頑張るギルバート1
「……ん…」
柔らかな感触が背中に広がっていて、私は微睡みの中から目を覚ますと、そっと目を開けた。
夜中なのだろうか、部屋は薄暗く、近くで燃える蝋燭の火だけが部屋を照らしていた。
「お嬢様……。お目覚めですか?」
「?!……ギル」
……びっくり!びっくりした!すっごくびっくりした!!
体を起こすと、部屋の壁近くに剣を腰に下げたままのギルバートがいた。
どうやらここは、お城の中の私の部屋らしい。
意識が覚醒してくると、だんだんと見慣れた風景が目についてきた。
心臓がドキドキしたまま、近付いてくるギルバートを見つめていると、その表情が曇っていることに気が付く。
「ギル?」
「御気分はいかがですか?」
「う、うん。大丈夫だ……よ…」
あれ?私なんでドレスのまま寝ているのかしら。
どうやら髪も結ったまま寝ていたらしい。
ひとり首を傾げていると、ギルバートが「お水は飲まれますか?」と聞いてきた。
私は喉がカラカラだった事に気が付き、ありがたく頂くことにした。
こくこくとコップの水を飲み終えると、ほうっと息をつく。
そして、ふとギルバートの視線を感じ彼を見ると、ギルは私の目ではなく下の方を見ていた。
「ギル?」
「っ!!……申し訳ありません」
何に謝っているのか、と思ったけれどいつもと違う様子のギルバートに激しい違和感を感じた。
空気が固い。よそよそしい。
何よりギルの癖である、緊張したら口を真一文字に引き結ぶというアレが今現れていて、ギルが何かを思い詰めているのだと、理解した。
長年の感……というほどの歳月をまだ共にしてはいないが、ギルより長い年月を生きている私には、経験的に分かった。
ギルは何かを我慢している。
私は年上の余裕を持って、ギルの悩みを聞いてあげることにした。
まず、こういうのは触れ合いが大事。暖かい温度を共有すれば、自然とホッとするもの。〈……たぶん〉
私は床に付いた膝の上で固く握りしめられたギルバートの手をそっと握り、首を傾げた。
「ギル……なにか悩み事があるの?」
「!!っ、あ、ありませんっ」
「うそ。ギルの癖、出てるもん」
「癖……?」
緑色の目を丸くしたギルバートが私を見つめる。
子猫みたいな目だ。
「ギルって緊張してたり、悩み事があると口をこうね…ぎゅっとするの」
私がそう言って、ギルバートの唇に触れると、ギルは目を見開いて固まった。
あれ?似たようなシチュエーションがさっきあったような…?…なんだったかしら。
思い出せずに、案外ふわふわして気持ちいいギルバートの唇をつついていると、ギルが真っ赤になっていった。
「おおおお嬢様!!手、手を!」「手?」
「く、口に!口にある、手を!おは、なしください!」
そこで私は、ギルバートの唇に置いたままだった指先に気が付き、慌てて手を引っ込めた。
ギルバートを見ると、うっすらと瞳が濡れていて、私は泣いているのかと錯覚し、慌てて謝った。
「ごめん!!ごめんね、ギル!」「っえ?」
「私ったら無神経に……」
頭を下げると、次はギルバートが「大丈夫。大丈夫ですから!」と慌てて私の頭を上げさせた。
「……ごめんね」
「いえ……」
「そうそう。ギルは……何に悩んでたの?」
本題を思いだしギルバートに尋ねる。
するとギルは困ったように目を逸らした。
「…ギル?」
「いえ。なんでもないんです。お嬢様にお話するようなことじゃありませんから……」
俯いたギル。
私はそれが"身分"を気にしたギルバートの拒絶だと思い、悲しくなった。
やっぱり、ギルは身分を気にしている。
私がお嬢様だから。スーザンだから。言えないんだ。
「じゃあ……私じゃなかったら言える悩み事?」
そう尋ねるとギルはハッと目を見開き、そして小さく首を振った。
「じゃあ、どうして私に言えないの?誰にも言えない?
本当はやっぱり私だから……言えないの?」
「ち、違いますっ」
ギルバートは聞いたこともないような大きな声で否定すると、驚いた私を見て謝った。
そして、思いきったように口を開いた。
食物連鎖的に
レイス王子→スーザン→ギルバート
って感じな気がします。
ギルバートは本当に健気です。可愛いぞ、ギル!(T-T)




