第4回 「その先の自分」
第4回 「その先の自分」
桂木 竜。この世界に唯一無二であって、それが俺だ。
イジメは何故、俺を標的にしたんだろうか?
もうそれすらが、どうでも良くなってきた・・・。
たまたま、や。めぐり合わせ、自分の所為。
人はどうして、順位をつけなければ生きれないのか?
勝手な判断で勝手に結論付けて、俺はいじめられた。
いじめる奴の気持ちなんて、分かりたくもない。
そいつ一人に、何かされるなら・・・。それはまだ、俺の理解の範疇だ。
ただ、こいつらは集団で俺を殴り、集団で俺を省いた。
一人じゃ何も出来ない。それで、集団で俺を・・・。
だから、俺はこいつらに殺意を抱き、それがストレスに変わった。
憂鬱と言うべきか。それは空蝉のような、孤独を背負って回り続けた。
はるか前の話。俺がいじめられる前・・・。
東 駿佑、米田 慶吾、渡部 礼二、佐東 大樹、戸田 義夫、黒木 恭平。
元友達。5年以上の付き合いも、1日で・・・いや刹那の時間で幕を下ろした。
力で抑える分には、簡単なんだろうな。でも、それで解決する程、小さな傷でもなかった。
あいつら以上に、慣れ親しんだ空手。
怒りに身をまかせ、殴れば良かっただろうか?
後悔はない。復讐なんて、カッコイイ響きもない。
今の俺が、そうやって感じるか?
脱力感に包まれ、拳を地面に叩きつける。それしか、出来なかった。
一人孤独に考える程、闇に呑まれていく。
俺は気分を変える為、答えを見つける為に、道場に向かった。
俺が5歳の頃から通った道場。空手は中学に上がる時に止めた。
道場の前まで来ると、志気のある声が室外に漏れている。
考えてみれば、中学生になったと共に、俺は様々なものを失った。
道場の戸を開ける。かつての面影も少しあったが、ほとんどが変わってしまった。
だが、師範だけは相変わらずだった。
見た目の印象は、まさに優男だ。でもその拳の重さ、俺は知っている。
「やぁ。竜君じゃないか・・・。」
この人は、大阪の人間じゃない。確か関東出身と言っていた。
「・・・久々に、稽古お願いします!」
原点に戻ってみた。そこに、何かあるかと思ったから。
1時間程、体を動かした。昔みたいに、機敏な動きは出来なかった。
この道場は基本自由で、従来の空手でもスポーツ空手でも、関係無かった。
俺はステップが苦手で、腰に重心を置き重い突きを繰り出す、従来の空手を選考していた。
師範も俺と同じタイプで、ほとんどの稽古が俺と師範、と2、3人でやっていた。
久しぶりの道着は、新鮮そのものだ。
流れる汗もそのままに、俺はミットにひたすら打ち込んだ。
すぐに息が切れた。3年のブランク、大きいようだ。
稽古を終え、汗を拭いていると、師範から声を掛けられた。
「どうだい?久しぶりに試合でも・・。」
この笑顔は、お気に入りの新人でもいるんだろうか?
「いいっすね。やりましょ。」
対峙した瞬間、それは明らかな形となって、俺を押し付けた。
威圧感。その一言だ。
「最初に突きでも蹴りでも、決めた方が勝ちだ。」
そう言った瞬間、師範はすごいスピードで、俺の懐に入ってきた。
深い姿勢から、正拳突きが繰り出された。
まぁ、慣れたものだ。ここで防御に移れば、負けてしまう。
俺は左手で受け流し、有無を言わさず拳を突き立てる。
当たった。そう思った瞬間だった。
「残念。」
俺の足に、力の篭っていない蹴りを喰らった。
チョン、と。カッコ悪い擬音が似合うぐらいだ。
「・・・はぁ、負けました。」
俺の突きは見事に防御され、道着にさえ掠っていなかった。