scene4 その名は「死」
町の入り口に辿り着いたサムとルナ。
しかし、町を囲む白い壁と鉄の落とし格子、そして門番らしき2人に阻まれる。
門番は全身黒タイツに白黒の仮面と、明らかにこの世界には合わない姿だった。
「あんな人、町にいたかしら?」
「……そうか、アイツら敵だぜ」
「えっ?」
「ドダン!」
不意打ち気味に放たれた岩の塊が、門番の1人を壁に叩きつけ、圧殺する。その壁には黒い液体がベチャリと付着していた。
その光景を見たもう一人の門番が、サムの方を向く。
「貴様ッ!」
「ラダン!!」
電撃を発射するサム。門番は反応が間に合わず被弾、膝をつく。
「ぐっ!?」
「手加減はできないが、これは死ぬ程の威力じゃないだろう」
「ちょっとサム!何やってるの!?」
ルナが制止に入る。彼女からしてみれば、サムがいきなり門番を殺し始めたのだから無理はない。
「コイツらは世界征服をやってのけた悪の軍団だ」
「いかにも。我等はFOC、フォース・オブ・カオス。この世界を混沌に陥れるため、この町は勿論……大都市や隣国に至るまで全て制圧、支配した。」
「嘘でしょ……」
「残念だがコイツの言った事は真実だ、辺境の地域は見逃していたみたいだがな」
サムは落とし格子の前まで進み、門番を見る。
「とりあえず、ここは開けてもらうぜ」
「いいだろう……その目で我等が支配する様を見ると良い」
門番の下に魔方陣が現れ、門番は吸い込まれるように姿を消す。すると落とし格子が上がり、町への入り口が開いた。
2人は町の中へ入っていく。石積みの屋根と白い壁で出来た建物が並ぶ、普通の街並みだ。しかし、歩く人々の雰囲気は暗く、門番と同じ姿をしたFOCの戦闘員が闊歩している。
「みんなFOCに監視されて、不自由な生活を強いられてるという事ね……」
「そうみたいだな、こんな状況だと店は使い物にならないか」
通りを歩いていると、フード付きの黒いローブを着た男が目の前に現れた。フードの奥では白黒の仮面が不気味な笑みを浮かべている。
「あなたは……FOCね」
「そうだ、私はFOCの頂点にいる」
「つまりお前をブッ倒せばいいんだな!コダン!!」
サムが展開した魔方陣から光の槍が撃ち出されるが、それはローブの男を避けるように曲がり、サムに突き刺さる。
「ぐあぁっ!?」
「実に無謀だな。私を倒すなど世界の誰も出来なかった事、お前に出来る訳がない」
壁にもたれかかり傷を押さえるサムに、ルナが駆け寄る。
「サム!?しっかりして、サムっ!!」
「駄目だ……逃げ……っがああああ!」
さらに光の槍がサムに突き刺さる。普通ならどう考えても死亡する出血量だが、彼は張り付けにされたまま生きている。いや、奴に生かされている。
苦しみ続けるサムを目の当たりにしたルナは、恐怖に満ちた表情でローブの男を見る、見た所でどうする事もできない。次の瞬間、奴はルナの目の前に居て、ルナは首を掴まれて持ち上げられていた。
「嫌っ……離して……!」
「あれはサムと言ったか。彼とはまた違う生き地獄を貴様に見せてやろう」
ローブの男は拘束から逃れようとするルナの首を軽く絞めた。彼女の瞳は虚空を見つめ、もがいていた腕がだらりと垂れる。
動かなくかった身体を少し揺らすと、ローブの男は絞めている手を緩めた。
「うぅっ!?」
するとルナは動き出して、首を絞めている手を振りほどこうとする。ローブの男はまた首を絞めた。
「あっ……」
また動かなくなった、手を緩める。
「離してっ……!」
動いた、絞める。止まった、緩める。動いた、絞める。止まった、緩める。動いた、絞める。
生き返らせて、殺す。
蘇生して、殺す。
生かして殺す
生かして殺す
生かして殺す
生きてた、死んだ、蘇生した。
「いや……やだ……やだ……ゆるして……やめて……あっ……やだ……あっあっ……」
ローブの男はルナを投げ捨てる。彼女は生きているハズだが、その瞳に光は無かった。
苦痛を受けながらもはっきりと見ていたサムに、奴はこう言い放つ。
「『コレ』はもう自分が生きているのか死んでいるのか、分からないようだな」
「ッーー!!!」
サムが怒りで行動を起こす前に、脳天に光の槍を刺された。そして光の槍が消滅し、血まみれの男が地面に転がる。
「ゆる……さ……ねぇ……」
「仇ついでに教えてやろう、私は死。死と生を操る者だ、復讐したければ覚えておけ」
サムの意識が途切れた。
「私に挑む無謀さは買ってやろう。お前は泳がせてから殺す……その時までに、せいぜい力を付けておくんだな」