黒髪の王子様1
12月20日、二度めの投稿です
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長年、慕っていたお母様との別れは、なんとも言えない悲しみを伴った。
私は何も言うことができず、ただお母様の腕のなかで、ほろりと涙を流した。
―――お父様は、王子様の教育係として、馬車で数日かかる王都まで数週間間隔で屋敷との間を往復していた。
それが私の講義があまり進まなかった最大の理由だ。
だが、お父様は家に帰ってくれば必ず私に講義を開いてくれたし、難しくない話を吟味して、それらを真剣に私に話してくれていた。
それに加えて、王子様の教育係という大役。
お父様は本当に尊敬できる人だ。
金髪碧眼という美しい容姿だけでなく、中身も備わった、もう完璧とも言えよう紳士である。
……少し、娘を溺愛し過ぎているのがたまに傷だけれど。
「スーザン。貴女と2年間も会うことができないなんて……貴女の成長を近くで見ることができないなんて」
「お母様……」
お母様の柔らかな腕のなかで、そっと見上げる。
お母様の瞳は、涙できらきらと光っていた。
「でも、貴女がレイス王子の遊び相手に選ばれたと聞いたときは本当に嬉しかったわ。
まだ幼い貴女には大変な事も多いでしょうけれど、決して粗相のないように。
貴女のする事は、お父様、さらには男爵家にも影響するのだから」
「はい。スーザンは立派に王子様の遊び相手として、つとめて参ります」
そう言うと、お母様は「ううっ…」と顔を手で覆ってしまった。
ケイトやセバス、他の使用人達との挨拶を済まし、馬車に乗り込む。
左にはお父様。ふたりで馬車の中から、笑顔で送り出してくれるお母様たちに手を降り、オルトワックの地を出た。
****
それからの毎日は、久しぶりに懐かしい光景の連続だった。
まず、スーザンとしては初めて、外に出て、宿屋に泊まった。
宿屋の食堂でご飯を食べ、馬車でさらに移動して行く。
それを繰り返すうちに、外で暮らす人々の様子、市場や馬車で通りすぎて行く間に見える農家などを何度も見る機会が増えた
3日めの夜。
いよいよ明日は都だという前日の夜は、私は興奮して眠れず、こっそりギルバートの部屋を訪ねていた。
その部屋は私の部屋よりも一回り小さく、ベッドが部屋のほとんどを占めていた。
「ねえ、王子様ってどんな方かしら?」
「私もお会いした事がないので……ですが旦那様は誉めておいででしたよ」
「そうね。あのお父様が私以外の誰かを誉めるなんて、珍しいと思わない?」
ベッドに腰掛け、なぜか床に方膝をついたギルバートにそう話す。
なんでも主人より高い目線にいてはいけないのだそう。
それなら横に座れば、と促すと物凄い勢いで断られてしまった。
「確かに……そうですね」
「きっと、良い方なのね。会えるのが楽しみだわ」
「……は、はい。そうですね」
私がそう言うと、ギルバートはどこかぎこちない様子で頷いた。
緑色の瞳を床に向けながら、なにかを考え込むように口をぎゅっと閉じる。
「ギル?」
「っ、はい!」
呼ぶと、ギルバートははっとしたように目線を上げ、そうしてまた目が合うと気まずそうに視線を落とした。
「……」
「…………」
変なギル。そう思いながら、私は妙に強引なギルバートに部屋を追い出され、仕方なく自室に帰って、眠りについたのだった。
ギル……
ギルバートの気持ちを、一ミリもスーザンはわかっていません