クリスマスのプレゼント
どうも、クリスマスなので書いてみました。
もうすぐクリスマス。
世の中はキラキラと浮かれ出してすっかりクリスマスムード。
高校二年生にもなってまだ青春という青春を味わっていない新田弘樹はため息をついた。クリスマスになっても部活に勉強。それを疎かにすると後でレギュラーを取れなず、しかも簡単にテストの点数を一桁にするという泣きをみる。
弘樹は別に勉強ができないわけではない。寧ろ、できるほうで高校はこの県で一番頭のいい男子校だ。生徒が頭がいいぶん先生がいじわるなのだ。先生は平均二十点程度のテストを作る。その結果、皆が憧れる百点は愚か、半分の五十点を取るのすら難しい。だからって諦めて勉強をしなくされば一桁という最悪の事態に落ちる。だから青春を全力では楽しめない。男子校だから出会いもない。
もう一つ、弘樹が青春を楽しめない原因は彼自身にあった。人と話すのが苦手なのだ。コミュニケーション障害ではないと彼は思っている。話すのは苦手でも友人とそれなりの会話が可能だからだ。
弘樹は木々に飾られたLEDのライトがライトアップされたイルミネーションの中を一人歩いていた。歩きたくて歩いているわけではないそこが帰り道だからだ。歩きながらこれが彼女と一緒だったらなどと考え首をふる。もちろん彼に"彼女"と呼べる恋人はいない。だが、考えてしまう。もうすぐクリスマスだからだろうか、考えずにはいられない。他の理由もあるような気がする。最近気になっている人。その存在があるからかもしれない。
—ブー・・・ブー・・・
マナーモード状態にされていた形態が低い音と共に震えだす。携帯にはメール受信のマーク。誰だか見なくても予想はつく。彼は自分でも知らずうちににやけていた。もう携帯のメールを開くと彼女からのかわいらしい絵文字付きのメール。右に走って行っている。顔文字に一個の棒が縦に入って縦棒の後ろに左矢印があり壁と書かれている。つまりこのメールは走って行っている人が壁に突き当たってるのを表したかったのだろう。彼女は自分の前にそびえ立つ家族との大きな壁の事を言っている。
(ならば)
弘樹はさっそく返信メールを作成する。
『本文:頑張ってぶち破って』
応援メール。
もう、お気づきの方もいるかもしれないが、弘樹の気になる女性はメールの相手の許斐穂香である。穂香とは小学四年生のときに通っていた塾で出会った。送ると一分もたたずにメールの返信がくる。相変わらず返信が早い。メールの内容は次のようだった。
『本文:絶対無理!僕には出来ない!お手上げです』
穂香は病みやすく。一人を嫌う人間だ。そのわりには他人を寄せ付けないようなオーラを放っている。病みやすく一人を嫌うのは元々弘樹は知っていた。だけど、そんなオーラを放つことは知らなかった。オーラの話は穂香と同じ学校へ進学した友人から聞いた話だった。弘樹はその話を聞くまで彼女は病みやすいが無邪気な娘だと思っていた。そして、病みやすい理由のほんの一部は穂香が口を滑らせたことにより知ることができた。家だ。正確には家庭内の現状だ。それを彼女がうっかり口を滑らせてから弘樹に相談するようになった。
『本文:大丈夫だって、ほのかならちゃんと向き合える。』
いつから名前を普通に呼べるようになるのか。メールでしか名前を呼んだことがない。現実では恥ずかしくて口をつくこともないのかもしれない。実際のところメールで名前を呼ぶだけでもドクドクと心臓が煩く脈打つ。
『本文:むぅ…』
彼女から来た返信はこれだけ。彼女は普段も困ったり自分が不利になるとこう呟いてむくれる。それがなんとも可愛らしい。彼女の親友にその様子を話したら親友は「よかったねぇ弘樹君。君は私の愛しの愛しのいとしぃぃのぉぉぉぉ穂香に信頼されたね」などと言われた。もちろん、穂香の親友は女性である。女性同士の友情は弘樹には理解できない。男性だからなのか、兄弟が弟だけという女性が兄弟にいないからなのかもわからない。
―ブー・・・ブー・・・
そんな少し前の話しと返信をどうするか考えてぼーっと歩いていると携帯が再びなった。
『本文:ま、いいや。それよりもうすぐクリスマス!弘樹はどうやって過ごすの?』
これにはすぐに返せる。部活と返せばいい。すると次の返信にもったいないと返ってきた。すかさず『じゃあ、穂香は?』と返す。少したってから『特には…』と返ってきた。
弘樹は鼻で笑った。
『本文:クリボッチはそうだよな』
その時上から雪が降ってきた。雪が降るほどに寒いのかと思うと急に寒くなり帰り道を急ぐ。その間もメールは続ける。
『本文:それ言う?聖なる夜だよ?楽しくいこう』
『本文:勉強があるから無理だな』
『本文:むぅ・・・』
家につき、玄関を開けるともわんとした暖かい空気が全身を包んだ。暖かいというか、暑いだ。暖房の設定温度は何度だよ。
「おい、裕人。ここ暑い」
リビングのドアを開けながら中でパソコンを弄っているであろう弟に告げる。
「外雪降ってるからさみーんだよ」
二つ下の高校三年生の弟は受験生だというのに勉強をちっともしない。推薦入試ではいれるらしいが、その余裕はむかつく。それにパソコンの周りには沢山のミカンの食べかすが。
「あと、ゴミが出たら片づける。またお母さんに怒られるぞ」
「知らないよそんなの」
生意気でかわいげのない弟を睨み階段を上がる。自室への廊下はいい感じの暖かさだ。親が帰って来るまでは二回にいようと心に決める。
自室は弟と共同で使っている。ベットは二段ベット机が並んで二つ。弟の机は相変わらずの散らかり放題。しかし、弟もある程度の気遣いはしているらしく弘樹の机にははみ出していない。
部屋で過ごす数分たったころ。弟が部屋に入ってきて、クリスマスの日彼女と過ごすことを伝え、ついでのように母親が遅くなることを言って出てい行った。その日はご飯をカップ麺ですまし、メールにどう答えようか悩みながら眠りについた。
とうとう明日がクリスマスになる。そう、今日がクリスマスイブだ。メールの内容も進む。彼女は彼氏を作りクリボッチ卒業を目指すと言った。
これもまた学校の帰りだった。今は七時。真っ暗闇である。
『本文:でも無理だ』
穂香はそう送ってきた。正直そんなことはないと思う。すぐに病むところを除けばいい娘なのは知っていたからだ。性格は相手思いの優しい性格。スポーツが得意の運動系。そのわりには読書が大好きでいろいろな知識があり、話してて面白い。とてもいい人なのだ。家庭的で料理が大好きなのも魅力的だから、」絶対できる。
『本文:がんばれ、絶対できるよ』
自分が彼氏になると言えたらどんだけよかっただろうか?
『本文:無理。一生クリボッチのような気がする』
またマイナス発言。いつもの事だが少し病みはじめてる。
『本文:大丈夫だって。すぐにフラグたてないの』
『本文:無理だってフラグ破れない』
『本文:無理。破れない』
弘樹はため息をついた。すぐに携帯が震える。
『本文:弘樹、頑張って破って!僕の代わりに』
弘樹は固まった。これは、どういう意味だ?
家に帰ると真っ先に弟にこれを伝えて意見を求めたが弟はめんどくさそうに鼻を鳴らしただけで答えてはくれない。弘樹はこのメールの意味を考えながらその日を終えた。
次の日。クリスマス当日。朝からの部活。
部活が終わってから弘樹は他の部員にメールを見せて意見を求めた。
「このメールの娘の事どう思ってるの?」
一言目がこれだったので焦った。
「え…それは…」
「好きかどうかってことだよ!」
部員は声を荒げる。
「いいか?弘樹。女ってのは、こういう思いを遠回しで言うものなんだよ」
よくわからずに素直に首をかしげる。
「こいつ。だめだ」
あきれたようにため息されてしまう。
「で、お前は好きなのか?」
弘樹は考えた。いや、考えずとも答えは出ていた。しかし、それを声に出す勇気は弘樹にはなかった。
「好きなら、今日最高のプレゼントをしてやるといい」
最高のプレゼント。頭のいい彼はそこまで言われて何をするべきか理解する。
部室を飛び出し彼女が通っている学校へ向かう。彼女は私立だから今日も学校のはずだ。
バスを使おうとしたが、バスは今から一時間後。今日はあと三十分で彼女の学校が終わることを知っている。バスじゃ間に合わない。弘樹は気づいたら走っていた。寒い中の全力疾走だ。息を切らせて走る。沢山の人の横を通りすぎる。
やっと着いた彼女の学校。沢山の生徒が出てくる。弘樹はその人ごみの中を目を光らせて見渡す。人の顔、顔、顔。絶対に見逃してはならない穂香の姿を探した。
「あれ、弘樹。何をしてるの?」
見つけるより先に見つかった。振り返ると小さい穂香が見上げていた。
「また身長伸びたね。何センチ?」
いつものお決まりの会話。彼女は弘樹に会うたびにこの言葉を並べる。
「百七十八センチ」
「たかっ」
ってそんなこと言いたいわけじゃない。俺は彼女に最高のプレゼントを渡すんだと自分に言う。そして、勢いをつけ、その勢いのままに相手の都合はおかまいなしに彼女の手首を掴んで引っ張った。仕切りに穂香はどうしたの?と言っているが嫌がる様子はないし、抵抗もしない。そのまま近くの公園へと入る。
静かな空間だった。いるのは老人と走る人だ。弘樹は立ち止まって彼女に向き直る。その時彼女は自分とは違ってなんとも寒そうな服装をしている。指定の制服にタイツ。それ以外は何も防寒対策をしていない。少し震えているようだ。
「寒そうだね」
弘樹はそういいながら彼女の手を見る。本当に寒そうだ。無意識に手袋をした自分の手で彼女の冷たい手を包み込むように握っていた。握ってから何をやっているんだと後悔した。
「だ、大丈夫だよ。このくらい。それよりどうしたの?」
穂香は握られた手など気にしてないようなそぶりで言う。もしかしてドキドキしてるのは自分だけ?
「いや、あ、あのさ」
反射的に手を離してしまう。すると穂香は少し距離を置いた。
「どうしたの?」
笑顔で首を傾げて見上げて来る穂香にドキッとしてしまう。
「いやさ…」
「クスッ変なの?」
穂香は背を向けて歩き出す。その後をゆっくりとついていった。噴水が元気よく噴出している。夏ならばその周りに人がいるだろうが、今は冬。それにクリスマスだ。この公園にクリスマスに他の学生が来るとは思えない。
「あのさ、クリボッチじゃなくなったね」
穂香が不意に呟く。
「ほら、だってさ」
彼女が振り返る時。弘樹は手を伸ばして彼女の手を掴んでいた。
「弘樹が」
弘樹は次の瞬間に穂香を抱きしめていた。
穂香はびっくりしたようで声を詰まらせたが、弘樹の胸に収まると呟くように言った。
「弘樹が来てくれたから」
「あぁ、そりゃ来るよ。伝えに来たんだ」
弘樹はゆっくりとはっきりという。
「俺、お前の事好きなんだ」
「ありがとう」
穂香は鳴き声だった。
その時上から雪が降ってきた…
あれから何度目かのクリスマス。今年は雪は降らない。ソファーに二人で座る。
「あ、今けったよ」
穂香は膨らんだお腹をなでながら言う。
「後少しだね」
優しい彼。弘樹が穂香のお腹と頭をなでながら言った。
あの日。最高のプレゼントをもらえた。穂香の初恋の人が告白してきた。思いが通じた。サンタさんにまで願ってしまうほどほしかったものがあの日に手に入った。幸せの未来だ。
どこからか鈴の音が聴こてきた。
読んでくださりありがとうございます。




