6話 神力
「それで何を聞きたいんだい?」
神はお気楽な調子で聞いてくる。
「…………」
おまえが与えたこの神力とやらについてだ。
神はこの世界の人間には見えない。そのためナオトと神が普通に会話をすると、全てナオトの独り言だと思われる。だから脳内で思うだけにして、心が読める神との会話を成立させていた。
「そうだねえ……ま、さんざん悩んだだろうし教えてあげようか」
神はもったいぶらずに口を開く。
「君に与えた神力は瞬間移動の力だ。思っただけでその場所に移動することが出来る」
……今まで起きた事態を考えるにそうなんだろうな。
牢屋の外に鉄格子を無視して移動するなんて芸当、瞬間移動しか考えられない。
「これがまた便利な力でねえ、自分だけじゃなくて他人だったり物体だって動かすことが出来るんだ」
……ふむ。ちょっと試してみるか。
ナオトは神力を発動。すると。
「おおっ……!」
ポケットの中に入れてあったスマートフォンが、一瞬で手の中に収まった。
「そういうこと。しかもこれは神の力であって魔法じゃないんだ。……見たところこの牢屋の中には反魔法がかけられているみたいだけど、使用できてるでしょ」
ああ、何かそういうこと言ってたな。
「しかも使う度に一分間の冷却時間が必要とはいえ使用は無制限! 魔力を消費することも無いよ」
魔力とか使ったこと無いんだが……しかしなるほどな。
ナオトはうなずく。
どこにでも移動し放題ってことはすごいことだ。例えば日本だったら大阪に住みながら東京に通勤することが可能になるってことだし、ふらっと世界旅行をすることも出来る。
「喜んでもらえたようで何よりだよ」
自分の力を褒められて嬉しそうにしている神に対してナオトは続きを促す。
それで。
「それで……?」
これが神力の説明の全てじゃないだろう。
「え、えっと……どうしてそう思うのかな?」
この神力は強すぎる。お前なんかが使える力だとは到底思えない。……どうせまだ説明していない欠点があるはずだ。
「……はぁ、どうして君はそう鋭いんだろうね」
テンションが一気に落ちる神。
「そうそう、君の言う通り。この神力、正式名称は、短距離跳躍。その名前の通り、この神力の使用範囲は……えっと、君に分かりやすい単位を使うと約10mまでなんだ」
10m……? つまり10m以上遠くに移動することは出来ないし、10mより遠い物を呼び寄せることも出来ない……ってことか。
「そういうこと。……瞬間移動なのに範囲が狭いってことで使い勝手が悪くて」
10m……か。
つまり今しがた思ったような大阪から東京だったり、世界旅行だったりは出来ないってことか……。
「そうだねえ。期待させたようで悪かったよ。こんな神力しか与えることが出来なくて」
……何を落ち込んでいる。
「え?」
そういう使い方は出来ないってだけで、十分に強力な神力じゃねえか。現にこの牢屋からの脱出を簡単にこなしちまったしな。
「そう言ってもらえるとありがたいけど……君、本当にナオト君だよね?」
失礼な。俺だって人を褒めることくらいあるぞ。
神に不服を申し立てたナオトは考える。本当にこの神力、使い方次第で今の状況を打破することも……。
「…………」
とりあえずここまででいい。ところで休暇でこっちに来てるって話だが、まだ一時は居れるのか?
「とりあえずって怖いなあ。そうだねまだ少しは居れると思うよ」
……よし。
ナオトは神との会話を一旦終了し、リムルの方に向き直る。
「すまなかったな」
「あ、もう大丈夫なんですか?」
「大丈夫だ。それでリムルは何の用だ?」
「……それはもう、色々と聞きたいこと言いたいことがありますよ」
少し不機嫌そうなリムル。
「ナオトさん自分の事を記憶喪失だって言ってましたよね? それなのに……あんな力が使えるってどういうことですか?」
「さっき思い出したんだ」
「……本当ですか?」
「本当、本当。ナオト、嘘付かない」
「見張りを随分鮮やかな嘘で騙してたみたいですけど」
「……さて、何のことやら」
分が悪いが押し通すつもりのナオト。
「むう……」
これ以上言っても無駄だと判断したリムルは質問を変えた。
「ここから全員助け出すって言ってましたけど……そんなこと出来るんですか?」
「出来るかじゃない。やるしかないんだよ。俺だって乗り気じゃないんだけどな」
俺がリムルを助け出すと言ったことは、ミーナとのやりとりでこの牢屋中に知れ渡っている。最初は内心戯言だと思われていただろうが、俺がそれだけの力を持っていることは証明されてしまった。
もし全員助け出すと宣言してなかった場合どうなるか。
まずあの醜い自分の売りこみが未だ収まらなかったことは想像に難くない。それに加えて自分の事しか考えない人たちは、ただ一人助けられることが確定しているリムルに敵意を向けていただろう。後先など考えずに。
俺の機嫌を損ねないために俺の目の前で直接行動に出るとは思えないが、ミーナの命令を解除させるためにどうしても今後俺はこの牢屋を離れる必要がある。
その時に溜まった鬱憤を晴らしに来るかもしれない。
だから、その対策のためにあんな宣言を行ったのだ。
それにあんな自分勝手な奴らも、一応この牢屋を出るまでは味方なのだ。団結は固めておいた方がいい。裏切られたりしたらたまったもんじゃないからな。
「それって……危ない橋を渡りますよね?」
ナオトが本気なのが分かって、心配するリムル。
「安全じゃないことは確かだな」
「……私を助けるためですか?」
「それも半分はある。……けど、残り半分は俺自身のためだ」
どうせリムルの件が無くたって、ミーナとラウイの野郎には腹が立っていた。このまま逃げるように去るのはどこか敗北感が残る。そんな真似俺には出来なかっただろう。もしやるとしても一泡吹かせた後だ。
「うんうん、君ってホントいい性格してるよね」
……褒め言葉として受け取っておこう。
神が入れてきた茶々を軽く流す。
「……優しいんですね、ナオトさんは」
「えっと……今の話からどう繋がってその感想なんだ?」
「だって私に負担をかけさせないために、わざと自分のためだって言ってるんですよね」
「…………」
リムルの思考回路だとそう見えるのか。何とも世界に優しさが満ち溢れていそうだな。
「ですけど……いいんです。ナオトさんが危険な目に合う必要はありません。一人で脱出してください」
「…………」
全く……この娘は。
「一人で脱出するならナオトさんも安全に出来るでしょう?」
「ああ、だろうな。……そしたらリムルはどうするつもりだ?」
「私は……きっとこういうことになる運命だったんです。気にしないでください」
「はあ…………」
ナオト苛立ったように髪をかきむしる。
「ですから――」
「そこまでにしとけ。そろそろ怒るぞ」
「え、あ、その……」
リムルは戸惑っている。どうやら自分が何故怒られたのか理解できてないようだった。




