小さなナイト1
ギルバートは、なんと言っても真面目な少年だった。
私より2つ歳上だという彼は、とても9歳とは思えない身のこなしぶりで、本当ならかなり歳上のはずの私は、少々自分を恥じた。
たった9歳で、こんなにもしっかりとした少年はそうそう居まい。
すごいわ!ギルバート
そう言うと、ギルバートは目を丸くして「そんなことはありません、お嬢様」と少し顔を赤くした。
……なんて可愛いのだろう。
だが、私がどれだけギルバートを褒めても彼はちっともいい気にならず、何ヵ月経っても彼は私を『お嬢様』と堅苦しく呼んで、後ろをついてきていた。
そんな真面目なギルバートが私はいたく気に入り、しかも将来有望な美少年になるだろう彼が今から楽しみで仕方がなかった。
「ねえ、ギル。ちょっと見ていてね」
「……はい?」
麗らかな午後の陽射しの中。
私はギルバートを連れて、男爵家の庭園を歩いていた。
そして急に立ち止まり、ギルバートを振り返ると、そう言ったのだった。
ギルバートは案の定、ぽかんとしなにが始まるのかと困惑しているようだ。
私はドレスの裾を持つと、丁寧にお辞儀をした。
少しだけ膝を曲げ、首を傾ける角度は慎重に。
そして顔を上げると、目を見開くギルバートに
「どうかしら?」と尋ねた。
「どう、とは……?」
ただただ困惑するギルバートに、私は「レディのお辞儀よ」と言った。
そこでようやくギルバートは、私が何をしたかったかのかを悟ることができたようで、花が咲いたような笑顔を私に向けた。
「とても素敵でした。お嬢様はきっと素敵なレディにおなりになりますね」
「そうかしら?」
「はい。毎日マナーを学んでおられるのですから、何年後かには誰もが振り返るレディになられますよ」
ギルバートは心底そう言ってくれているようだったが、彼は私の従者だ。
お世辞は必須の主従関係。
9歳にしてはやけに上手い喋りは、従騎士学校で学んだにちがいない。
もっと、ギルバートが声が出ないくらいに美しいお辞儀ができるようにならないと!
立派なレディにはなれないわ!
私はそう意気込むと、夕方になるまでギルバートを付き合わせ、何度も何度も彼の前でお辞儀の練習をしたのだった。
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「ギル、大丈夫?」
「お嬢様……っ?入ってきてはいけません……!」
その日、ギルバートは朝から熱を出していた。
いつもなら静かに私の後ろに立っているギルバートが居ないのでどうも落ち着かず、言いつけを破って彼の部屋まで来てしまった。
ギルバートは熱で真っ赤になった頬を少し膨らせて、私を怒った。
かわいい!なんて思っていると、半身を起こしたギルバートに聞いていますか?とさらに叱られた。
「良いじゃない。ギルが心配なの」
「私は大丈夫ですから……それよりもお嬢様、マナーのレッスンや旦那様の授業があるのではないのですか?」
痛いところを突かれた、と思ったが、私は歳上の余裕でひらりと交わした。
「大丈夫よ。どちらも午後からにずらしてもらったの」
「それでは、どちらも時間が短くなってしまうのではないですか?」
「そ、そんなことないわ……」
狼狽える歳上。
9歳のはずなのに、どうしてこうも頭の回転が早いのだろう。
思いっきり動揺していると、ギルが私の手をぎゅっと握りしめ、緑色の瞳で覗きこんできた。
更新が予定よりも3ヶ月遅れてしまったこと、深くお詫び致します__
パソコンが故障し、携帯投稿のやり方が分からなかったという、何ともアホな理由で応援したくださる皆様の期待を裏切ってしまっていたこと、本当に申し訳なく思っています。
これからは、携帯投稿で順次転生したらを更新していくつもりなので、どうぞ今後とも応援よろしくお願いします。