scene7 攻勢
「ギャア”ア”ッ!?」
FOCの戦闘員を見るなり、サムは無言で抜刀。勢いをそのままに逆袈裟斬りを放った。不意討ちを避けられなかった戦闘員は腹部を斬られ、仰向けになって倒れる。苦悶の表情は仮面で隠されているが、腹部の深い傷口から黒い液体がどくどくと流れており、それを両手で必死に押さえていた。余計な悲鳴を上げる前に首を叩き斬って黙らせる。そして次の相手を探して走り去った。この暗く狭い路地裏には、凄惨な人型の死体……それすらも融解して黒い液体の跡しか残らない。
「何か聞こえなかったか?」
「俺は何も……あ」
屋根からの奇襲、直撃した戦闘員は潰れて黒い液体を撒き散らす。着地したサムはすぐに体勢を変え、残った戦闘員に攻撃を仕掛けた。
「うおりゃァ!」
サムの放った一撃を、戦闘員は左手で受け止めた。剣がめり込み、腕が肘まで裂ける。
「素手だと……!?」
「お前は、昨日死にかけで転がってたガキじゃねーか……フン!」
刺さった剣で左腕が切断されるのもお構い無しに、戦闘員はサムの顔面に回し蹴りをお見舞いした。そのまま吹き飛ばされて地面に頭を打つサム。戦闘員は勝ち誇った様子で近づいてくる。
「ハッ!雑魚め、トドメを刺してやる」
「痛ってぇ……なァ!!」
慢心した戦闘員に剣を投げつけた。剣は仮面に当たり、上に弾き飛ばされる。
「ぬおぅっ!?」
戦闘員が怯んで仰け反った隙をサムは逃さない。ジャンプして空中の剣を掴み、着地と共に戦闘員を真っ二つにした。
「敵だ!」
「反逆者め、覚悟しろ!」
「……ここは退く所だな」
騒ぎを聞き付けた戦闘員の数名が応援に来たようだ。サムは建物の窓の縁を踏み台にして屋根を越え、姿を眩ます。
「あっちに行ったぞ!」
「奴を絶対に逃がすな!」
サムの追跡に躍起になり、声を荒らげて走り回る戦闘員。一方、
「この様子だと、魔法で戦っても良かったんじゃないかな……」
空き家で待ち伏せしているヴァイティーはそう呟いて、静かに武器を構えた。柄と鍔だけだった剣から青白い光が放出され、トランプのダイヤに似た形状の特異な剣身を作る。そして狙ったかのように戦闘員が空き家の扉を蹴破って侵入してきた。
「白髪のガキはどこだ……はうっ!」
待ち伏せに成功。光の斬撃が戦闘員を無力化させる。しかし戦闘員に傷はない。ヴァイティーの持つ剣、その光の刃は相手の肉体をすり抜けて異常を与えるのだ。今、戦闘員の身体は神経毒によって自由を奪われている。
「貴様っ……俺に何を……!?」
「理解しなくていいよ」
ヴァイティーは意識を残して動けなくなった戦闘員を引きずり、トイレに持って行った。蓋を開けると、戦闘員の頭を掴んでそこに叩き込む。
「うわーっ!?ああああああああっ!」
何も言わずにレバーを引き、奴は黒い何かに飲み込まれていった。
「悲鳴がうるさい……考えてなかったな、次からは他の手で始末しよう」
蹴り飛ばされた扉の残骸を外に投げ、空き家から出ていこうとする。しかし後ろから戦闘の音が聞こえてきたので、彼女は便器を上手く足場にしてトイレの窓から脱出した。
「そりゃア!」
「……っえぇい!」
ルナは正面から飛んできた拳をバトンで受け止め、戦闘員の顔に連続で殴打を加える。殴られた戦闘員は黒い液体を四散させて倒れるが、すぐに別の戦闘員が横から蹴りを入れた。脇腹にダメージを受けたルナは民家の壁にもたれかかり、包囲する戦闘員達を睨み付ける。
「くぅっ……!」
「数で劣る癖にわざわざ散らばりやがって、我々に勝てるわけないだろ」
「フフフ……コイツは捕獲して奴に引き渡すとするか」
「そうだな、この小娘は良い素材になってくれるだろう」
多数の戦闘員がルナを拘束しようと近づいた。ルナはまだ戦えるだけの力が残っていたが、ここまで追い詰められると抵抗しても無駄だと悟り、ただ戦闘員達を睨む事しか出来なかった。が、捕縛は失敗に終わる。
光の刃が突き抜け、戦闘員達を切り裂いた。すると奴等は膝をついて苦しみ始める、毒だ。
「何だと……!?いつのまに仲間が」
「眠れ!」
行動を起こす前にヴァイティーは戦闘員達の間を縫って全員に光の刃を叩き付けていく。攻撃を受けた戦闘員達は昏倒し、起き上がらなかった。
「ヴァイティーさん……!」
「大丈夫……じゃなさそうだね。どこかに隠れて治療しようか」
ルナの手を引いて立たせた所で、騒音が近付いてくる。1人の男と、それを追う大群。サムが多数の戦闘員を連れてやってきた。
圧倒された2人は流されるように走りだす。
「作戦変更だ!まったく凄い追跡能力だぜ」
「ちょっとサム!どういうこと!?」
「次の作戦は高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に!」
「要するに行き当たりばったりという事だね」
「何なのよ!ねぇ!作戦って?」
「ああ!」
「聞いてよ~!」