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レディーを目指して2

 「まず、スーザンにはこの国の貴族制度を教えてあげなければね。といってもまだ3歳のスーザンにはとても理解できないだろうから、まずは我がセントバールズ男爵家について話してあげよう」

 

そんなことを呟きながら、机の上に古びた地図を広げた我が父・チェールズ=セントバールズ男爵。その顔は私が前世で見たことが無かったくらい美しく、また父自身がとても博学な人だった。


「ご覧。これは地図と言ってね、スーザンの住むこの屋敷があるフラッケンボルン領やその他にも様々な場所が絵になってこの中に記されているんだ。お父様はフラッケンボルン領内の西側、ここオルトワック区という場所の管轄を任されているんだ」


そういってお父様が指差した場所は、広大なフラッケンボルン領の中の西側領土、いくつもの区画に区切られたうちのひとつオルトワック区という所だった。地図上で見れば、あまりにも小さなその領土。

 まあ、すごく小さいのね。私は思いついたことをそのまま言う子供習性を活用して、ぺろんとそう言った。

 すると、お父様はちょっぴり苦虫を噛んだような顔になって言った。

あら、やっぱりまずかったかしら。


「そうだね。フラッケンボルン領全体を管轄下に納めているのは、アルブハム伯爵家で、お父様は国王陛下に仕える身だが、同時にアルブハム伯爵に……そうだな、伯爵にも仕えている身なんだよ」

「あるぶはむ伯爵……?」

「お父様よりもずっと偉い地位にいる方だよ。だけどね、スーザンこの地図を見てご覧。

 国王陛下がいらっしゃる王都ウルドワの周りにも広大な土地がたくさんあるだろう。ヘルンゼン領、メルドワ領、プルストック領。王都を囲むこの3つの領は、国王陛下の信任の厚い公爵家や侯爵家の方たちが納めていらっしゃるんだ。

 その方たちは、田舎領のフラッケンボルンを納めるアルブハム伯爵よりも一段と偉い人たちなんだ。

 スーザンの言った通り、我がセントバールズ男爵家は、貴族社会の末端だ。例えばヘルンゼン領を納めるベルドガラック侯爵家とは地位も格式も何から何まで全然違う。

 でも、だからといってこのセントバールズ男爵家が、何の魅力も栄誉もない家というわけではないんだよ。スーザンももう少し大きくなって、我が区の区民と喋ったり触れあったりすればきっと分かる。いかにこのセントバールズ家が慕われているのかということをね」


 にこりとほほ笑んだお父様に頷く。

きっと、お父様の今の説明は、普通の3歳児なら全く理解できなかっただろうと思うけれど……熱く語るお父様はそんなことには気が付いていない。

 私は地図を目で辿りながら、国全体を眺めた。トワルブリッシュ王国。

その名は前に生きていた時、よく耳にした名前の王国で、代々善政を納める国王の統治下の元で、国民は皆幸せに暮らしていると言う、夢の様な王国だった。まさに理想郷。旅行者は受け入れる者の、難民は受け入れないと言うトワルブリッシュに、何度行きたいと願っただろうか。

 まさか、私の今住んでいるこの場所が、そのトワルブリッシュだったなんて。感動を覚えながら、ふと私は気になったことを尋ねた。


「……お父様、このアイリスという国はどういう国なの?」

「ん?」

 アイリス。良国トワルブリッシュの横に位置する小国。愚王も賢王も未だ現れたことの無いと言う国。どちらかといえば貧しく、トワルブリッシュへの脱国者が一番多い国だったらしい。

 そこは、私の故郷だった。

「そうだね。今は若い国王が立たれて、段々と豊かな国になっているらしい。その正妃様が大変美しいらしくて―――名前はなんだったかな。この国では確か天使を意味する言葉で……ああ、そうそう!フロリア様だ。とてもお優しい方らしい。まあ、我が家のスーザンも負けず劣らず可愛くて優しい娘……って、え?!スーザン!どうしたんだい?」


 ぽろぽろと涙が止まらない。懐かしい名前に、心臓が痛む。

フロリア。この国では天使と言う意味だったんだ。あの子にぴったりだわ。

 優しくて健気で、誰よりも私が愛した妹。

 そっか…… 正妃になったんだ。平民上がりのフロリアがその美しさを買われて、伯爵家の養女になってからは、一度も会えなかった。風のうわさで、その後後宮へと召し上げられたと聞いた時は、心配で胸が張り裂けそうだった。いくら伯爵家の養女になったからといって、少し調べればフロリアが元平民だなんていうことは、すぐバレる。

 ……きっと、何度も苦しむことがあったに違いない。それでも、それを乗り越えて、一国を納める国王の隣に立つことを選んだのだ。


「……ううん、お父様。私、きっとその方よりも、優しくて美しい人になんてきっとなれないわ」

「スーザン?」

「だってきっとその方は、すごく素敵な人なんだとおもうの……」


 ぐすん、と鼻を鳴らすと、ふわりと身体が温かな体温で包まれた。


「そうだね。とても素晴らしい人のようだよ。けれどスーザン。お父様にとって、君以上に素晴らしいお姫様なんていないよ」

「おとうさま…」


 涙で霞む視界に、お父様の優しい笑顔が広がる。

もしかしたら―――とふと思う。フロリアは今、幸せではないかもしれない。以前と違って、毎日美味しい御飯を食べられても。温かな服を着られても。

 ……ううん。でも、たぶん。フロリアは幸せなんだろうと思う。花が咲いたような笑顔で、どんなに苦しい時も笑っていたもの。

 それに、私には今、フロリアが幸福か不幸か知ったところで何もできない。以前のスターシアの姿ならまだしも、今の姿ではフロリアにはどうやったって私がスターシアだと証明することもできないし、もう一生会うこともないだろう。

 ……だから、毎日スターシア(姉)として、フロリアの幸せを願おう。


「もう今日はここまでしようか。スーザン」

「えっ まだ大丈夫…」

「なんだか今日は疲れているみたいだしね。せっかくのお休みなんだ。お父様とお庭で遊ぼう」

「わあ!いいのっ?」


 にこりと笑えばにこりと笑い返してくれる。素敵なお父様。


「まあ、それはいいわね。お母様もよしてちょうだい」

「!おかあさまっ」

 ドアに凭れて、持っていたバスケットを抱え上げたお母様に走り寄る。足に抱きつけば、優しい手つきで頭を撫でられた。


 優しい家族。もう私はスターシアじゃない。スーザンなんだ。

いつまでもスターシア(前世)のことばかり考えて、スーザン(今)のことをないがしろにしていたら、この優しい両親にも、よくしてくれる侍女や使用人の人にも申し訳ない。


 手を引かれながら、私はこの日、スターシア(前世)と決別することを決意した。

大変お久しぶりです!!!遅くなってしまい、土下座の勢いです!!m(__)m

久しぶりにスーザンを書いていて、そういえばどこで妹の話出そうとか、前世とハッキリ別れないままスーザン育っていいのかとか考えて、今回は無理やりながらもそういう話をねじ込みました。無理やり感ハンパないですね。

 次からは、美系少年登場します!はい、大変ながらくお待たせ致しました!

とはいいつつ、彼がスーザンの本命であるかは………秘密です。

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