クラス転移でみんながチートスキルを手にする中、俺のスキルだけ謎の『死亡フラグ』!?
(こ、ここは…?)
目を開けると、そこは見たこともない異様な景色だった。
テレビやネットで見るような、天井が高く厳かな雰囲気が漂う教会のような空間。その中央には、一段高くなった円状の台座があり、高さ2〜3メートルはあろうかという巨大な鏡が鎮座している。
そして何より奇妙なのは、その鏡の前に金髪の美しいドレスを纏った外国人の女性が立ち、その周囲を無数の鎧姿の騎士たちが固めていることだった。
頭が理解を拒んでいると、その女性が凛とした声で口を開いた。
「みなさん、突然お呼びだてして申し訳ございません」
……みなさん?
違和感を覚えて視線を巡らせると、周りには大勢の人が倒れ込んでいた。
「おい旗本! 起きたか!?」
横から声をかけてきたのは、俺の唯一の友達であり同級生のユウジだった。
「ユウジ! ここはどこなんだ!?」
「それがわかんねえんだよ。気づいたらここにいて……クラスの奴ら全員いるっぽいしよ」
ユウジの言葉に促され、改めて周囲を見渡す。確かに、周りにいるのは見慣れたクラスメイトたちだった。皆、困惑した様子でキョロキョロとあたりを見回している。
そんな混乱の中、先ほどの女性が再び語り始めた。
「ここはみなさまの住んでいた場所とは別の世界……つまり、異世界でございます。ワタクシはグランシア王国の王女、リコ・グランシアと申します」
深々と一礼するリコ。
「い、異世界!? 何いってんだあの女……」
「異世界転移じゃね!?」
俺の呟きとは対照的に、ユウジはなぜかわくわくした様子で目声を弾ませた。
やがて周りもざわつき始め、一人の男子生徒が激昂した声を上げる。いわゆるクラスのDQNだ。
「おい! てめえ舐めてんじゃねえぞ! 何わけわかんねえこと言
ってんだよ!」
その怒号を皮切りに、周囲からも「そうだそうだ!」と同意の声が上がり、場はみるみるうちに荒れていく。
すると、リコの周囲を固めていた騎士たちが一斉に剣を抜き、殺気立った構えを見せた。金属音が響き渡り、一瞬で静まり返る場内。
静寂が戻ったのを見届け、リコが再び話し始める。
「急なことで理解が追いつかないのは当然です。ですが、ワタクシたちにも時間がございません。現在、この世界は魔王軍により崩壊の危機を迎えています。それらを打ち払っていただくため、誠に勝手ながらみなさまを異世界から召喚させていただきました」
その言葉に、再び怒声が飛び交う。
「何勝手なこと言ってんだ! 元の世界に返せよ!」
「すみません……召喚によって、みなさまを元の世界に戻すほどの魔力は使い果たしてしまいました。ですが、魔王を打ち倒すことができれば、その魔力を補填することが可能です。ですので、みなさまには是非とも魔王を倒していただきたいのです」
「そんなの……」
俺が呟いた声を遮るように、野次が飛ぶ。
「できるわけないだろ!」
当然だ。俺たち一般の高校生がいきなり戦えと言われたって、できるわけがない。何を無茶苦茶なことを言っているんだ、あの女は。
「旗本……お前、異世界転生モノとか読んだことねえのか?」
ユウジが妙に興奮した様子で耳打ちしてきた。
「あ? なんだ急に?」
混乱する俺をよそに、リコが続ける。
「異世界から召喚されたみなさまには、特別な『スキル』が備わっています。それを使って魔王を倒していただきたいのです。スキルはこの『大仙鏡』を使うことで確認できます。さあ、みなさま、こちらでご自身のスキルをご確認ください」
「な、なんなんだよスキルって……漫画じゃねえんだから」
「異世界……スキル……やべえええ!」
呆れる俺の横で、ユウジが歓声を上げた。
「お、おい!? どうした?」
声をかけようとしたが、周囲の生徒たちも「おもしろそー!」「なんかゲームみたいだな!」と一気に盛り上がり始め、俺の声は掻き消されてしまった。
リコはそれを見て薄く微笑むと、「では、こちらの大仙鏡の前にお並びください」と促した。
「やってやらあ!」
意気揚々と真っ先に進み出たのは、例のDQNとその取り巻きたちだった。それにつられるように、他の生徒たちもゾロゾロと列を作る。
「おい、なにビビってんだよ! いくぞ旗本!」
「お前まで……はあ、しょうがないか」
結局、俺とユウジはクラスの最後に並ぶことになった。
「では、こちらの大仙鏡に手をかざしてください」
リコに言われ、DQNは少し怯えながらも大仙鏡へ手を伸ばす。
…………しぃん。
静寂が包む。
「は?」
DQNが不審がった次の瞬間――パァン!と、大仙鏡が眩しいほど神々しく輝いた。
「おお……!」
リコや騎士たちから感嘆の声が漏れる。
光が収まっていくと、大仙鏡の表面に文字が浮かび上がった。
『破壊王』…触れたもの全てを破壊するスキル
「おお! あの伝説の『破壊王』のスキルだと!?」
騎士たちが色めき立つ。
「え? そんなすげえのかこれ? ハッハー! 最高だな!」
おだてられ、誇らしげに胸を張るDQN。
(あんな不良に破壊王なんて、危険すぎるだろ……)
そう思いながら眺めていると、彼に続いて他の生徒たちも次々と鏡に手をかざしていった。そしてその度に、騎士たちが目を見張るようなスキルが表示されていく。
『大賢者』『魔道王』『大神官』『拳王』『剣聖』『聖女』――。
どれも詳しい効果を知らなくても、規格外であることが伝わってくるスキルのオンパレードだった。スキルを発現させた生徒たちは大興奮で、理不尽に異世界へ連れてこられたことなどすっかり忘れたかのように盛り上がっている。
そしてついに、俺たちの番がやってきた。
「じゃあ先に俺がやってくるぜ!」
ユウジは意気揚々と大仙鏡の前へ進み、手をかざした。
次の瞬間――パァァァァァァァァン!
今までとは比べものにならないほどの眩い光が大仙鏡から放たれた。
「こ、これは……!?」
叫ぶ騎士たち。これまで表情を崩さなかったリコさえも、驚愕に目を見開いている。
光が収まり、映し出された文字は――。
『勇者』…魔を打ち倒すもの。神に等しい力を持つスキル
「な、な……お、俺が……ゆうしゃぁぁぁ!?」
絶叫するユウジ。
「おお! すごいじゃないか!」
俺が駆け寄ろうとしたその時、バッ!と視界が遮られた。リコが割り込み、ユウジの両手を強く握りしめていた。
「勇者様……! よかった……現れてくれないのかと……! これでワタクシたちの平和は約束されたようなものです!」
「は、はい……!」
感極まるリコに対し、完全にデレデレな顔で鼻の下を伸ばすユウジ。
(童貞丸出しだな……頑張れよ、ユウジ)
生温かい視線を送りつつ、俺は「次は俺の番だな」と呟いて大仙鏡の前へと歩み寄った。
――しかし、そこでふと違和感を覚える。
(……ん? あれ? 騎士もリコもいない……?)
あたりを見回すと、教会のような大広間の出口付近に、いつの間にか騎士たちやリコ、そして彼女らに連れられるようにユウジや他の生徒たちが移動していた。
「勇者様、こちらへ! 豪華なお食事を用意しております!」
「他の皆様もどうぞこちらへ!」
リコに腕を引かれながら去っていくユウジ。
「あれ? 俺は……?」
俺がキョロキョロとしていたらたまたまこちらを見たユウジだったが、手元で「ごめん!」とジェスチャーだけを残し、そのまま出て行ってしまった。
(てめえ、裏切りやがったな……!)
心の中で毒づきつつも、俺一人取り残された部屋で大仙鏡と向き直る。
「ふぅ〜……!」
周りに誰もいないのをいいことに、思わずニヤけてしまう俺。
実は、他の奴らが凄まじいスキルを出していくのを見て、期待に胸を膨らませていたのだ。あのユウジでさえ『勇者』なのだ。俺だって、どれほどすごいスキルがつくか分かったものじゃない。
高鳴る鼓動を押さえながら、そっと手をかざす。
……………………。
「ん? おかしいな、故障か? さっきみたいな光は?」
首をかしげていると、鏡にふっと文字が浮かび上がった。
「なんだ、壊れてないじゃん! どれどれ……」
文字を目で追う。
『死亡フラグ』…死を予見するスキル
「……は?」
思わず素の声が出た。
「ちょ、ちょ待て待て待て! なんだこれ! おいおいおい! 俺だけおかしいだろ!?」
一人でパニックになり叫んでいると――
「あれ〜? まだいたのかよ」
部屋の入口から声が響いた。
「え?」
驚いて振り向くと、そこには先に出て行ったはずのDQNが立っていた。
「あん? 旗本かよ……あ、そうだ! お前ユウジと仲良いよな? あいつ殺さね?」
「……は?」
唐突すぎる物騒な提案に、思考がフリーズする。
「だーかーらー!あいつ勇者とか調子乗ってっから、ユウジ殺すのにお前も手伝えって言ってんの!」
返事に詰まる俺に苛立ったのか、語尾を強めて詰め寄ってくるDQN。
――その時だった。
背後に、強烈で禍々しい「気配」を感じた。
思わずバッ!と後ろを振り返る。
そこには、ボロボロの黒いローブを羽織り、巨大な鎌を携えた“骨”が空中に浮いていた。
「う、うわぁぁぁ!?」
恐怖のあまり、その場に尻餅をついてしまう俺。
「は? なんだてめえ、いきなりどうした?」
DQNはわけがわからないといった様子で俺を見下ろしている。
(なんだこいつ……というか、DQNにはこれが見えてないのか……?)
俺が必死に状況を理解しようとしていると、DQNはプッと鼻で笑った。
「なんだよ旗本! お前、俺が凄んでビビってんのか? 安心しろよ、俺に協力すれば殺さねえから」
「ほっ……」
安堵の息を漏らす。目の前にいたはずの”骨”はいつのまにか消えていた。
「そ、その……俺はなにをすればいいんだ?」
「簡単だ。今あいつは勇者として騎士や王女からチヤホヤされてる。だが、お前が『少し話したい』って呼び出せば二人きりにできるはずだ。そこで俺が『破壊』してやる」
「……わかった」
言いながら立ち上がる俺。
「お? えらく素直だな。まあ、お前も仲間にしてやるよ。ほら、行くぞ」
そう言って出口へ歩き出すDQN。
俺はその後に続いた。
――俺の目には、DQNの背後に浮いていたローブの骨が、先ほど俺の後ろにいたやつの5倍はあろうかという巨大な姿へ膨れ上がっているのがハッキリと見えていた。
DQNに連れられて着いたのは、これまた広大な食堂だった。
高大な天井、煌びやかなシャンデリアと装飾。あちこちに並べられた大きなテーブルでは、先に届いた生徒たちが豪華な食事を堪能している。
そんな広い部屋の中でも、ユウジの居場所はすぐに分かった。
騎士たちに取り囲まれ、リコがぴったりと腕にしがみつくようにして会話をしている。
(あの野郎、いつのまにあんな仲良くなってんだよ……)
見つめていると、DQNが「行ってこい」と顎で合図を出してきた。
(少しくらい飯を食わせてくれよ……)
そう思いつつも、逆らえば何をされるか分からない。渋々とユウジの方へと歩き出す。だが、重厚な騎士の壁に阻まれ、近づくことができない。
どうしようかと悩んでいた、その時だった。
リコに密着され続けて疲れたのか、ユウジがふと遠くを見やり、俺の姿を見つけた。
「おっ!」と顔を輝かせると、ユウジはリコに何かを一言告げ、こちらへ歩いてきた。
「待ってたぜ旗本! タイミング神かよ!」
「お、おう……それでさ、ちょっと向こうで話せるか?」
「ん? なんだ……? もしかしてお前もすげえスキル手に入れたのか!?」
目を輝かせるユウジ。
「ま、まあそんなところだ……」
俺たちは食堂を抜け、静かな巨大な廊下を並んで歩いた。
「でお前のスキルはなんだったんだよ?」
「それがな……」
俺は覚悟を決め、自分のスキルについて打ち明けた。
「なにいいい!? 『死亡フラグ』ううう!?」
廊下にユウジの大声が響き渡る。
「終わってるだろ? まじで終わってる」
「ま、まあまあ……そういうこともあるさ……」
「うっ……お前に言われるのが一番キツいな……」
その時だった。
「ユウジィィィィ! 死ねえやぁぁぁぁぁ!」
怒号とともに、柱の影からDQNが飛び出してきた。
「な、なんだ!?」
驚愕するユウジ。
俺は即座にすっと身を引いた。
「あ! おい!」と俺を目で追うユウジに対し、俺は親指をグッと立てて下がった。
「すまんユウジ! 大丈夫だ、お前ならやれる!」
そんなやり取りをしている間にも、DQNはユウジとの距離を詰めていく。
「死ねやァァァァァ!『破壊王』ォォォォォ!」
DQNの拳が眩しく輝き、ユウジの身体へと迫る――その瞬間だった。
一瞬の出来事だった。
DQNの背後に潜んでいたあの“巨大な骨”が突如として動き出し、手に持った鎌を彼の首元へ引っかけたのだ。
「あっ……」
俺が声を漏らした瞬間、DQNの背中を無数の光り輝く剣が貫いていた。
「なん……で……」
血を吐き、その場に崩れ落ちるDQN。
「えっ……ちょ……」
目の前の惨劇に、ユウジも事態が呑み込めていない様子だった。
「それが『勇者』のスキルです」
廊下の奥から声が響いた。リコだった。
「神に仇なす者を自動で排斥する……ユウジ様のスキル、実に素晴らしいです」
うっとりと恍惚の表情を浮かべるリコ。
「これが……勇者……」
ユウジは自分の手を見つめながら、小刻みに震えている。
「大丈夫か……?」
俺が恐る恐る声をかけると――
「う、う、う、うおおおおおおおおお!!」
突然、ユウジが大声を張り上げた。
「は? どうした!?」
「俺がこの世界を守る……!」
恐怖を突き抜け、いきなり使命感に燃え始めるユウジ。
「 …はい! 私も全力でサポートいたします!」
リコが嬉しそうにユウジの手を握りしめた。
(な、なんなんだよこいつらは……)
俺は深くため息をついた。
こうして、俺たちの異世界冒険譚は幕を開けたのだった。
――ただし。ユウジやリコ、そして騎士やクラスメイトたちの背後に、あのDQNについていた骨など比にならないほど恐ろしく、禍々しい「言葉では形容できない何か」が蠢いていることだけは、この時の俺にはとても言い出せなかった。




