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マリーのお仕事

 マリーの家は貧しかったので、彼女は働かなくてはならなかった。

「さて、今日の仕事をはじめなきゃ」

 彼女の仕事は売り子である。日々、マッチ等の小間物を売って周り、会話でお客さんを楽しませる。ここ、芸能の国ティルマでは一般的な存在だ。


 煌びやかな光の漂う街のなかを、マリーは歩いていく。

 彼女は美しい顔立ちをしているが、売り子にとって大切な「社交性」「明るさ」という部分に関しては、周りの女の子に引けを取っていた。

「…わたしは地味だから…先輩方には追いつけないなぁ」

 それでも、マリーは懸命に働いていた。

「…ま、マッチはいかがですかーっ」

 …街のあちこちから聞こえてくる会話や音楽に、彼女の声はかき消された。声が小さいのも、彼女の弱点である。


 その日の売れ行きは不振だった。

 行き交う人々は、マリーに目もくれず道を急いでいる。しかし、そんな人たちも、熟練の売り子である先輩たちの前ではつい足を止めてしまう。マリーは、彼女たちにいつも仕事を横取りされているようなものだった。

「…今月のノルマ…あと半分以上もある…。もう月末が近いのに…」

 12月19日。月末まであと一廻りである。なんとしても、今手元にあるマッチを売らなければ。


 街から少し離れた、湖のほとり。そこに、マリーの家はあった。

 家に帰ると、兄と母も仕事を終えて帰ってきてきた。

「…マリー、元気なさそうだな」

「…大丈夫だよ、お兄ちゃん」

 本当か、というような顔をして、それっきり。兄は自分の作業をするために、部屋に閉じこもってしまう。あまり人には興味のないタイプの男である。


「全くあの子は…。本当に大丈夫なの?」

 対して母は、親身になって話を聞いてくれるタイプ。しかし、根掘り葉掘り聞かれることに関しては、マリーはあまり好きではなかった。

「…ちょっと大変だけど…もう少し頑張ってみる。その気になればいつでも仕事は変えられるんだし」

「…無理はしないでね、マリー。母さん、できる限りの手伝いはしたげるから」

 …一瞬、売り子として働く母の姿を思い浮かべて、心の中で少し笑ってしまう。

 もう、今笑ったでしょと言って、母が夕食のスープを出してくれた。器に触れると、ほんのり温かい。


 夕食を終え、湖で水浴びを済ませると、マリーは自分の部屋に戻った。古くて埃被った本棚から、一冊の本を取り出す。

『ティルマ国 物語集』

 歴史的な出来事と童話をごちゃ混ぜにしたような伝記。マリーは、亡き父から貰ったこの本を、毎日読んでいた。

「…この本、何度読んでも飽きない…。父さんが、魔法でもかけて行ったのかな?」

 そう独り言を漏らして、マリーは微笑んだ。


 今日読んだページは、この国特有の文化についてだった(…もっとも、この地で生まれ育ったマリーにしてみれば、至極当たり前の事ばかり書いてあったのだが)。

『星夜祭は本来、大陸の向こうにあるキール国の祝祭です。我が国では星が降ることはありませんが、代わりにたくさんの明かりで星を再現し、一年の終わりを祝います。』

 ページをめくる。

『また、この国の信仰の象徴であるヤドリギの街路樹にはランプが下げられます。その下に居る少女は天使の化身とされ、キスをすることで次の一年を幸せに過ごすことが出来ると言われています。』

「そういえば…もうそんな時期だなあ。私には関係の無い話だけど」

 そろそろ眠らないと。マリーは手元のランプを消して、毛布の中にもぐりこんだ。


 星夜祭。冬の始まりと、一年の終わりを祝い、また天使や空の精霊に祈りをささげる祝祭。

 聖なる夜をめぐる新たな物語が、始まろうとしていた。


【12月19日 星夜祭まで、あと三日】

スタートです(^^♪

ご期待ください!

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