第2回 「闇夜に凍える月」
第2幕 「闇夜に凍える月」
今宵の月は妖しく輝き、肌寒さはより一層増していった。
俺は家に居たくなかったから、深夜2時という時間にもかかわらず、ある場所に向かった。
猫はというと、俺の襟元から前足と頭だけ出して、行く先を見据えていた。
耳に掛けたイヤホンからは、寂しさを誘うバラードが流れている。
俺は闇夜に黄昏ながら、ひたすら歩いた。
とても、5月とは思えない寒さの中、遠くにあるネオンを眺めた。
電灯が不気味に照らしている。
田舎道特有の凹凸も、俺にとっては慣れたものだ。
30分は優に歩いただろう。
やっと見慣れた田舎の風景を抜け、そこよりはまだ都会に見える場所だ。
3回目の四つ角を抜けると、そこに目的地がある。
4階建てのビルで、1階は倉庫で2階はバー。3階は事務所で、4階は知らない。
2階までエレベーターで上がり、ジャズの音が漏れている扉を開けた。
黒を貴重とし、青いライトに照らされた店内は、まさに妖しかった。
「いらっしゃい。お前が来るなんていつ以来や?」
懐かしい声が聞こえた。カウンターで、コップを拭きながら聞いてきた。
この人は、佐々原 篤志さん。俺の親父の友達の子供だ。
もう10年来の付き合いで、今は無き親父の最初で最後の弟子でもあった。
弟子と言っても、料理の技術を教えていただけだ。
その所為もあって、6歳の年の差があっても、俺と篤志さんは仲がいい。
篤志さんには、妹がいる。俺の1つ上で、高校生だ。
確か、美香だったと思う。
篤志さんも美香さんも、物凄く明るい。
俺とは対照的で、何故か俺の親父に似ていた。
まぁ、諸々の事情なんて無いとは思うが、何故かそうだった。
「久しぶりっす。もう、3年になりますね・・・・。」
親父が死んでから3年。俺はここに来てなかった。
「いい加減よ、敬語やめろよ。堅苦しいなぁ・・。」
「今更、変えるんも面倒っすよ。」
そうだ。10年貫いたんだ。今更変えられない。
その後、しばらく他愛も無い会話をした。
篤志さんの奢りで、軽くお酒も飲んだ。
酔った所為か、なんだか眠くなった。俺は体が赴くままに、カウンターで眠った。