南の聖女の話1
東の聖女が死ぬ2~4年前の話
私が南の聖女に選ばれた。
あまり嬉しい気持ちはしなかった。
だって、エミルとお別れしないといけなくなっちゃうから。
「おめでとうございます。あなたは聖女の候補に選ばれました。」
ある日突然、おうちに知らない大人がやってきた。白い服を着て、口元まで白い布をつけた大人たちだった。
最初の印象は「こわい」だった。
でも、おとうさんとおかあさんはとっても喜んでくれた。「よかったわね」っておかあさんは頭をたくさんなでてくれた。おかあさんが頭をなでてくれたことがうれしくて、「うんっ」って応えた。
その日の夜、お水を飲むために起きたら、おかあさんとおとうさんは泣いていた。
なんだか話しかけてはいけない気がしたから、お水は飲まないで、足音を立てないようにそっとベッドへ戻った。おふとんをかぶっても、おとうさんとおかあさんが泣いている姿が目に焼き付いて離れなかった。なんで泣いているのかは分からなかったけど、二人が悲しいきもちになっているのが悲しくて、わたしも泣いちゃった。
次の日、たくさんの人がおうちにやってきた。みんな「おめでとう」と言って、わたしの手のひらにキスをしていった。
いつもは「こどもはまだしなくていいのよ」と見ているだけだったのに、今日はみんながわたしの手のひらにキスをしてくれている!
大人になった気分でわくわくしながらおかあさんに聞いた。
「いつもはまだしなくていいよって言うのに、今日はなんでみんなしてくれるの?」
おかあさんは、まゆげを八の字にして、ちょっとさみしそうな顔で教えてくれた。
「それはね、あなたが立派な大人だと認められたからよ。」
「6才なのに?」
「年齢は関係ないの。あなたは神に認められたから、みんなもあなたを立派な大人だと認めたのよ。」
ふうん、と言って足をパタパタさせた。いつもなら「お行儀悪いからやめなさい」と言うおかあさんが、今日はなぜか言ってこなかった。
肩の上で切りそろえられた髪をふりふりするとなんだか楽しいので、人がいないときはずっとそうやって遊んでいた。お行儀にきびしいおかあさんが怒らないのが不思議でたまらなかった。いつおかあさんが怒ってくるかな、と思っていたけど、おかあさんが怒ってくることはなかった。なんだか寂しい気持ちになった。
次の次の日、とっても大きな馬車がわたしの家の前にやってきた。
馬が三匹もいる馬車なんてはじめてみたから、とってもびっくりしちゃった。
馬車の中はふかふかで、中にはやさしそうなおじさんが座っている。ちょっとドキドキしながらおじさんのとなりに座った。
「こんにちわ」
と声をかけると、
「こんにちは」
とにこっと笑って返してくれた。やさしい人だ! 直感でそう思った。
足をぷらぷらと動かしながら、おかあさんとおとうさんが乗るのを待っていたら、出発してしまった。
わたしはあわてて
「まだ、おとうさんもおかあさんも乗ってないよ。」
とおじさんに聞いた。おじさんは、さっきと同じ笑顔で
「はい。あなたの両親とはここでお別れです。」
と言ってきた。何を言っているのか分からなかった。おとうさんもおかあさんも一言もそんなことを言っていなかった。いつもよりおいしい朝ご飯を食べて、いっしょに荷物をかばんにつめて、いっしょにうきうきしながら馬車をまっていたのに。
「いやだ!」
わたしは馬車のとびらをあけようとした。しかし、びくとも動かなかった。
「おとうさんとおかあさんがいっしょじゃないなら、わたしも行かない!!!」
そう叫んだのは覚えている。
しかし、次に目を開けたときには知らない白い部屋で寝かされていた。




