道中の会話 決戦〜凱旋
**scean1**
『ところで、なんで俺の真名を掌握出来ているんだ?』
壜の中で座り込んだルティリウスは尋ねた。
もっと単純な動物たちや魔力が意思を持った存在であるような魔族たちなら力量次第では真名を知るだけで思いのままに操れるが、普通、肉体を持ち、精神構造の複雑な人間相手に真名を知っているだけでは掌握できない。
ひょっとしてこいつは真名を知るだけで掌握できるやつなのか、とルティリウスが考えたのは、彼自身が不可能だと言われている上級魔族に対して同じことが可能であったからである。
そう言うと、勇者キリカはパタパタと手を振った。
「やだな、そんな便利、もとい物騒な能力持ってないよ。真名を掌握するってどういうことかわかる? 存在を支配するってことだよ。そんで存在を支配するには手っ取り早く相手に明け渡してもらえばいい――例えば、心底負けを認めるとか、ね?」
――あんたの負けだよ、魔王ルティリウス
――そのようだ、な……
『――アレか! じゃ待てよ。お前もしかして初めから狙ってたのか!?』
「何を今更。壜に封印もかかってるじゃん。前から用意してたに決まってる」
『な、なんてヤツ……』
魔王はガックリうなだれた。
**scean2**
「あ、そうだ。人に見られたらマズイし、服の中に隠すからね。視界がなくなってもビィビイ言わないように」
『誰が言うか! ……ん? お前、胸を怪我してるのか? 包帯が……』
「……あ。さらし。み、見たのっ?」
『包帯か?見たの、というか、目開けてたら見え……ぐおぉ!?』
キリカは服の下から壜を取り出し、全力で上下に振った。
『うお、うぷ。や、やめろ』
「忘れる? 今見たものは忘れる?」
『わ、わかった、忘れる……』
手を離すと、ルティリウスは懲りずに聞いてくる。
『本当に怪我してるんじゃないだろうな』
「違う!」
**scean3**
『……女? お前、女!?』
「……だったら何なわけ」
その声の不機嫌さにも気付かないほど、ルティリウスは衝撃を受けていた。
『俺は、女に負けたのか?……いや、それより、なんで女なら女と一言いわない!』
「言ってなんかどうにかなるわけ」
『阿呆! 女に手を上げられるか!』
「……ま、魔王のくせにやたら騎士道精神に溢れたやつね……?」
**scean4**
『そういえば、お前は勇者のくせに卑怯なやつだな』
「それ、褒め言葉? 命が掛かってるのに卑怯とかなんとか言ってらんないし」
『何を言うか! 極限の状態にあっても己を律し、正々堂々と戦うのが騎士道というものだ』
「自棄を起こして世界征服企んだやつに言われたかないんだけど。……というか、何を思って突然そんなことを?」
『思い出したんだ……お前、俺に先制攻撃かけるとき騙して奇襲しただろ!』
「え、してないけど」
『嘘つけ! 世界の半分をやるから味方になれって言った時、考えてる振りして隙をついただろ! ……まあ、勇者が受け取るわけないと見抜けなかった俺も馬鹿だったが……』
「あぁ、アレ。騙してないよ。貰おうかどうしようか迷ってたから。いくら世界の半分貰ってもねぇ。何に使うのよ。でもくれるっていうんだから貰ってみてもいいかなあ……と。で、ふと顔を上げたらなんか隙だらけだったし、ラッキーだったわ」
『クソッ。本気で悩んでたのか!? なんてヤツだ……』
「だってやっぱりただでくれるものは貰っとくべきよ」
『ただじゃないぞ。味方になれって言ったろ』
「……ああ。でもホラ。魔王って悪の象徴でしょ? なんか裏切ったりとかなんでもオッケーっぽくない?」
『オッケーじゃないっ。というか、勇者はそんなことしちゃだめだろ!』
「頭固いなあ。小さい子供が見てなければ大丈夫大丈夫」
『どんな基準なんだよ……』