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侍従の少年 目線(ギルバート)

 この国には、騎士制度がある。騎士になるには、貴族や平民、さらには王族といった地位は関係なく、誰でもなることができる。とはいえど、騎士の訓練は相当厳しく、騎士団に入団した約5割が3年後には辞めると聞く。

 

そのため、騎士団に入団する前の、模擬演習として従騎士団というものがあり、主に8歳から11歳までの子供がそこに約2年間所属していた。

 僕もその中のひとりだった。ただ、僕は人より少し早くに入団し、7歳で入団すると9歳で卒業し、12歳から入団の許される騎士団までの3年間をどうしたものかと頭を抱えていた。例年、人数の多い従騎士団に受け入れられる余剰スペースはなく、僕は途方に暮れた。


 平民出で従騎士団卒業、という肩書を持つ奴なんて腐るほどいる。それを頼みにして、何かの仕事に就こうなんて、まず無理だった。従騎士団で騎士としてのマナーや剣の鍛錬を行ってきていても、普通の仕事に必要な要素がまるでない。騎士が役立つのは、その主がいる場合のみだ。それを痛感しながら、日雇いの仕事をしながら暮らしていたある日。

 

従騎士学校から連絡があり、なにごとだろうと僕は再び懐かしい学校へと舞い戻った。まさか、受け入れスペースが空いたとか?そんな淡い期待を抱きながら戻ると、学校長室に呼ばれ、中に入ると学校長と見慣れない……おそらく貴族の男の人がいた。


「ああ、よく着たね。ギルバート。その後調子はどうかな?」

「お久しぶりです学校長。……なんとかこの通り、生きていけています」

「ははっ。本当にそのようだね」

 従騎士学校に居たときだって、もっとマシな服を着ていたな。よれた服を着ているのを少し恥ずかしく想いながらも、まあ仕方ないと思ってすぐ顔を引き締めた。

「男爵。こちらがギルバートです」

「なるほど。確かに綺麗な顔をしているね」

 にこりと笑ったその男性こそ、貴族らしい綺麗な顔をしていた。金色の髪に青い目。童話の中に出てきそうだ、なんて考えていると学校長が言った。

「どうでしょう。礼儀正しく従騎士学校を首席で卒業している優秀な子です」

「うむ・・・・・」

 どういった話なんだ?内心で首を傾げながらも、品定めするような視線に身体が硬直する。一見優しげな青い目は、意外と鋭く、どういう状況下いまいち理解できなかったが、僕は胸を張って背筋を伸ばした。

 数秒後。緊張する雰囲気から一変、男爵と呼ばれた男性から、思いもよらない言葉が出た。


「よし。いいね、君にしよう。今夜から我が家においでギルバート。君に職を与えよう」


 それが、セントバールズ男爵との出会いだった。


**



「ここが、お屋敷ですか……?」

「ああ。なにせ田舎だろう。だから土地も安くてね。結構大きい屋敷が建てられたんだよ。想像していたのと違うかい?」

「い、いいえ……っ」

 主に対して無礼な考えが顔に出ていたのかと、さっと青くなる。けれども、男爵はそんな僕を特に叱ることもせず、ただにこにこと笑うだけだった。

 フラッケンボルン領。アルブハム伯爵領ともいう、代々アルブハム伯爵家が納めてきた領だ。都市部から程遠く、かなりの近道のルートで王都とこの領の中間にあった従騎士学校を昼間前に出てきたというのに、この屋敷にたどり着くまでには、半日以上がかかってしまった。……だが、それについて、文句を言うつもりは毛頭ない。男爵はお優しい方で、従騎士身分の僕にも、昼食や間食をくださった。

 初めて仕える主が優しいと、その次から仕えるのが辛い身になる……と騎士団の人が言っていたのを思い出す。確かにそうかもしれないな、なんて思っていると大きな門が開き、中から使用人らしき初老の男が出てきた。手にはランプを持っている。


「おかえりなさいませ、旦那さま」

「ああ、ただいま。ギルバート、この屋敷の筆頭執事のセバスだ」

「…よ、よろしくお願いします!」

 とは言ったものの、僕を目を丸くして見つめているセバスさん。そりゃそうだ。まずは自己紹介しなくっちゃ僕が誰だか分からない!

 顔を赤くした……たぶん暗闇のせいで分からないと思うけど……僕をどこか楽しげに見つめている男爵に気付き、首を傾げながら勢い余るような勢いで、セバスさんに頭を下げた。

「今日からこのお屋敷に仕えさせていただく身になりました、ギルバートです。従騎士学校を卒業して、騎士団に入団するまでの3年間を、このお屋敷で雇っていただけることになりました」

「ほお。なるほど!従騎士学校を……それはまあ、なんと立派な。では、旦那様の護衛を…?」

「いや。私の護衛はひとりで十分だ。それにそうそう命を狙われるような身分でもない。それより、スーザンにどうかと思ってね」

「ということは、お嬢様はゆくゆくは王都へ―――?」

「ああ。なにせあの器量だしね。遊び相手に是非どうかとあちらから強い要望があったんだ」

「そうでしたか……・」

 ―――まったく話についていけない。てっきり、旦那様の身辺警護を任されるものだとばかり思っていたけれど、違ったのか……?

 どうやら僕がお仕えするのは、スーザンというお嬢様らしいけど、王都へ行くのか?……全然分からない。


「とはいえど、こちらは男爵家だ。将来的にそのままずるずると結ばれるようなことにはなるまい。あまりにも身分が違いすぎるからね」

「……平民の私にとっては、男爵家もとても尊い家柄の様に思いますが……やはり王族は雲の上のお方ですね」

 王族?!ということは、スーザンお嬢様?は、王族の誰かの相手をしに王都に行くのか?男爵の話からすると、結婚とかいうのではないみたいだけど。なんだか、やっぱり遠い世界だなあ。

 セバスさんの意見はもっともだ。

「…!ああ、すまない。ギルバート。訳の分からない話だったろう。この話は、おいおい話すとして、今日はもう寝なさい。挨拶も明日で良い。使用人の使う風呂があるからそこで汗を流すといい。部屋にはセバス、案内してやってくれるか?」

「かしこまりました」

「ではおやすみ。ギルバート。明日から頼むよ」

「はい!旦那さま」

 返事をすると、にこりと笑って頭を撫でてくださった。本当にお優しい旦那さまだ。庭を散歩していくといって別れた旦那さまに頭を下げ続けていると、セバスさんにやんわりと促された。

 「では、まいりましょうか」

「はい。お願いします」



……こうして僕の、セントバールズ男爵家での3年間が始まったのだった。

 案内された部屋は、狭いながらも小奇麗で、ベッドも綺麗にベッドメイキングされてあった。そこに小さなトランクを置いて、ふうと息をつく。


 スーザンお嬢様。どんなお方なんだろう。短いとは言えど、3年間お仕えする僕の初めての主だ。少し緊張しながらもその夜は、窓から見える黄色い月を見て眠りについた。


はい!ギルバート出陣しました。イケメンポイントを全然書かなかったのですが、結構な美系ですので…次回からは事細かくそこを書いていこうと思います。まだ9歳なのですが、可愛い少年より、綺麗な少年派という感じのギルバートです。

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