scene8 赤面蒼白
町の解放を目指してFOCにゲリラ戦を仕掛けた一行。しかし、サムが大量の戦闘員を引き連れて合流したため作戦は破綻、3人はそのまま追い立てられていた。
「とにかく!まずは後ろの奴らをなんとかしないと捕まっちゃうわよ!」
「ああ分かってる!こうなりゃ魔法をブッ放すしかないよな!」
「そうだね、でも基本魔法の威力じゃ一掃できないだろうから改変魔法を使おう」
「基本の次は応用か、どうやるんだ!?」
「こうするのさ!」
そう言ってヴァイティーは立ち止まり、振り返ると同時に剣を振った。光の剣筋が巨大な斬撃となり、閃光を放ち、雷が落ちるような轟音と共に突き抜ける。戦闘員達は大半が蒸発し、残った一部も黒く焼き付くされていた。
「……ふぅ」
「なるほど、そういう事か」
「今ので分かったの?」
「ああ、何となく掴めた気がする」
「凄いじゃないか、おかげで説明する手間が省けたよ」
「早速試し撃ちといきたい所だが……あれだけ派手だったのに追っ手が来ないな」
「もしかして、さっきので全員倒してたとか?」
「それはどーかな」
3人の話す声は違う声が混ざる。咄嗟に声のする方向を見ると、そこには奇抜極まりない装いの少女がいた。
「誰!?」
腰に手を当て、仁王立ちで3人の前に立ちはだかる中学生程の少女。彼女の右側は鮮やかな紅の髪、真紅の瞳、高熱を発しているかのような赤い肌、明るい茶色のブレザー、ピンク色のスカート。対する左側は光が刺さるような銀色の髪、蒼い瞳、死人のように白い肌、白いセーラー服、水色のスカート。ネクタイは中心から赤と青に分かれた色。まるで違う人間を真っ二つにして無理やりくっ付けたかのような姿だった。
「FOC特殊戦闘グループ『白の御三家』が1人、そしてこの町の支配を任された首領。真紅の心と白銀の魂が融合して生まれた、奇跡のガール……その名も!」
その場で1回転のスピン。続けて胸の前で腕をクロスさせ、裏向きのダブルピースを見せつけた。そして
「ベルージュ!!」
バッチリとポーズを決めたベルージュは、その体勢を維持しつつドヤ顔で3人の反応を伺う。唖然としている3人を確認すると、ポーズをやめて話しかけた。
「やったー!噛まずに言えたし、ポーズも完璧!!すごいでしょ?ねぇすごいでしょ私!?」
「は?」
「何なの、この人……」
「反応が薄い!まいっか、そこはどーでもいいし」
「私達に反応を求めた事が間違いだったね」
そう言いながらヴァイティーは突進し、攻撃を仕掛ける。ベルージュは右腕で防ごうとするが、斬撃はそれをすり抜けた。
「なに……っ、うああ!」
「ん、意外だね。何の対策もしてないとは」
神経毒で身体の自由が効かないベルージュに、第二撃を振り下ろす。無慈悲な光の刃が眠りへと誘い、彼女は瞬く間に昏倒した。さらにトドメを刺さんと、ヴァイティーは詠唱を開始する。
「異の刃にて執行。汝の命、不浄と共に散れ……」
「ちょっと待て、こんな簡単に終わるハズが」
「クリアブレード!!」
「おいっ!」
詠唱が完了し、輝きを増した光の刃は透過する事なくベルージュを真っ二つに切断。綺麗に分断されたが、断面は桃色で塗り潰されていてよく分からない。
「あっけなかったね。これで町は解放された」
「やったね、サム!」
「……」
下っ端の戦闘員とは明らかに違う者が、こんな簡単に倒せるのか?サムは疑問に思っていた。そして半分になったベルージュのある点が気になる。
「なあ、大量にいたFOCの奴らは盛大に黒い血を撒き散らしてくれたよな」
「……サム?」
「しかしコイツは、真っ二つにされても血が出ていない……」
「サム君それはっ」
ヴァイティーが振り向いた瞬間、ベルージュの半身が磁石のように引き寄せられ、ヴァイティーを挟んで拘束した。
「ヴァイティーさん!?」
「やっぱり分離できたのか!」
「アハー!危険な魔力はお持ち帰りしまァす!!」
ベルージュの半身はヴァイティーを挟んだまま一部を合体させ、魔力を根こそぎ奪い取る。吸収が終わると、ベルージュは再度分離して元の姿に戻った。拘束を解かれて膝をついたヴァイティーに、ルナが駆け寄る。
「うっく……」
「ヴァイティーさん!大丈夫ですか!?」
「死にかけた訳じゃないけど、魔力を持っていかれては戦えそうにないね……」
ヴァイティーの剣、その光の刃は使用者の魔力を糧とし、様々な成分に変換して展開される。従って、使用者の魔力が無くなると刃も消えてしまうのだ。
「結構な量だー……すぐに使わなきゃ邪魔になりそうなくらいたくさん!早速使ってみようか!」
「攻撃が来るか……!」
ベルージュは右手をパーの形にして突き出し、左手を添えた砲撃のポーズを取る。そして右手から光の弾が発射された。
「エダン!」
火球と光弾の衝突。爆発で発生した黒煙により、視界が遮られる。
「この状況、何とかできる方法はありますか?」
「いくつかある……隠れ家に戻る事ができたらね」
「それに賭けましょう」
「おはなしキャンセルーッ!」
話を遮るかのように煙を吹き飛ばし、攻撃を仕掛けてきたベルージュを、ルナがバトンを盾代わりにして防ぐ。バトンを奪い引き剥がそうとする力とそれを押さえる力が拮抗する中、ヴァイティーは後ろに向かって走り出した。
「ここは私に任せろってヤツー?」
「そうとも言うかも……ね!」
ルナはあえてバトンを手放す事でベルージュの体勢を崩し、腹部に蹴りをお見舞いした。攻撃を受けバトンを落とした一瞬の隙を突いて、さらに顔面へ右ストレートを放つ。正拳突きがヒットしてもベルージュは倒れず、よろめいて後退するだけだった。
「っくー……」
落ちたバトンを拾いあげ、サムの方へ近づいて
「サム、今の話聞いてた?」
「聞いてないけどだいたい分かったぜ、俺とルナの2人で奴を倒せって事だな!」
「えっ……ええ、そうよ!倒すのよ!」
2人は横に並び、得物を眼前の敵へ向けた。
第二ラウンドが始まる……!