流転8
最後の重傷者を抱え、そのまま校舎を出る。
とりあえずは生徒が避難しているグラウンドに向かう。
グラウンドには救急車が2台程止まっていた。
俺たちがグラウンドに付くころにはさらに2台の救急車が入れ替わり到着していた。
怪我人を救急隊員に引渡す。
というか羽山が何やら救急隊員と話をしている。
会話の内容から察するに、羽山総合病院つまり自分の家の病院に搬送しろとのことらしい。
すでに、病院に連絡しており受け入れ準備はできているんだそうだ。
どこまで準備がいいんだ羽山のヤツ。ホントに頭があがらないわ。
そんなやりとりの後、近くにいる先生を捕まえて、
「やることがあるので帰ります。」
と、羽山は患者と一緒に救急車に乗り込んで帰っていってしまった。
俺は腰を降ろし一息つく、すると校舎の方から大きな音が上がった。
渡り廊下が崩落したのだ。
その日常とはかけ離れた光景、生徒は釘付けになっていた。動揺、ざわめき、信じられないという表情。
だが現実なのだ。
「・・・信じられないな」
俺が驚くのは、渡り廊下が崩れるという出来事のことではない、羽山の判断と行動力。
―――5分。
地震発生から恐らく20分で渡り廊下が崩落したのだ、5分遅ければあの崩落に巻き込まれていた。
羽山の適切な判断と指示がなければ、何十人という生徒が巻き込まれたかもしれない。
「・・・あの状況下で、あの対応」
仮に未来が見えたとしても、俺にここまでの対応ができただろうか?
「・・・いや、無理だ」
どうシュミレートしても、20分じゃおそらく全員の命は救えない。
ましてや未来などわかるはずがないのだ。
「・・・ありえないやつだな、羽山」
尊敬の念、そしてそんなヤツが自分の友達なんだという誇らしさ、そんな感情が篭った一言が漏れてしまった。