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3話 ミーナ

「金髪……確かにわたくしのこの髪はお母さま譲りの金髪ですわ。ですが、ドリルとは……」

「お嬢様にはドリルじゃ分かんなかったか? なら、掘削機って言えば分かるのか?」

「なっ! このミーナ・ガトルハットの優雅な髪型をあのような武骨な物で例えるとは……!」

 牢屋の内と外でかわされるやりとり。

 内のナオトは、外のミーナに最初から暴言を吐いていた。これで機嫌を損ねて行けないという目論見はパーだ。


「おい、おまえ! ミーナ様に何て暴言を……」

「おまえじゃねえ、ナオトだ」

 護衛の一人が慌てて注意してくるも、もう既に場はナオトのペースだ。

「名前なんて聞いてねえ!!」

「そうか、覚えておいた方がいいと思うぞ。俺は絶対におまえに復讐すると決めてるからな」

 その護衛はナオトを馬車に放り込んだ人物と一致していた。許さない奴リストの一人だ。

「根に持ってるのか。だが、あれはおまえから言ってきたことで……」

「つうかおまえさあ、俺がそこのミーナの髪型を掘削機に例えたとき、肩がピクンと跳ねたよな? 本当は笑う寸前だったんじゃねえか?」

「ラウイ……それは本当ですか?」

 ミーナが護衛……どうやらラウイという名前らしい、に真偽を問う。


「い、いえ! そ、そんなことありません!」

 予想は出来ていたが、ラウイはミーナに頭が上がらない関係のようだ。武装したおっさんが少女にあたふたしながら弁解する姿は見ていて面白い。

「声が震えてるぞー。心当たりがあるからじゃねえのかー?」

「やかましいぞ、貴様!!」

「慌てて否定したな。図星だからか?」

 ナオトはさらに事態をかきまわす。

「ラウイ。お互いの認識について、後で話があります」

「そ、そんなお嬢様……」

「言い訳は無用です。今は下がってなさい」

 ミーナはぴしゃりと言い放つ。崩れ落ちそうになりながら、ラウイは言われた通り下がる。

 いい気味だ。少しは気分が晴れたナオト。


「全く、あなたの生殺与奪権は私が持っているというのに不遜な態度ですわね」

「誰がいつそんなものをお前に与えた? 俺が生きるも死ぬも、俺の自由に決まってるだろ」

「牢屋に閉じ込められていて、何が出来るというのでしょうか?」

「だから言ったろ。脱出するって」

「ふっ……」

 こちらを馬鹿にするようなミーナの失笑。


「何がおかしい?」

「ここから脱出って……本気で言っているとしたら頭がおかしいですわ。牢屋内には反魔法アンチマジック術式を施し、見張りは定期的に巡回、地上に出るにも鍵が必要。そうまでして屋敷を出たとしても、敷地内には不審者を撃退するように猟犬が放たれ、壁に囲まれた敷地から出るとしたらどうやったって門番に姿を見られる。……この警備内容でどうやって逃げ出すというんですか?」

「馬鹿だな、おまえ」

 さっきドリル呼ばわりした遺恨が残っているのだろう。意趣返しにナオトを絶望させようとしたのだろうが逆効果だ。

 これで大体の警備内容は分かったな。

 反魔法アンチマジック……は文字通りこの牢屋内では魔法が使えないのだろうか。なら元から使えないし問題は無い。

 定期的な見張りは、逆説的に見張らないといけないということ。元からこの世界に監視カメラというものがあるのかは分からないが、その類は無いということだろう。

 そして鍵、猟犬、壁、門番……過剰な警備の理由は……。


「ば、馬鹿って……このミーナ・ガトルハットに対して馬鹿とは何ですの!?」

「しょうがないだろ。自ら手の内を明かすやつにかける言葉を俺はそれ以外に知らねえ」

「……いいでしょう。首輪が届いてもあなたは売り飛ばさず、この屋敷に置いてあげますわ。そして毎日こき使って私に反抗したことを後悔させてあげます」

「そんな日が来る前に、リムルと脱出して見せるさ」

 傍らのリムルの肩に手を置くナオト。

「ナ、ナオトさん……」

 見上げるリムルの眼差しには様々な感情が混ざっている。


「……たしかあなたは自分から首輪を付けていましたが、その男の側に付くということですか?」

「ミ、ミーナ様……それは」

 一睨みされてリムルは委縮する。

「何を恐れているんだ。ほら、リムル。本音を言ってやれ」

「そうですわね……本音を言いなさい」

 二人がリムルに対して迫る。


「私は……」

 ナオトに促されたから……ではない。

「叶うならナオトさんと一緒にここから出たいです」

 リムルはミーナに命令されたから口を開いた。


「ほらな、分かったか」

 それを知らないナオトはいい気になっている。

「……ええ、分かりましたわ」

「……?」

 何かミーナの雰囲気が変わったぞ。

「元々私がこの地下牢まで降りてきた理由は何だと思いますか?」

「ん? 俺に馬鹿にされるためじゃないのか?」

「そんなわけないでしょう」

 こいつ急に煽り耐性が上がったな。面白くねえ。


「私が直々に降りてきた理由。それは来週お得意様のロンドフ公爵に売る奴隷を決めるためです」

「へえ? それで決まったのか?」

「ええ。今決まりました。……そこの少女、リムルと言いましたか。あなたを売ることにします」

 ミーナの宣告。

「そ、そんな……ロンドフ公爵ですって!」

 それを聞いて黙っていられなかったのか、今まで様子を見守っていた牢屋内の人たちの驚いた声。


「……」

 この驚きよう……そこまでやばいとこなのか。

「説明してあげましょうか?」

 ミーナがそんな言葉をかけてくる。優しさからではない。ナオトがしっかりと理解した方がダメージがでかいという判断だ。

「ロンドフ公爵は……お客様を悪く言いたくはないのですが、少々奴隷の扱いが手荒いことで有名で。奴隷を道具としか見ていないのですわ」

「おまえたちも同じだろうが」

「あらあらそんなことありませんわ。だって奴隷のために牢屋を用意するなんて、人間扱いしている証拠じゃないですか。ロンドフ公爵のところではそもそも奴隷が休むための場所も用意されてないと聞きますもの」

「……は?」

 一瞬何を言っているのか理解できなかった。

「道具に休息は必要ない……二十四時間ずっと働かせ続ければいい。壊れたところで道具だ。補充は簡単だ……ていうのがロンドフ公爵の考えですの」

「二十四時間……」

 そんなの無理だ。

 最初に思ったのがその言葉だった。

 いくら奴隷だからってそこまで無茶な命令を強要できるはずが……いや、違う。何か俺の考え方がズレているような……。


「と、ところでミーナ様」

 おずおずと手を挙げて発言する牢屋内の男性。

「何かしら? そこの少女がロンドフ公爵のところに売るのをやめてください、とでも言うつもり?」

「そんなミーナ様の意向に逆らうなんてとんでもない! 私めがお聞きしたいのはロンドフ公爵のところに売られる奴隷は一人なのか……ってことなのですが」

「それなら先方が望んでいるのは性処理用の若い女の奴隷一人ですわ。あなたたちは目下売り先を探し中です」

「そ、そうですか」

 ミーナの言葉に明らかにホッとした様子の男性。


「ちっ…………」

 あいつら……やっぱり。ナオトはその姿に舌打ちする。

「にしても、おまえな……」

 性処理用の奴隷……詳しく聞かなくても、その言葉だけでひどい扱いされるだろうことが想像できる。そんなところに俺じゃなくて、リムルを売り飛ばそうというところに腹が立つ。

「あなたを苦しめるには丁度いいでしょう。自分に関わったばかりに、地獄に落とされるんですから」

「……いい性格してるな」

「褒め言葉と受け取ってあげますわ」

 ミーナはナオトから視線を切って、リムルを見下ろす。


「それと無いとは思いますけど……一応命じておきます。リムル、あなたは絶対にこの牢屋から出てはいけません」

「リムル、そんな命令聞く必要ないからな」

 ミーナの命令。ナオトの言葉。

 リムルは俺の言葉を選ぶだろう、そう勝手に思っていた。


 しかし。

「頷きなさい」

 ミーナの更なる命令に。

「……分かりました」

 リムルは首を縦に振る。


「なっ……!?」

 どうしてだ? さっき一緒に脱出したいとまで言ってくれたリムルが……。

「さっきからの態度……おかしいと思っていましたが、どうやら首輪のことをご存知ないようですわね? 本当にあなたの分の首輪が無かったことは残念ですわ」

「首輪って……さっきからどういうことだよ!!」

 何かの比喩だと思って聞き流してたが…………よく見れば牢屋の中にいる俺以外の人間全員に首輪が付けられている。もしかしてこれが……?


「全く、逆らおうとするからこんな目に合うんですわよ。このミーナ様に従うことが出来ることを光栄だと思えばいいですのに」

「……お嬢様、時間が」

 下がっていた護衛のラウイが時計を見て発言する。

「あらあら。もっとあなたの苦しむ表情を見ていたかったのですが残念ですわね」

 苦悩するナオトを嘲笑いながら、ミーナは牢屋の前から離れて行った。

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