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到着

 ―――裕樹のこと忘れてた。

 過去の世界に来てからの最初の思考はこれだった。

 私のナイト様――――と言えば聞こえが良いけど、単に彼氏って言えばあっけない。

「ま、未来時間で一週間ぐらい居ない程度の事報告しなくてもいいか……いいよね」

 今更ながら後悔してもあれだしね?

 ところで……。

「―――ここどこ?」

 一応この時代の地図は持ってきたし、コンパスの地軸も正確なんだけど。

「もう!どうしたらいいの!」

 ……叫んでいないで、とにかく今は針山家のご先祖さまの元に行こう。当面の目標はそれだね。

「ええっと、ここが2丁目であっちが3丁目?……って、あれここ1丁目だ。んー?地図が逆さまでもないしコンパスも合ってるのになんでなんだろう?」

 ……私初めて来た道は地図とか有っても分からないんだった。忘れてた。失念していた。というかいつもこうなるの分かってるんだから、いい加減治らないものだろうか。

 とりあえず、良いところに通りすがった学生服の男の子に聞いてみよう。顔は見えてないけど、良い人オーラ出てるし!

「ごめんなさい。そこの学生さん?少し尋ねたいことがあるんだけど」

 よし。声も上擦ってないし、挙動不審にもなってないはずだからコンタクトには成功したはずだよね。

「なんですか?ってうわ。可愛い女の子だ!……ゴホン。ど、どのようなご用件で」

 ……あれ?何処かで見たことあるんだけど、この顔。

「あの?つかぬ事をお伺いしますが、お名前はなんとおしゃいますか?」

 咄嗟にそう質問したくなった。この時代には知り合いも居なければ、第1生物発見ぐらいの勢いだというのに。

「そ、そうですね!名前がわからないと話しづらいですもんね!?針山です!針山射太子って言います!なんか裁縫とか上手そうな名前だと思いません?」

 ……針山?え?今、針山射太子って名乗った?もしかして私のご先祖様ってやつですか。この人。どおりで何処かで見た顔だと思った。

「ーーーーおじいちゃん」

 ハッ!咄嗟におじいちゃんとか小声ながらも口走ってしまった……。

「いや、俺まだ17だし、子供居ないからおじいちゃんとか言われても困るというか侵害だし」

 聞こえちゃってたぁ……。

 ま、結局話すんだから良い区切りと考えれば良いんだよね?ね?

「あのー?なんか1人で納得してらっしゃるようなんですけど、貴女の名前は?」

「私から聞いておいて、言わないのは失礼でした。私は針山ミキ」

「へー。針山ミキねぇー。……え?針山っていうの?俺と一緒なんて奇遇だね」

 ここは普通親戚の類いかどうかと聞いてくるはずなのだが、ご先祖様はバカで仰せられるのだろうか。

「ところで、射太子さんは何処にお住まいで?」

 いやいやいやいや!この言い方だと何か誤解を招くような気が!

「え?俺?うんんん?どっち?」

 質問に質問で返された……ええーー!?先祖様って……方向音痴なのぉ!?

「いやー実は私ここら辺初めてで、地図見てもわからないんで、困ってたんですよ」

 よし!私、はっきり言えた!なんか話の流れズレてる節はある気がするけど。

「地図があるなら迷わないって。普通は。貸してみ」

 そう言って、私の手から地図を略奪(※過剰表現)するご先祖様に、コンパスも手渡したまでは良かったのだけれど……。

「ありゃ?道違ってる!?……あぁ、しゃぁない。遠出した俺が悪いんだな。あいつに道標を示してもらうかな。あ、ミキさん。少し待ってて。今救助求めるから」

 そう言って、ご先祖様は携帯電話を取り出して、誰かに電話を掛け始めました。

「今の時代は折りたたむヤツかぁ。私たちのは手持ちですら無いのよねー」

 ……という独り言をこっそり言っていると、どうやら話がついたらしく、ご先祖様の道標が示されるようだ。

「現在の時刻は夕方だから……目と耳をよく働かせれば……見える!」

 そう言ってご先祖様は手を丸めて双眼鏡のように目に当て、周りを見回していた。

「あのー?ごせん……射太子さん?何をしてらっしゃいますか?」

 危ないよ!もう少してバラすところだったよ!……ま、後で家で話すんだから、早まるだけなんだけどね?

「見てりゃわかるって」

 そう言われた私も一緒になって辺りを見回した。

 ドカーン!と何処かで爆発音が鳴った!―――敵襲!?いや、まてまて!ここは過去の世界だよ!?大丈夫。戦闘が起きた歴史までまだじゃない!

 ……とにかく、こんな音でビビって尻餅ついてたら、元の時代戻ったら即死よね。

「怯えてないで。ほら。花火だよ花火。たまに俺遠出しちゃってさ、その度に友達に助けてもらってんのよ。あいつは本当良いやつだよ」

 その友達の話をするご先祖様は何処か輝いていました。

 それでも、もう擬似双眼鏡しなくてもハッキリ見える花火をまだまだ擬似双眼鏡で覗いている。

 打ち上げ花火って……ああ成ってるんだ……。

「綺麗ぇ……。これが綺麗なだけの花火……。初めて見た」

 私が今まで見たのは血の花火が精々だっから……。どの時代に飛んでも、花火の時期じゃ無かったからかもしれない。未来には花火技師って言うのかな。そう言う人は居ないし、武装の発明家ぐらいしか居ないもんね……。

「さ、あっちに行くよ。僕の家はあっ……ち?あれ?どうしたんだい?どうして泣いてんの?」

「い、いえ!目にゴミが入ってしまって」

 そう言うとご先祖様は私の手をとり、先程の音とは逆方向に走り出そうとする。

 これは止めるべきだ!止めないと何かやばい気がする!

「い、射太子さん!?」

「何!?いきなり大声で?」

「……逆です」

「……」

 私は花火が打ちあがっていた方向とは逆の方向に行こうとしていたご先祖様を反転させ、音が鳴っていた方向へ引張って行った。

 未来の世界で生き延びるために鍛えておいた聴力がこんなところで役に立つとは……不憫だ。


 住宅街に入ると、もう少しで付く感じの言動があったので、とにかく急いでいるとご先祖様から質問があった。

「そういえばミキさん?」

「何でしょうか?」

「目的地聞いてなかったんだけどさ。こっち来て良かったのかな?結構歩いてきた気がするけど」

 そうだった。なんかパニックになってて言うの忘れてた!

 まぁ、貴方の家です。とは言えないもんね。

「じつは、家が無くって。1人で旅してきたんですよ」

 答えとしては嘘は言ってない。

 この時代に私の家はないし、一人で時間旅行はしてきてるし。

「んー。僕の家両親が出張で帰らないから、母さんの部屋とかなら綺麗だし、数日なら泊まってもいいよ。別に疚しいことはしないし」

 ふつうなら、見ず知らずの人間をこんな容易く泊めないし、泊まらせて欲しいとも言わないが、針山家の家系は代々ムッツリで奥手なので破廉恥なことをされる心配も無い。

 それに、協力を仰ぎ易くなるし、なによりお金をかけてどこかの部屋を借りるよりいい。

 契約書類とか、あんまり記録に残るものって操作しにくくって残しておきたくないしね。最低限のものだけにしておきたいし。

「良いんですか?だったらお願いします。あ、この家ですか?」

 話しているうちに、着いたみたいだ。写真で見たことあるけど、思ってたより大きいかな。一軒家と言うよりも長屋の一角みたいな感じだ。

 あれ?隣の家の庭から煙と火薬の混じった臭いが……あぁ。きっとさっきの花火の残骸かな。

 ――――ん?さっき前を通った時に隣の家に掛かっていた表札に[高須]って書いてあった気が……。

 そういえば先輩がご先祖様同士の家が隣同士だから接触しやすいとかなんとか言っていた気もする。

 なんて玄関で思考に浸っていると、ご先祖様は玄関で無造作に靴を麦ながら私に言う。

「どうしたの?家の中入らないの?もしかして臭い?」

 それもそうだ。玄関で立ち尽くしててもダメだよね。それに別に臭くない。

 それに、家の構造も生活の仕方も違うはずなのに何でなのか分からないけど、薄っすらと玄関外から見える家内が懐かしさを私に与える。

「あ、はい!お邪魔します」

 玄関の敷居を跨ぐと、靴箱の上に招き猫とそれを挟み込むように置かれた結構値の張りそうな木のお地蔵様が二体置かれていた。

「この構図……あぁ!これってお地蔵様だったんだ!」

 しまった!大声出したらバレる!……バラすんだから良いんだってば。でも、このお地蔵様少し削れてるけど、原型留まってるからマシだよね。

 そう思いながら私はお地蔵様を手に持ち、裏返して足の裏をみる。

「やっぱり、あの地蔵様……だよね?」

 ご先祖様が私に使わせてくれる予定の部屋を掃除してくれている間に呟いている言葉だし、聞こえていないだろう。

 でも、本当にあのお地蔵様だよね。

 ”あのお地蔵様”というのもオカシイかも知れないけど、元の時代の私の家の玄関の靴箱の上にも同じような構図で物が置かれているんだけれど、草臥れた招き猫と、只の木の塊二つが置いてあるだけなのだが。

 共通点は二つ。1つはこの構図。そして二つ目、これが同一の物だと認識できる証拠でもある。足の裏に深く彫られているんだよね。

 ”友 ”と。

「これ、多分友達を大切にって感じで玄関のお地蔵様に掘ったんだろうけど、足の裏側って、友達を踏み台にしろってことなんじゃ……。―――いや、でも彫られてるんだし、友達は足のように大事にしろってことかな?……と、ともかくここは本当にご先祖様の家で間違いないね」

 そう言いながら靴を脱ごうとして、私は気付いてしまったのだ。

「靴履き替えておくの忘れてるよね。これ絶対怪しいよね?」

 こんな平和な時代で鉄板と脚力を上げるギアが付いた靴なんて履いてたら怪しすぎる!

 ――――――噂には聞いていたけど、悪いところを1つ見つけると芋蔓式に出てくるって本当だったんだ。

 靴の他にも全身迷彩服に頭にはゴーグルしてるし、上着の中にも拳銃やら手榴弾やら何やらが……、未来から持ってきたらダメな物ばかりじゃん……。

 ああああーー!なんだか恥ずかしくなってきた!もうそういう趣味っが有るってことで誤魔化すしかない!これは絶対ダメだ!

「母さんの部屋片付いたから、荷物持ってきていいよ――――――ってどうしたの?玄関で頭抱えて唸ってるけど」

 は!ご先祖様が異端者を見るような目で私を見てるよ……。

「え、えーーーっと……これはその。……そうだ。そう!これは、首の体操です!荷物持ってたせいか肩と首にきちゃいまして。それで肩を挙げるついでに首を回せるんでは無いかと思いついてこのような状態に!」

 うわーー……何言ってんだ私!こんなので誤魔化せるわけが無いじゃない!もうダメだ……。―――――あれ。真に受けてご先祖様が私と同じ格好してる……。あぁー収集つかないや。

「たしかにこの体制の運動楽だね。いやー荷物とか持ってあげればよかったね。本当そういうところ気付けなくてごめんね」

 そう言いながら、ご先祖様は私の手から荷物を略奪(※過剰表現)し、部屋へと運んでくれた。

 その背に付いて行き、お世話になる部屋に向かっていると、家の外観は和風なのに、部屋によっては洋風に改装されていたりしてオシャレな感じに出来ている家なんだと気付く。


「ここがミキさんの使う部屋ね。好きなだけ居てくれて良いから。ご飯とかも出すけど、お金とかは別に良いからね。バイトもしっかりしてるし、仕送りも充分以上にあるからさ」

 部屋に着くや否やそう言われても流石におんぶに抱っこはダメだから、電気代云々はお言葉に甘えるにしろ、せめて食費の半分ぐらいは出さないとだとね。こっそりご先祖様の財布に紛れ込ませていくことにしよう。

「旅してるんだよね?だったら疲れているだろうし、夕飯が出来たら呼びに来るから、ゆっくりしていたらいいよ」

 言い残してご先祖様はドアを閉め、その場から去っていった。足音の止まった位置からしてキッチンに行ったのだろう。

「夕飯って何時だろう。聞いておいたら良かったかな?」

 言われたその日に時間移動するのなんて何回もしてきたと思っていたのに、やっぱり突発的に決まったことに対応しきれなくって、経路の確認や、その時に着用していた武器やらの戦闘用品を置いてくる事を忘れることがあるんだよね。前もって準備すれば問題ないんだけど。

「はぁ。とりあえず荷物に有る普通の服に着替えよう。ね」

 服を脱ごうとした時に私の手が止まる。

 これ、脱いだ途端にご先祖様が来たりしないだろうか?そう思ってしまったのだ。

 この部屋内鍵は――――うん。閉められるね。鍵を閉めてからじゃないと。

「気を取り直して着替えっと……そりゃあそうですよね。戦闘用の靴や拳銃があるんだから、当然防弾ジョッキも着てますよね!ああぁぁぁ!もう!」

 と大声を出していると、廊下からドタバタと音がしたと思ったら、ご先祖様の声が聞こえた。どうやら大声をいきなり出したものだから何事かと駆けつけたようだ。

「ど、どうかしたの!?何か叫び声みたいなのが聞こえてきたけど!?」

 ごめんなさい。自己嫌悪して叫んでいました。なんて言ったら笑われるだろうから言わないでおく。

 叫び声を挙げたに等しい状況にもかかわらずノックだけを行い、ドアノブに手をかけようとはしない所は、紳士的なのか、単に女の子の居る部屋に自分から入れないだけなのかはさて置き、

「だ、大丈夫です!足の小指ぶつけただけですから!それより、料理してらっしゃったのでは!?」

 小指をぶつけたなんて大げさな嘘だが、料理の途中の可能性を考えると叫び声から沈静化までの時間が一番短いであろうこの言い訳が一番良い!

「小指ぶつけた!?大丈夫!?――――え?料理……料理……りょう……り!!!!!やばい!」

 そんな慌てふためくご先祖様の声を聞いていると、なんだか服装を完全にミスっていたことに嘆いていたことが馬鹿らしくなった。

 着替えてしまおう。さっさと着替えてしまおう。着替えなんて1分もかけちゃダメだもん。換装は素早くしないといつ敵が来ることやら……―――――ゆっくり着替えよう。

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