レディーを目指して1
先日投稿していた「もう大人です1」の間に、スーザンの幼少期の奮闘話を入れました。もう大人です1は、幼少期編が終了次第、改めて投稿し直しますm(__)m
「お父様っ!お帰りなさい!!」
「ああ、ただいま。スーザン」
駆け寄って抱きしめると、そのままお父様の腕に抱きあげられた。
視界が一気に高くなる。
いくら子供とは言え、3歳の私はそれなりに重いはずなんだけれど、お父様は軽々と私を抱き上げる。
「良い子にしていたかい?」
「うんっ」
「そうか。では、良い子にはご褒美をあげないとねえ」
「本当っ?うれしいっ」
わくわくとした表情でお父様を見つめる。お父様は、私の頬にキスしてから、にこやかに笑って言った。
「そうだ、お人形さんをあげよう。王都にね、素晴らしい職人が居るんだ。その人に頼んで……」
「わたし、お人形さんはいらないわ!それよりも、お勉強をおしえてほしいの」
「え、いらないのかい?!」
嘘だ!と言う目で私を凝視するお父様に、本当よと頷く。その表情にはありありとショックの色がうかがえて、少しかわいそうになった。
まったく、かわいらしくない反応の子供を持ったお父様。ごめんなさい。
でも、私いまさら精神年齢18歳(スターシア15歳+スーザン3歳)で、お人形遊びは、ちょっと……できません。
「どうしてだい?可愛い熊のお人形さんはいらないの?」
「まあ、お父様。熊って本当は怖いのよ。目つきは鋭いし、身体は大きいし。お人形の熊とは全然違うんだから」
「スーザン!熊を見たことがあるのか?!」
しまった。内心で舌を出す。つい、口を滑らしてしまった。
見たことがあると言えばあるが……スーザンとしてはもちろん見たことが無い。大事な一人娘として、屋敷の中で蝶よ花よと育てられている私。
まだ一度も屋敷の外には出たことが無い。
無論、屋敷の敷地内に熊が入ってくるなんてことは、あり得ない。
「ち、ちがうわ。本でみたの」
「本?挿絵つきの生物学の本なんて…鍵のかかった地下の書庫にしかないはずだぞ……」
しまった!!地下の書庫は、我が男爵家の宝物庫のようなもので(実際、金品は全く入っていないけれど)、お父様の大切な学術本なんかがたくさん詰まっている。
その書庫の鍵は、お父様しか持っていないのだ。
眉をひそめて怪しがるお父様に、慌てて弁解した。
「あ、ち、違ったかも!!セバスに聞いたんだっけ……」
「セバスに?」
怪しい、という目で私を見つめてくるお父様。
本当よ本当よと必死に訴える。セバスはこの屋敷の筆頭執事。
博学で、よく私に物語何かを読んでくれるのだ。それを知っているお父様は、やがてしぶしぶと言った様子で頷いた。
よかった……。
「まあ、スーザンが実際に熊を見ることなんてあり得ないしね。うん、そうだ。あり得ない」
「うん。セバスが確か、熊の絵を描いてくれたのよ!そう、そうだったわ!思い出した」
「ほお。セバスは絵が上手いからね。すごくリアルだっただろう」
「うん!すごく怖い顔をしていたわ」
ぶんぶん首を振って頷く。私はまたボロが出て怪しまれる前に、お父様に切りだした。
「だから、熊のぬいぐるみはいらないの。だって本物を知っているから、夜にそれを見て想像してしまいそうだもの。だから、ぬいぐるみよりもお勉強をおしえてほしいの!}
必死に頼み込む。まずは文字が読めるようになりたかった私。勉強なんてしたくても、一生無理だと諦めていた事だったからだ。
だけどわたしはスーザンとして生まれ変わることができた。
チャンスは活かしたい。
「ねえ、いいでしょ?」
「そうだね……お前も私に似て知識欲が豊富なんだろう。いいよ、教えてあげよう。そのかわり、妥協は許さないよ。ちゃんとお勉強できるって約束できるね?投げ出したりしない?」
「しないわ!ちゃんとやり遂げる!」
「……よし。なら教えてあげよう。そうだな。今日は忙しいから、明日から開始しよう。明日の夕方、お父様の書斎に来なさい」
「はい!ありがとうお父様!!」
「わわっ」
かくして、私の念願だったお勉強レッスンが始まったのだった。