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南の聖女の話3

 それからというもの、私とエミルは常に一緒に行動した。

 私が神殿内のことを知らないのはもちろんだったのだが、それ以上に私が神や聖女について何も知らないことが徐々に明らかになってきたのだ。

 私が分からないことがあるたびに、がっかりするでも、怒るでもなく、ニヤニヤともニタニタともとれる笑みを浮かべて教えてくれた。まるで無知な子どもを相手にするような態度に、最初は怒っていたけれど、自分が本当に「無知な子ども」であることを理解し始めてからは、おとなしく話を聞いていた。

 段々分かってきたけれど、エミルはちょっといたずらっ子なのだ。私の反応をひとしきり楽しんだ後にエミルはたくさんのことを教えてくれていた。



 手のひらは、荷物や食べ物を受け取るだけの場所ではなく、神の息吹を受け取り、授ける場所でもあること。だから、手のひらやその近くを傷つけてはいけないこと。


 聖女や聖女候補は、神の息吹をよく感じ、人に与えることができる存在であること。


 現在東西南北に聖女がいて、そろそろ50年ぶりの世代交代の時期が近づいていること。


 聖女は、聖女候補の中から神に愛されたものが選ばれ、訪れた土地に癒やしと勇気を与える存在であること。



 大抵の話は、部屋でエミルが私の髪を櫛でときながら話してくれた。背後から聞こえるエミルの声は、話しているのになんだか歌っているようで、聞いていて心地よかった。足をパタパタさせていると、エミルがいつも「エトはやんちゃな子だね」と言ってくれた。そのたびに「お行儀が悪いわね」と誰かが言っているような気がした。

 お行儀が良くないのは分かっていたけれど、エミルにかまってもらえるから嬉しくてつい足を動かしてしまうのだ。




 エミルと一緒にいるときは、エミルの妹になった気がしてなんだか幸せな気持ちになった。




 エミルは聖女候補の中で、一番頭がいいと司教様や大司教様の間で評判だった。誰にでも優しくて、素敵な歌声をもって、聖女に一番近いと言われていた。エミルと同い年くらいの、運動が得意な子も聖女に近いって言われていたけれど、私はエミルの方が聖女に近いって思っていたわ。だって、私のお姉ちゃんみたいな人が聖女になったら一生の自慢になるし、そんなすごい人が実はいたずらっ子っていうのを知っているのも私だけなのも鼻高々だった。

 私と同い年くらいの聖女候補は、話しかけてもあまり返事をしてくれないから、なかなか誰かに自慢することはできなかったけれど、心の中では毎日エミルを自慢していた。





「エミルはすごいなぁ。何でもできてうらやましい。」


 ある日、いつものように私の髪をといていたエミルに話しかけてみた。エミルは苦笑した。


「そんなことないよ、エトのほうが歌を覚えるのも早いし、お祈りを間違えずに言うことだってできるじゃないか。それに――――。」


 エミルは一瞬口をつぐんだ。


「――――私はエトよりも長くここにいるから何でもできるように見えるんだよ。」


 と言った。エミルは続けて、


「エトはとっても神に愛されているよ。とってもね。」


 と言ってくれた。エミルにほめられたことがなんだか嬉しくて、私はエミルを振り返った。


「ありがとう! エミ――――」




 エミルは私から顔を隠すようにして泣いていた。声を殺して、唇をかんで、涙だけがポタポタとこぼれ落ちていた。

 おどろいた。

 エミルが泣いているところなんて初めて見たから。

 見てはいけないものを見たような気持ちになって、とっさにエミルから目を離した。

 エミルは多分私に見られたことを知らない。

 どうしよう。声をかけた方がいいのかな。どうすればいいのかな。わかんない。

 あれ、そういえば前もこんなことがあった気がする。

 なんだったっけ? 前もだれかが泣いていて、そのとき私は……


 わたしは……


 頭の中で、いろんな情報がごちゃ混ぜになって流れてきて、そこからの記憶はない。

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