を開けると、足取り軽く丘の方へと向かった。
【あと三刻】
花火を上げるため、街の中央には物々しい装置が置かれていた。
「この機械を設置したために、街の一部の魔力供給が途切れてしまったという報告が入りましたが…」
「…その人たちには、特等席を用意してあげなさい」
町長は、街を見回して言った。
「…あの娘は、ちゃんと花火を作ってくれた。後は、我々がそれに応えるだけだな」
…装置が作動するまで、あと一刻ほど。祈るような気持ちで、準備の行く末を見守っていた。
【あと一刻】
「…お、お姉さんって、花火を作る人だったんですか!?」
「…まあ、錬金術師だからね。私は…有名な魔法使いの子孫らしいんだけど…。」
夜がやってきた。二人は、これから上がるという花火を待っていたのだ。
「『花火を作りたい』っておばあちゃんに言ったら、『あなたのやりたいことをしなさい。うちの家系はみんなそうやってきたのだから』って、応援されちゃって。」
「…お姉さんは、魔法、使えるんですか?」
「いや、私は…錬金術を少し扱えるくらい。魔法は、妹のほうが上手にできてたわ。…もっとも、そちらの方も『軽業師になる』って言ってるんだけどね…。」
…魔法という物に少なからず興味のあったマリーは、そのことに興味津々だった。しかし、そんな時間はなかったようだ。
…中央の方から、歓声が聞こえてくる。もうすぐ打ち上げのようだ。
「…そう、少し失敗しちゃったけど…。私の作った花火、一番最後に上がるんだよ。」
女性が、優しく微笑んだ。マリーは、星の夜に上がる花を、心待ちにし始めた。
【あと十分】
…少年は、光の溢れる街を駆け回っている。
(…はは、光が一杯だ!)
空には、たくさんの光の花が咲き乱れている。彼は、故郷でもこんな景色は見たことがなかった。
人間って、不思議だ。キラキラしてない人もいれば、凄くキラキラしてる人もいる。僕たちの仲間はみんな、何もしてないのにキラキラしてるのに。
(ああ、何だかまた悪戯したい気分だなぁ)
何だか、向こうの方が騒がしい。歓声の方へ、少年は引き寄せられていく。
「さあ、行きますよ!」
【10!】
【9!】
人々の声はどんどん高まっている。よぉし、もっと盛り上げてやろう。
真ん中の方で動いている、何かに魔法をかけてみる。さあ、みんなはどんな顔をするだろうか。どんなキラキラが見えるだろうか。
「そーれっ!」
【8!】
【7!】
少年は、恋人の手を握っていた。
【6!】
【5!】
町長は、人々の笑顔を見守っていた。
【4!】
【3!】
女性…カナは、自分の夢を思って空を見ていた。
【2!】
【1!】
…そして、マリーは。
まだ見ぬ運命の人の事を想っていた。
【0!】
星夜祭の、最後の夜。
その夜、この街に星が降った。