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おとぎ話

「「行ってきまーす!」」

 本部の扉を開き、売り子たちが街に繰り出していく。マリーもそれに混じり、ティルマの街並みの中を歩いていた。


 売り子は、基本的に自由行動だ。街を歩き、その場にいる…極力羽振りの良さそうな…人にものを売りつけるのである。

「おにーさん、何してるの?」

「…ああ、ちょっとそこまで」

 熟練の売り子に喰らい付かれたら最後、商品を買うまで離さないのである。哀れ餌食となった青年は、急いでいたはずの足を止めてしまっていた。


 彼女たちが努力するわけは、売り子の厳しい労働環境にある。タチの悪い出来高制の様なもので、月ごとに定められたノルマを超えなければ、給料は払われないのだ。

 マリーはたまにそれを果たすことができず、月末にお金を持ち帰ることなく、家にトボトボと帰ることもあった。

「先輩方の様な芸当はできないとして…とにかくノルマを果たさなきゃ…!」

 小さな手をぎゅっと握りしめ、マリーは歩みを進める。


 街路樹にはたくさんのランプが吊り下げられ、それに誘われた妖精などが淡い光を放って飛び交っている。路上では、ピエロが光の魔法を披露して観客を沸かせている。

 この時期、ティルマには光が溢れる。もともと「眠らない国」と言われる国ではあるのだが、星夜祭の時期はそれが一層強まるのだ。

 光の奔流の中を、マリーは流されていく。弱気なマリーには、流されるままでいることしか出来ないのである。

「わ…誰に声をかければいいの…?」


 ようやく人の少ないところにたどり着いたマリー。ヤドリギ広場と呼ばれる、さびれた公園だ。人はまばらだが、ちゃんと木の枝にはランプが吊り下げられている。

「あの、マッチ…買いませんか?」

 勇気を出して声を掛ける。相手は快活そうな女性だ。

「…あ、私?」

「…はい」

 女性は申し訳なさそうに、「ごめん、散歩だったから、今財布持ってないのよ」と謝った。

「…あ、すみません…。」

「…大丈夫、謝ることは無いわ。」

 …気まずい雰囲気が流れる。


「そう、明後日から星夜祭ね」取り繕うように、女性が話題を振る。

「はい…、私には、あまり関係のない話…ですけど…」

 人が集まる星夜祭。売り子にとっては稼ぎ時である。しかし、マリーにはそのチャンスをものにできるような能力も、勇気もなかった。

「…私は、楽しみね。このヤドリギ広場って、伝説にもある様に天使様の使いが来るかもしれないでしょ?」

 女性が続ける。

「子供のころ、一度だけ見たことがあるんだ。女の子が木の下に居るのを。…だけど、小さかった私は見ているだけだった」

 その伝説も今は廃れつつある。

「だから、この時期になると楽しみなのよ。」

「…はい」

 あまりみんな声には出さないが、やっぱり大人たちも星夜祭が楽しみなのだ。


「そう、伝説の類とか。そういうの好きなのよ私。妖精郷エディルーだって、いまだに信じてるし」

「…あ、それは…私もです」

 あの本に書いてある事だった。

「仲間…いたんだ。良かった」

 女性は嬉しそうに笑っている。


「さて、そろそろ私は家に帰るよ。お仕事の邪魔して悪かったねぇ」

「…いえ、大丈夫です…。」

 肝心なところで、人の目が見られないマリー。

「星夜祭の日には…またこの広場に遊びに来てると思うよ。またね、かわいい売り子さん♪」

「…はい!」

 女性と別れを告げ、仕事に戻るマリー。その表情は晴れやかだった。


エディルーは…

うん。ワンダーランド的なものだと思ってください(*'▽')

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