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見つけた使命2

レイス王子は、私の一言一句を決して聞き逃すまいと、真剣な面持ちで聞いてくれているようだった。



話終えた後、数分だったのか数十分だったのか、はたまた数秒だったのか分からないが、とにかく静寂が訪れた。



とても静かな時の流れだった。王子様はテーブルの上を見つめ、ゆっくりとした瞬きを繰り返していた。



冷や汗が流れ出る。

これは賭けだった。



私が話したことは「魔女だ!」「悪魔だ!」と言われれば、即刻宗教裁判にかけられ、そして即刻、火やぶりになるかギロチンになるかの重大な秘密だ。



実際、こんな話をされて私がただの人だと思える人間なんか、いるのかわからない。

いないかもしれない。



だけど、私はスーザンとして生きるなら、自分の使命を全うしなくてはならないと、ついさっき誓った。

約束は違えない、それがセントバールズ男爵家の家訓だ。



「……そう。スーザンがそう言うのなら、そうなんだろうね」

「え?」

「信じるよ。きっとそれは事実だ」



レイス王子が、にこりと微笑んだ。青い瞳が、まるで海のように広く感じられた。



「嘘だと…思わないのですか?」


「さあ、スーザンが嘘だと言うなら嘘なんだろうし。

それは僕が判断したって、仕方のないことだ」


「…っま、魔女だと思わないのですか?悪魔だと…

聖書の神にさえ、背いた命で私は生きているのに…」



そう言うと、王子様は黒い前髪から覗く青い瞳を細めた。



「神……しかし聖書の神は生きとし生けるもの全てに平等の命があると説いている。

スーザンが例え神の御心からではない出生を遂げていたとしても、全ての命は平等だ。

背徳の命など存在しない」



王子様はそう言うと、私の瞳をじっと見つめてきた。

そしておもむろに立ち上がると、長い足で部屋を横切り、備え付けの本棚から一冊の本を取り出した。



「……聖書?」

「スーザンは前はアイリスに生きていたんだっけ?」

「はい…」



すると王子様は窓辺に立ちバルコニーへと続く扉を開ける、「おいで」と私を呼んだ。



私は恐々とした表情のまま、バルコニーへ出た王子様の後を追う。

バルコニーの手すりの凭れた王子様は黒い髪をさらさらと風に靡かせ、聖書を捲った。



あまりに絵になったその立ち姿に、状況を忘れ見とれていると王子様が言った。



「トワルブリッシュには、国の宗教がない。つまり無神国家であり宗教国家としての概念は一切もたない」


「…え?でもお父様やお母様は、決まった日に教会へ行っていました」



それはアイリスではよく見られた光景で、親は子供を早いうちから伴ってゆくのだ。

信仰厚い人間にするために。



ここでもそうだと思っていた。トワルブリッシュの風習で、子供は大きくなってから教会につれてゆくのかと思っていたが、違ったのだろうか。



「うん。国としては宗教を持たないが、個々人の信教は認めているんだ。

だから家族であっても、親子や兄弟で信仰する宗教が違ったりするのはよくある」


「家族で信仰する宗教が違うのですか?」



驚いて目を見張る。

まさか、そんなことがあるなんて。



「ああ。ちなみに僕の両親はフロイテン信仰だが、僕は無神論派だよ」

「それって…」


「うん。この聖書の中に出てくる神も実は信じていない。

色んな宗教を知ることは、国を纏める上では必要だから、色んな本を持っているけどね。

だから多神教でもないんだ」



聖書をぱたん、と閉じた王子様が微笑む。

私は呆気に取られた表情で彼を見上げた。



「だから信じるよ。君のこと。君は魔女でも悪魔でもない。

可愛い……ただの女の子だ」



そう言うと、王子様は長い足で近付き、そして私の肩に両手を乗せると視線を合わせるように腰を曲げた。



王子様の髪が、風に吹かれてさらさらと靡く。



「君は?神を信じてる?」


「私は……前に生きていた時、神を信じていました。その聖書の中の神様です。

けど、全ては平等だといった神様を、最後。雪に埋もれて死んでいったときに、恨みました。世界は平等じゃないこと。神様なんていないこと。

だから、今はもう、何も信じていません」



独りよがりになって言っているんじゃない。

ただ、私は事実としてそう思っていた。



「そう。やっぱり、君とは気が合いそうだよ。スーザン」

「え?」



王子様が微笑む。

長い指が頬にかかって、気付けば唇に、柔らかな感触が触れていた。



目を見開いたまま、硬直する。 王子様の長い睫毛が揺れて、薄青の瞳がうっすらと開き、魅惑的に私を見つめた。



……なにこれ。



王子様の唇が離れて、もう一度柔らかな感触がした時。

世界が暗転し、私の記憶はそこで途切れた。




レイス様、ついにやっちまいました。

美少年は時として、凶器になります

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