南の聖女の話2
目が覚めたとき、最初に感じたのは布団の柔らかさだった。白いシーツは太陽のにおいがする。
しばらくその心地よさにウトウトと眠気を覚えた。
そして、ふと馬車での出来事を思い出した。
何かを叫んだことを覚えている。何か強烈に悲しくて寂しい気持ちになったことを覚えている。
でも、なんだったのだろう?
思い出せない。
まあ、いっか。
私はそんなことよりも、ふとんの柔らかさに幸せを感じていた。
不意にトントンとドアをノックする音が聞こえた。
「はい」
返事をすると、馬車でであったやさしそうなおじさんが入ってきた。
「よかった。目が覚めたのですね。」
おじさんは、目尻にしわを寄せて笑顔で尋ねた。
「はい、とってもよく眠れました。」
「それはよかった。」
おじさんは、太陽のにおいがする白い服を手渡しした。
「この服に着替えてください。着替えたら外に出てきてくださいね。」
私は言われたとおり服を着替え、外に出た。部屋の外は服と同じ白が広がっていた。ただ、庭に咲いている草花が彩りを与えていた。おじさんへ部屋の外で待っていた。おじさんは私の姿を見て「お似合いですよ」と言った。そして、「ついてきてください」と言ったので、私はおとなしくおじさんについて行った。
歩いている内に、違和感を感じた。髪が伸びている気がするのだ。昨日は肩の上までしかなかった髪なのに、胸の高さまで伸びている。見ている世界も、背伸びをしているみたいに少し高い。不思議だったけど、おじさんは何も言わないから、私も静かにしていた。なんだかそうしなきゃいけないような気がした。
ある部屋の前に来たときに、おじさんは立ち止まった。髪が気になってフリフリしていたから、おじさんが止まったことに気づかず、おじさんにぶつかってしまった。おじさんの顔を見上げるが、さっきと同じようやさしい表情をしていた。
「ここは、今日からあなたの部屋です。相部屋ですが、上手に暮らしてくださいね。」
そう言って扉を開けた。部屋の中には腰まで伸びたきれいな黒髪の子がいた。
その子の黒い瞳はとっても大きく見開かれて、私の登場に驚いているようだった。
「この子に神殿の案内をしてもらえますか?」
おじさんは親しげに話しかけた。その子は座っていたベッドから立ち、おじさんと私を見てから、
「はい、分かりました。大司教様。」
と、とても美しい声で応えた。きれいな髪にきれいなお顔、そして美しい声をしている子を見て、なんだか恥ずかしくなってきた。私ときたら、寝起きでぼさぼさのくせっ毛なんだもの。
私はおじさんに部屋の中へ入るように促された。部屋に入った後、扉は閉められ、二人っきりになった。
「あの……」
私がもじもじしていると、その子は自分が座っているベッドの反対側にあるベッドを指さした。
「そこ、座ったら?」
「あ、うん……」
言われるがままにベッドに腰掛ける。
「名前は?」
「えっと……」
「エトっていう名前なの?」
「!! ちがうわ!」
ちょっと怒った。そんなわけないのに。私にはもっとちゃんとした名前があるのに。名前を伝えようとするけれど、なんだか口から自分の名前が出てこない。その子は、私の挙動を見て少し瞳を曇らせた。しかし、すぐにいたずらっ子のような黒い瞳を私に向けてきた。
「じゃあこれからよろしく、エト。」
屈託のない笑顔で差し伸べてきた手のひらに、私は少し戸惑いながらも口づけをした。
私より少し年上の、黒髪が素敵な人。エミルに対する最初のイメージはこんな感じだった。




