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冬の童話祭2017『季節巡る国の童話』

ぐうたら女王とハミングバード

作者: Win-CL

 それは――王国に残る、古い古い言い伝え。



 とても昔から、この国のどこかには

 それぞれの季節を司る四人の女王が住んでいて


 国に一本だけそびえ立つ『四季の塔』に交代で暮らして

 春夏秋冬の季節をもたらしていました


 もしも、国へ訪れる季節に異変が起きた時――

 それは、女王に何かが起きた時なのです



 その言い伝えを代々受け継ぎ、守ってきたのが、この国の王族でした。


 今の王様の、前の代より更に前。


 ――百年、二百年。

 あるいはもっと昔から。 


 もしかしたら、国が始まった時からあったかもしれません。

 城に残された書物にも、いつが起源なのかは書いてありませんでした。



 女王は“王”という肩書きこそあれど、国の(まつりごと)には関わりません。

 静かに塔で暮らして、季節をもたらすのみ。


 ある代の王様は――

 職人たちに命令して、塔の外面を一年中ピカピカに保たせました。


 ある代の王様は――

 一年中、塔の周りの芝を綺麗に整えさせました。


 時には自分達の城よりも丁寧に手をかけられたその塔は――

 その甲斐もあってか、いつも変わらず、国に季節をもたらせます。


 春には木々たちが一斉に芽吹き。

 夏には日の光を受けて枝葉を伸ばして。

 秋には果実をたわわに実らせ。

 冬には寒さを越すためジッと耐える。


 そうやって順調に、季節は巡り続けていたのですが――

 ある時から、なぜか春が来なくなってしまったのです。


 ――いつになっても冬が終わらない。


 降った雪が解ける前に、また新しい雪が降り積もり。

 何日、何週間経ってもそれは続き、国中が雪に覆われていきます。


「言い伝えの通りならば、女王になにかあったに違いない」


 冬の女王が塔から出て来ないのか。

 それとも、春の女王が塔に来ていないのか。


 これはおかしいと思った王様は――

 塔へ兵士を送ると共に、国中の人間におふれをだしました。



―――――――


冬の女王を春の女王と交替させた者には好きな褒美を取らせよう。

ただし、冬の女王が次に廻って来られなくなる方法は認めない。

季節を廻らせることを妨げてはならない。


―――――――



 お触れを出した数日後には、『好きな褒美』という言葉に引き寄せられ――

 あっという間に、これはという案を持った者たちが城に集まってきます。


 大工や学校の先生などの、力や知恵に自慢のある者だけではなく。

 街のパン屋や漁師、はたまた鳥飼いまで。


 老若男女様々な人たちで、城の中が賑わっていました。


「王様! 一人一人の話を聞いても、似たような案が出て来て効率が悪いです」

「ううむ……。仕方ない、全員を大広間へ集めろ!」


 あまりに数が多すぎて困った王様は、全員を大広間へ集めました。

 そこで代表的な案を出させてから、話し合いを行うことにしたのです。


 しかし、分からないことが多すぎました。


 冬の女王が今何をしているのか。

 他の季節の女王たちは何をしているのか。


 何一つ、重要なことは分かっていません。


 まずは塔へと向かう必要があるのじゃないのか。

 何が起きているのかを把握するべきではないか。


 そんな声が上がってきたところで――


 王様が塔へ送った兵士たちが帰ってきたのでした。


 兵士たちはさっきまで吹雪の寒さに晒されていました。

 そのせいでカタカタと歯を鳴らしながらも、なんとか王様へ報告をします。


「……『四季の塔』の周りは雪が酷く、入り口が完全に埋まっております。

 予想以上に高く積もっていて、下の部分の窓も同様です。

 中に入るには、塔の高くにある窓から入らなければなりません」


 この報告に、王様たちは頭を悩ませました。


「塔へと入れなければ、何が起きているのか分からないではないか」


 これでは一向に原因が分からない。

 新たな問題のせいで、更に話し合いは混乱していくばかり。


 城に来た者たちは褒美を手にしようと――

 勝手気ままに、次々に意見を出していきます。


「外で大声で叫べば出てこないのか?」

「既に我々が試しましたが、出てきません。

 それに、あの雪の中ではこれ以上は無理です」


「塔に穴を開けてしまおう」

「後から埋めるつもりだろうが、それでどのような影響が出るか分からない。

 下手に塔へと危害を加えることはできないだろう」


「春の女王か夏の女王を呼んで、入り口の雪を溶かしてもらうのはどうだ?」

「それは名案だ。……で、その女王たちは何処にいるんだ?」


 そこで一斉に――みんなが王様の方を見たのでした。


 この国で代々言い伝えを守ってきた王族ならば――

 きっと他の女王のことも知っているだろうと思ったのです。


 ですが、長い沈黙の末に王様は言いました。


「……言い伝えでは、女王は誰も見ていない間に交代するという。

 それまで女王たちがどこにいるかは誰も知らない。もちろん、この私もだ」

「それって……」


 ――この国の誰も。王様でさえも。

 実は季節を司る女王の姿を見たことが無かったのです。


 これには、大広間にいた誰もが言葉を失いました。


 誰を探せばいいのかも、どうすれば解決するのかも分からない。

 城に来ていた国民たちは途方に暮れ、一人、二人と帰っていきます。


「これはどうにもならないよ」

「時間が解決するのを信じて、蓄えをかき集めに帰ります」


「ま、待ってくれ! このままではこの国に春が来なくなってしまう!」


 しかし、その中でも最後まで残っていた男がいました。

 ――街の鳥使いです。


 寒さが続き、鳥たちの元気が無くなるのを見て――

 案は無くとも、動かずは居られなかったのでした。


 こんな自分でも、何かの役に立てるのではないかと。

 褒美はいらないから、少しでも力になれればと。


 そう思い、城へとやってきたのです。


「……私には大事に飼っている鳥たちがいます。

 その子達ならば――高い高い塔の窓へ、私を連れて行ってくれるかもしれません」


 殆どの人が帰ってしまった今、王様はその案を採用することに決めました。


『ならば、直ぐにでも行って来てくれ』

 そう言おうとした王様に、鳥使いは『でも――』と続けます。


「この吹雪では鳥たちが飛ぶことができないのです。

 風から鳥たちを守る風受けが要ります。

 元気に飛ぶためにも、少しでも何か食べさせてやらないといけません」


 それならばと、王様は髭をいじりながら言います。

 大臣たちにも指示を出します。


「城に来ていた大工たちに、風受けを作らせよう。

 簡単な、一時的なものならば、この吹雪の中でも作ることができるだろう。

 鳥が腹を空かせるならば、パン屋に頼めばいい。

 成功すれば褒美を与えると言えば、きっとみんな協力してくれる」


 ――そうと決まれば早いものでした。


 王様は帰っていった者たちを呼び戻します。

 もちろん、全員に褒美を取らせると約束して。


 大工たちは背の高い木を切り倒し、塔の窓へと続く木のついたてを作りました。

 鳥たちは身を縮こませながらも、パンを食べたおかげで体力は残っています。


 そうして、万全の状態となった鳥使いは――

 たくさんの鳥たちと共に、空へと飛び立ったのでした。


 吹雪でガタガタと揺れるついたての間を、『四季の塔』の窓へと一直線に。

 王様や街のみんなが息を呑み見守る中で。


 何とか塔の中へと入ることができた鳥使いは、塔の中の違和感に気が付きます。


「さっきまで歯の根が合わなくなるほどに寒かったはずなのに――」


 ほっと一息つけるほどの、柔らかい暖かさ。

 その暖かさは、塔の一階部分から広がっていました。


 ぐるぐると伸びている螺旋階段の中を、ゆっくりと降りていく鳥使い。

 そして、少し暑いかなと思うぐらいになると――


「なんだあれは……」


 青々と茂った果樹がその目に飛び込んできたのでした。


 まるで外かと疑ってしまう程の緑に――

 塔の一階が覆い尽くされているのです。


 そしてその中心にいるのは、丸々と太った女の人が。

 あまりに太りすぎて、身動き一つ取るのにも苦労しそうです。


 きっとこの人が女王だと、鳥使いは声をかけました。


「おい! お前、塔の女王だろう?

 外では冬が終わらなくて、みんな困っているんだぞ!

 今すぐ冬を終わらせてくれ!」


 鳥使いの問いかけに、女王はのったりと答えます。


「……そうよ、私は塔の女王。

 だけど……私には冬を終わらせることができないの」


 女王から発せられた『私には冬を終わらせることができない』という言葉。


 やはり春の女王が来ないと、冬は終わらないのでしょうか。


「冬の女王なのか? ならば、春の女王はなぜ来ない?」

「……違うの、そういうことじゃないの。冬の女王も春の女王も――いないの。

 今は私がこの『四季の塔』の管理人」


 首を振りながら女王はそう答えますが、鳥使いは状況が上手く理解できません。


「昔は四人で役割分担していたんだけどね。今は私一人」


 言い伝えでは四人の女王が、交代で季節を回していました。

 それが、なぜか今は一人なのです。


「時が経つごとに、みんな居なくなってしまったけれど――

 あまりに快適だから、新しい人を補充する必要はないかなって」


 見れば、果樹には沢山の果実が実っていました。


 塔の女王はその場から動くことなく――

 手を伸ばしてもぎ取っては、それをモグモグと食べているのです。


「女王が一人では、季節を回せないのではないのか?」

「そんなことは無いわ。一人で一年はあまりに長すぎるからって分担していただけ。

 ――秋には秋の宝玉を。夏には夏の宝玉を。

 真ん中の台座に置いて管理するだけなんだけど――」


 ――そこで女王は言葉を濁します。

 とても言いづらそうでしたが、観念して鳥使いに話します。


「……春の宝玉をなくしちゃったの」

「なくした!?」


「そう。窓の外に飛んでっちゃった」


 何かの拍子に外へと飛んでいってしまった春の宝玉――

 しかし、女王は身動きが取れないため、どうすることもできなかったのでした。


 一人で塔で暮らしているため、そのまま誰かに相談することもできず。

 黙々と、冬の宝玉の置かれた台座を管理していたのです。


「呆れて文句も出てこない……。それを探せば春が来るんだな?」


 頭を抱える鳥使いでしたが――

 原因がわかったのなら動かないわけにはいかないと。


 早く冬を終わらせなければと、鳥たちに運ばれて塔の外へと出ます。

 そうして、吹雪の中待っていた王様に、何があったのかを伝えたのでした。


「春をこの国に呼ぶための宝玉を、冬の――塔の女王が失くしてしまったそうです。

 彼女は……宝玉は窓から飛んでいったと言っていました。

 この周りを探せば、きっと見つかると思います」


 春の宝玉さえ見つければ、この国に春を呼ぶことができる。やっと冬が終わる。

 ならばボヤボヤしている暇はないと、国の住人が総出での大捜索が始まります。


 昼夜問わず、入れ代わり立ち代わり。

 みんなで助け合いながら、雪の中をかき分けていきます。


 数日かけて探した末に、なんとか春の宝玉を見つけることができた国王は――

 これから緩やかに訪れる春の暖かさに、胸を撫で下ろしたのでした。






 今度は春の宝玉を持って、鳥使いは再び塔へと入っていきます。


「あら……!? それ、いったいどこに!?」

「国中のみんなで探したんだ。誰もが春を待ち望んでるんだよ。

 ……これを冬の宝玉の代わりに置けばいいのか?」


 驚いたような表情の塔の女王さまでしたが、こくりと頷きました。


「……冬の後は春が来ないといけないの。

 夏でも、秋でもダメ。順番通りでないと置けないようになってるから」


 その言葉を聞いて、鳥使いは春の宝玉を台座へと置きました。


 ――その瞬間。


 台座から勢いよく風が吹き出したのです。


 風は一階を覆い尽くしていた木々を揺らし、塔をぐんぐんと上っていきます。

 そうして『四季の塔』のてっぺんから国中へ向けて。


 たった一度だけですが、広がっていったのです。


「――風が吹いたわ。この国は春を迎える準備ができたはずよ。

 これから少しずつ暖かくなってくるわ」


 塔の女王は台座へ置かれている春の宝玉を眺めながら言いました。


 一仕事を終えた鳥使いは、そこでやっと安心して深く息を吐きます。


「……これで鳥たちも安心して過ごすことができる」


 ここまで頑張ってくれた鳥たちを、鳥使いは果樹の木々へと放します。

 枝へと止まった鳥たちは、満足そうに羽繕いをするのでした。






 そうして、一週間後。


 王国の大地は緑に溢れ、木々は鳥たちの囀りに包まれています。

 長かった冬が終わり――春が訪れたのです。


 王様は協力した国民全員に、褒美として豊かな生活を約束しました。

 食事もなにもかも、不自由する者は一人もいません。


 そして最大の功労者である鳥使いはどうしたのかというと――


「……なんでも褒美を貰えるのだから、城に住まわせて貰えばよかったじゃない」

「ここは一年中暖かい。こっちの方が鳥たちが喜ぶ」


 塔の魔女の元で、監視役を兼ねて暮らすことにしたのでした。


 監視役――鳥使いが王様に頼んで就かせてもらった新しい仕事です。


『四季の塔』はこれまでのような、不可侵の場所ではなくなりました。


 今は塔の女王が一人で季節を回していましたが――

 ゆくゆくは元通り、四人で回すようにすると王様は決めました。


 それまで監視役が責任を持って、女王が季節を回す手伝いをするのです。


 本当ならば、塔の女王は国を危機に陥れた大罪人。


 重い刑を科されるかと思われたのですが……。

 鳥使いが、止めてもらうように王様に頼み込んだのでした。


「はぁ……」


 一人だけで快適に過ごしていたところに、突然やってきた鳥と鳥使い。


 急に騒がしくなって、嫌がる素振りを見せていた女王でしたが――

 鳥使いが自分の為にしてくれたことを考えると、強く言うことはできません。


 快適な塔の中からは、鳥たちは幸せそうな囀りが一年中聞こえてきます。

 その中心で、鳥使いは満足そうに笑います。


 これまで怠けていた女王も、これからはそうはいきません。


 ただ宝玉を眺めていた日常に、新しい仕事ができたのです。

 鳥使いに毎日急かされながら、鳥たちの世話を手伝わされます。


 二人で支え合う生活が始まり、それは何年も、何十年も続きました。


 痩せて元通りの綺麗な姿になった女王と、元気な鳥たちに囲まれて――

 鳥使いは死ぬまで幸せに暮らしましたとさ。





 おしまい

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[良い点] 「太っていて動けなくなっていた!」というオチに笑わせていただきました。 ここまで魅力のない女王様を書いた方は他にはいません。 さらに、四季の塔システムに対する皮肉。 そういう意味ではオ…
2016/12/16 15:59 退会済み
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