流転
姉が死んでから家庭は崩壊した。母さんは姉さんが死んで半年は、ただただ泣いているだけのような状態だった。
今でこそ、家事をするまでに到っているが、当時は俺が家事をするような状態だった。もともと、姉の入院の付き添いとかで度々家を空けていたので、家事はそのつど俺がやっていたため、家事自体は苦ではなかった。父さんは姉が死んでから最初の1ヶ月は心ここにあらずといった感じだったが、1ヶ月を過ぎると悲しみを振り払うかのように、仕事に没頭していった。恐らく、そうでもしなければ心が持たなかったのであろう。父さんはひたすら働き続けた、海外拠点のある企業で働いていたため、海外出張が多くなり家にいることは少なくなっていった。
そのため今日も父さんは家には帰ってこない、出張が終わるのは3週間後だそうだ。
「おはよう母さん」
台所にいる母さんに声をかける。母さんからはいつものように、おはよう宗士と返事が返ってくる。
俺はそのままテーブルに着き朝食を食べる。
二人だけの食卓。
姉さんが元気だった頃は四人でいつも朝食を食べていた。もう5年以上前の話だ。
学校に行くため玄関に向かう。普段は見送りをしない母さんだが何故か今日に限って声を掛けてきた。
「・・・宗士」
最初俺は、傘でも持っていけと言われるのかと思った。食事の時は窓から見えた空は少し厚めの雲が覆っていた。天気予報では雨は降りそうには無いとは言っていたが降水確率は昼から40%と示していたのを思い出した。
「何かな母さん?」
右手を口元に持って行き、少し戸惑った様子の母さん。どうやら傘の話ではないようだ。
では、何だろう。正直心辺りが無かった。すると、
「・・・あの、今日は気をつけるのよ」
と、一言。
正直、面食らった。というより意味が理解できなかった。こんなことを母さんから言われるのは予想外だった。
とりあえず、
「ああ、気をつけるよ」
と言って、家を出た。
学校までの道のり母の言葉の真意を考えてみたが結局わからずじまい、結局気まぐれだろうという結論に達した。