第3回 「理想郷」
第3回 「理想郷」
目が覚めた。不意に広がる視界には、見慣れた世界が広がっていた。
「・・・よく寝れた?」後ろに、人の気配がする。
振り返るとそこには、知らない女の人がいた。
「・・・え・あ、どうも。」普通この状況で、見知らぬ女の人がいれば戸惑う。
「私、篤志の妹やんか・・。忘れた?美香やで?」
・・・・・・。あぁ。妹さんか・・。
窓から見える、外の風景はネオンが輝く理想郷のようだった。
篤志さんの妹さんと言う事で、話は弾んだんだと思う。
真っ暗だった夜空が、適度な明るみを帯びて、もうすぐ朝を迎えようとしていた。
美香さんが冷蔵庫から、酒とつまみを持ってきた。性別は違えど、酒は国境を越える。
俺は今日、それが実感できた。
酔わないように、チビチビ飲む。500mlで3時間持った。
その分、つまみを大量に食べた。柿ピーを5袋も開けた。
それにしても懐かしい。この場所は、俺の唯一の居場所だ。
理解者が居て、俺を必要としてくれる。
甘えなのかもしれないが、それだけが俺の心を癒す術なんだ。
孤独な俺には、それが暖かく気持ちよかった。
そんな時だ。篤志さんが仕事を終え、3階に上がってきた。
・・・というより、なんで俺はここにいるんだ?
そうだ、思い出した。俺は篤志さんと飲んでたんだ。
「おぉ、竜。起きたか・・・。まぁ、今夜はゆっくりしていき。」
入ってきて同時に、俺を見てそう言った。
まるで、俺が家に帰りたくないのを知っているように。
「じゃ、今日は泊まらしてもらいます。」
俺はしばらく、篤志さん達と語った。バーの経営とか、何故事務所があるのかとか。
1時間もしないうちに、美香さんがダウンした。
俺は眠気覚ましに、メンソールの効いたタバコに火を着けた。
もうその頃には、朝日が部屋に指し込み、部屋が電気もいらないぐらいの明るさになった。
ここにいれば、時間すら忘れなれる。
俺にとっての、居場所なんだと。心に焼き付けた。