秘策
今日は「星の日」。マリーの、一廻りに一度の休みの日だ。
「…仕事が忙しいのは分かるけど…今日くらいはゆっくりしなさいな。」
「…うん、お母さん」
取れない疲れを捨て去るために、ベッドに体を投げ出す。本を開き、空想に浸る。これが、マリーの楽しみの一つでもあった。
マリーは、夢見がちな少女であった。
今は亡き父は冒険家で、よく異国の話をしてくれていた。
「ボートの行き交う水の街に、美しい教会があった」
「一年中昼が来ない、夜の国で大きな城を見た」
「歯車でできた塔の国では、人形が命を宿していた」
そんな話を聞いているうちに、いつしか彼女も「幻想」とか「冒険」とかの言葉に弱くなっていたのである。
…ちなみに、父の名が高名な探検家として知られ、その冒険の伝説が人々に読み継がれるものとなるのは、まだ先の話だ。
そして、こんな時間には、マリーはいつも一つの空想をしていた。
「そう。この世界の中には、必ず運命の人がいるはずなの。」
十数年もの間抱き続けたその幻想は、彼女の心の中に根を張り、芽吹き、やがて色とりどりの花をつけ始めていたのだ。
「待っていたほうが良いのかな。それとも外の世界に飛び出すべきなのかな…」
そう言って、枕に顔をうずめるマリー。
「…ああ、未だ見たことのないあなた…。早くその姿を見せてください…。」
枕を縦に据えなおし、そのままぎゅっと抱きしめる。こうするととても幸せなのだ。
彼女にとって、この空想は生きる支えでもあった。頑張って生きていれば、いつか出会えるかもしれない…と。
「あっ。…寝ちゃってた」
はっと気が付くと、時計の針は三刻ほど進んでいる。…今日は本のこのページを読もうって、決めていたのに。
ページを繰っているうち、マリーはふと昨日の事を思い出した。
『このヤドリギ広場って、伝説にもある様に天使様の使いが来るかもしれないでしょ?』
…あの人は、明日もあの場所にいるだろうか。そして、そこに「天使様」はいるのだろうか?
ページを繰る手が止まった。ティルマの国を造った、偉い人のメッセージが書いてあった。
『他人事だと思っていたことを、私は実行してみただけだ』
「…!!」
マリーの頭の中に、ある「秘策」が生まれた。
それは、今まで「他人事」だと思っていたこと。それをするのは、自分じゃ無くていいと思ったこと。
…そして、奇妙なほどにうずうずしてしまうような、楽しい計画だった。
「…私が『天使』になればいいんだ…!」
【12月21日 星夜祭まで、あと一日】
…さあ、あなたも枕を抱きしめてみよう!
凄く幸せになれるのでおすすめですww