scene3 緑を抜け、町へ
植物の魔物を倒し、森の出口に向かって進むサムとルナ。
行く手を阻む魔物は、キャプラントだけではない。
毒々しい紫色の丸い胴体、前方に出っ張った黒い傘、つり上がった目、靴のような足……新たな魔物が2人の視界に入った。
「あのモンスターは……何だ?」
「あれは怒キノコね。好戦的な魔物で、睨み付けて目から毒霧を発射してくるわ」
「厄介だな、毒が効かなくなる魔法とかないのか?」
「さあ?解毒の魔法はあったと思うけど」
そう言ってルナは袋から本を出してサムに渡す。
まさしく辞書といった雰囲気の、分厚くて鈍器になりそうな本だ。
「基本魔法典……」
「念じれば使いたい魔法のページが開く魔法をかけてあるの、活用して」
「ああ。武器が手に入るまでは、こいつで戦わせてもらうぜ」
早速サムは左手に本を持ち、試しに解毒の魔法が載っているページが出るよう念じる。独りでにページがめくられていき、目当ての魔法が載ったページでピタリと止まる。
「『ポイデリ』魔方陣の中にいる対象から毒素を消滅させる解毒の魔法……魔法1つにつき1ページか、そりゃ分厚いわけだ」
怒キノコがこちらを向く、気付かれたようだ。
ルナはバトンを構えて数歩前進し、サムの方を見る。
「私が前に出るから、サムは援護してね」
「ルナが囮になって俺が倒すんじゃないのか?」
「……とにかく、私が前でサムが後ろ!」
「おうっ!」
サムの返事が戦闘開始の合図となった、ルナと怒キノコは互いに走り出して接近する。
先に仕掛けたのはルナ。大きさ30cm程度の怒キノコに攻撃を当てるため、姿勢を低くして薙ぎ払う。
怒キノコは跳躍し、それを回避した。さらに空中で反撃の体勢をとり、右足を突き出してルナに飛び蹴りを放つ。
「ッ……!」
「ドショウ!!」
ルナは横に転がって攻撃が当たらない位置に出る。さらに彼女がいた場所に魔方陣が出現し、地面が隆起する。攻撃を止められない怒キノコは突き飛ばされた。
「勢いのあるキックに逆の勢いを持つ攻撃を衝突させた。コイツは効いたハズだぜ」
彼の予想に反して、怒キノコは立ち上がる。そしてサムを睨み付けた。
「毒霧が来るわよ!」
「させるかっ、スダン!」
毒が放たれるより速く、水の塊が飛来し怒キノコの目を覆った。水は禍々しい色に変色して消える。
「毒霧を水に吸わせたのね」
「ああ、これで奴のメンチ霧は不発だ」
攻撃が当たらず、得意の毒霧すら無効化されてしまった怒キノコ。激昂してヤケになったのか、サムに突進する。
「フセン」
前方に出現させた魔方陣から風が吹き出す、それでも怒キノコは走り続けて風に抗う。そして突風を切り裂いてサムに体当たりした。
「何ッ……!?」
「サム!」
威力は不十分だったが、予想外の一撃が慢心していたサムに尻餅をつかせる。最後の足掻きで力を使い果たしたのか、怒キノコはそこから動かず、駆け寄ってきたルナのバトンに殴り飛ばされて森の奥に消えた。
「あの野郎、なかなかやるじゃねーか」
「油断しちゃダメよ!」
困難が去り、2人はまた歩き始める。
途中で何度も魔物が現れて交戦するが、その度に勝利して経験を積む。もはや2人の敵ではなくなっていた。
そして森を抜ける。そこには青い空、広がる緑、遠くに見える町……までは良かったが、草原でも魔物が闊歩していた。
「変ね……草原の魔物は町の人が狩っているハズなのに」
「町で何かあったのか?」
「……行ってみましょう」
草原の魔物達を蹴散らして、2人は町へと向かう。