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物語の墓場  作者: 真下地浩也
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愛を知らない少年の物語

 昔々、とある小さな村にジルという少年がおりました。

 彼に両親や親戚はおらず、村の外れで一人暮らしをしていました。

 ジルは他の人にはない不思議な力を持っていました。

 それは人の痛みを引き受ける力です。

 力を頼りに人がやってくるおかげで、彼は寂しくありませんでした。

「ジル、転んで膝を擦りむいたから痛みをとってよ」

 と、友達がいいました。

 ジルは喜んで痛みを引き受けました。

「ジル、風邪をひいて喉が痛いから痛みをとってよ」

 と、近所のお兄さんがいいました。

 ジルは喜んで痛みを引き受けました。

「ジル、腰が痛いんじゃが痛みを取ってくれ」

 と、村のおじいさんがいいました。

 ジルは喜んで痛みを引き受けました。

「ジル、頭の痛みを取ってちょうだい」

 と、隣村のおばさんがいいました。

 ジルは喜んで痛みを引き受けました。



 それから数年が経ち、いつしかジルの噂は村から城下街へ届くようになりました。

 ジクジク。

 ヒリヒリ。

 ズキズキ。

 その頃からジルはどこも怪我していないのに、いつも胸が痛くなるようになりました。

 理由がわからず、ジルは首をかしげました。

 しかし、それでもジルは痛みを引き受け続けます。

 ジルにとって痛みは自分を証明してくれるものでした。

 その上、人と繋がりを持たせてくれる痛みは、ジルに人の愛を感じさせてくれるものでした。

 ある日ジルは国の王様にお城へ招待されました。

 ジルは喜んでお城に行きました。

 王様は娘の痛みを引き受けてほしいといいました。

 ジルは喜んでお姫様のいるとんがり屋根の塔の最上階にある部屋に行きました。

 部屋にはジルと同じ年くらいの少女が一人いました。

 ジルはすぐに少女がお姫様であることに気づきました。

 太陽の光のように綺麗な緩く巻かれた金色の髪が、窓から入り込む風になびいていました。

 お姫様もジルに気づき窓の外からジルの方へ振り返りました。

 雪のように白い肌。

 澄んだ水のように大きな青い目。

 熟した赤い果実よりも赤い小さな唇。

 お姫様はジルが見た人の中で一番綺麗でした。

 ジルはお姫様に痛みを引き受けるといいました。

 お姫様は首を左右に振って、こういいました。

「これは私の痛みです。だからあなたに渡せません」

 お姫様の言葉にジルは驚きました

 なぜなら今までジルが痛みを引き受けてほしいと頼む人がいても、断る人は一人もいなかったのです。

「可哀想な人ですね。あなたは誰にも愛されなかったのですね」

 と、お姫様はジルにいいました。

 ジルはお姫様のいった意味がわかりませんでした。

 お姫様の痛みを何度も引き受けようとしましたが、引き受けることはできませんでした。

 ジルは王様にお姫様の痛みを引き受けることができないといいました。

 王様はジルがお姫様の痛みを引き受けるまで、村へ返さないといいました。

 ジルに与えられた部屋はお城の物置小屋でした。

 物が乱雑に積み上げられていて、今にも倒れそうでした。

 どこかから隙間風が吹き、床は石で出来ていてとても寒い部屋でしたが、ジルの寝具は汚れたシーツ一枚です。

 ジルは何もいわず、シーツに小さく体を丸めて寝ました。

 他人の家に来た時に、寒い物置小屋で眠ることはジルにとって、いつものことだったからです。



 次の朝もジルはお姫様に痛みを引き受けるよといいました。

 やはりお姫様は首を左右に振りました。

「私は絶対に治らない病気にかかっているのです」

 お姫様は悲しそうな顔でいいました。

 今にも泣き出してしまいそうなのに、涙を見せませんでした。

 痛みを引き取っていないのに、不思議とジルは胸の痛みが強くなりました。

 お姫様は窓の外を見てごまかすように笑いました。



 それから毎日、ジルが痛みを引き受けるといっても、お姫様は首を左右に振り続けました。



 数ヶ月後。

 とうとうお姫様はジルに痛みを渡すことなく、痛みに苦しんで死んでしまいました。

 王様は頼みを聞けなかったジルをギロチンにかけることにしました。

 ジルはギロチン台に固定された時、ようやくお姫様のいった意味がわかりました、

 僕は皆に便利な道具としか思われておらず、誰にも愛されてなんかいなかった。

 しかし、ジルは気づくのが遅すぎました。

 ギロチンの刃がジルの首を境に頭と体を二つに分けました。



 ジルが目を覚ますとそこはお花畑でした。

 色とりどりの花が見渡す限りに広がっていました。

 ジルの頭と体はくっついていて、自由に動かせました。

 花畑には花冠(かかん)を頭にのせたお姫様がいました。

 お姫様はジルに手招きしました。

 ジルは素直にお姫様の隣に行きます。

 お姫様はジルの頭に同じ花冠をのせ、楽しそうに笑いました。

 ジルはお姫様にいいました。

「僕は皆に便利な道具としか思われていなかったんだ。誰にも愛されてなんかいなかった」

 もう痛くないはずのジルの胸が今まで一番痛くなりました。

 お姫様は悲しそうな顔で頭を左右に振り返りました。

 そして、ジルの頬を両手で大切そうに包み、視線を合わせました。

 お姫様の目に泣きそうなジルが映っていました。

「私はあなたを道具だと思ったことはありません。あなたは私の愛する人です」

 ジルの胸の痛みが暖かい日差しに氷が溶けるように消えていきました。

 そこへ一人の長い前髪で顔のほとんどが見えない青年が現れました。

 青年は女物のニット帽を頭に被り、洒落(しゃれ)たシャツに花のタイピンでネクタイを止め、ガーデンを羽織(はお)った、膝下のレギンスの上に(ひざ)丈の黄土色のパンツ、足首を(おお)う底の厚いブーツを()いていました。

「俺は全知全能だから、どちらか一人だけ願いを叶えてやる」

 唐突に青年はいいました。

 ジルはお姫様を普通の少女にしてほしいと願いました。

 お姫様はジルを普通の少年にしてほしいと願いました。

 二人の願いを聞いた青年は髪の隙間からとても嬉しそうに笑いました。

「どちらの願いを叶えてほしいか二人で決めろ」

 と、青年は二人にいいました

 二人は話し合いましたが、互いに譲りませんでした。

 あまりに二人が譲らないので、青年はまたまた嬉しそうに笑いました。

「特別に二人の願いを叶えてやろう」

 そういって、青年はどちらの願いも叶え、消えてしまいました。

 残された二人は普通の少年と少女になり、絶対に枯れない花が咲き乱れるお花畑でいつまでもいつまでも幸せに暮らしました。


 初投稿で何かと至らぬ点があると思いますが、少しでも楽しんでいただけたらと思います。

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