究極の選択
山賀新太。それが盗賊達に<黒髪の白いオーク>と呼ばれた男の元の世界の名だ。しかし、呼び込まれたこの異世界<テラール>では強力な呪術の普及もあり、実名での活動は忌避されている為、ここではサンガ・ニッタと名乗っている。
ニッタは息苦しそうな鼻呼吸をしながら部屋をぐるりと見回すと、女性が一人しかいない事に気付き大きく落胆する。
しかし、そのたったひとりの女性が思うよりも外見が優れている事に気付き、すぐさまモチベーションを復活させた。
「何キョロキョロしてんだ!」
盗賊の中の気が短い男が叫びつつニッタに襲いかかる。それに便乗して同時に三人が囲むように突撃を仕掛けた。
鈍い音が複数響き渡り、確実に致命傷のダメージを与えたと喜ぶのも束の間、四方からの攻撃を受けつつもニッタは平然としてベフェリアを眺めていた。
「お前がここのボスでプね?」
「な、なんだこいつ!? 利いてないのか??」
「ば、バカ野郎! 言ってねえで袋にしろぉ!!」
更に数人追加して袋叩きに合うも、まるで何事もないかの如くニッタはベフェリアに歩み寄る。
「おおお!! 倒れろ! 倒れろよおぉぉ!!」
「死ねェ! 死ね死ね死ね死ね・・・な、なんなんだよ!! 何で死なねェんだよっ!!」
その異様な光景に、流石のベフェリアも数歩後ずさりを余儀なくされた。
「ば、化け物か?」
「モンスター呼ばわりした上に今度は化け物扱いでプか。まあ、いいでプが。・・・そろそろ鬱陶しいでプね」
粘着質な発言と同時にニッタは両手を左右に広げると、指輪に刻み込んである魔方陣を発動させる。
「う、ぷあああ!!」
両手から大量の水が噴出し、囲っていた盗賊たちを吹き飛ばす。
ベフェリアは一瞬の判断で後方に飛び、テーブルを傘に水を防ぐ事に何とか成功した。
バチン!!
一瞬の出来事だった。
「が!」
「ぎぃ・・・!」
濡れた所に強烈な電撃が見舞われ、結果、濡れる事を防いだベフェリア以外は一斉に地にひれ伏す事になった。
「!? お前らっ!!」
一瞬にして自分以外が全滅するという状態に半ば呆然となるベフェリア。その余りの状況に魔導剣イクスランゲルを取り落としそうになったが、逆にその事により自分が武装している事を思い出す。
「コフー。人を襲う真似をして、返り討ちに合う覚悟は勿論出来ているのでプよね?」
「う、うわああぁ!」
余りの恐怖にベフェリアは魔導剣イクスランゲルを振りかぶり、ニッタに襲いかかった。
ベフェリアは<軽身>と<瞬発力増加>の2つの天恵・・・いわばスキルを持ち、鍛え上げた剣技を用いてすべての敵を凪ぎ払ってきた。
その力は圧倒的で、常に自分が奪う側だと大いに勘違いをしてしまうほどであった。
ぱし。
「ずいぶんと軽い攻撃でプね」
あっさりと素手で魔導剣イクスランゲルを受け止められ、グイと引き寄せられる。
「本気を出してもう一度でプ」
至近距離でそう言われ、ドッと血の気が失せる。到底敵わないことをこの瞬間ベフェリアは理解してしまった。
「な、何が望みだ」
「コフー。もう降参なんでプか? 何だったらもう一度、みんなを叩き起こして仕切り直し「何が望みだ!!」」
被せぎみに再度問われ、ニッタはそれならば、と思いきって言ってみる。
「1度抱かせろでプ」
「ふ、ふざけるな!! 気持ち悪い!!」
即答だった事に多少落ち込むニッタだったが、珍しい反応ではないので、直ぐに立ち直る。
「では、全員国に引き渡しでプね」
「ぐっ・・・ここに有る物なら全部持っていっていい! みっ・・・見逃してくれ!」
「いらないでプ。見逃さないでプ」
お返しとばかりにゼロレスポンスでニッタは返す。
「もう一度言うでプ。人から奪う事をして、自分が奪われる覚悟はしてなかったでプか?」
「ぐ、仕方がなかったのだ」
「あ、そういうのはいいでプ。いらないでプ」
「うぐっ」
言い訳を瞬時にシャットアウトされてしまい二の句が告げられなくなってしまう。
「二つにひとつでプ。ぽくに大人しく抱かれるのと、国に引き渡されるの。どちらかでプ」
ベフェリアはフラりと足元をおぼつかない様子で後ずさる。
抱かれるのは嫌だ。目の前の男は全身全力で生理的に受け付けない容姿だ。いちいち行動も動作も気持ち悪い。だからといって国に引き渡されれば、全員斬首か奴隷落ちが決定されるのは眼に見えている。
究極の選択を迫られるベフェリア。迫る側のニッタはニッタで(う◯こ味のカレーとカレー味のう◯こをリアルで選択される気分でプかね)と自覚しつつ自虐的に返答を待つ。
(気を付けろでプ。片方はカレー味でプが、実質う◯こでプよ!)
ニッタは最低な変態ではあるが、最低限の選択の余地は相手に与えることにしている。
これで死を選ぶ選択をするならば実は何もせずにここを離れるつもりでいたりもするのだが、それを教えてやるつもりはない。ニッタはニッタで、とある理由から彼女を抱く必要があるのだから。
ベフェリアはしばらくの間黙考し、自分の身と、自分を含めた団員の命を秤にかけた。
ゴトリ。と音を立て魔導剣イクスランゲルが床に落ちる。
「好きにしろ・・・」
静まり返った部屋にベフェリアが小さく呟いた。