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旅人の話3

「この国の神ってなんなんだ?」


かなりざっくりと質問をする俺に、エミルは興味をもってくれてありがとうございます、と言いながら教えてくれた。


「神は、この国をつくり、導き、助けてくれる存在です。私たちは手のひらから神の息吹を受け取り、授けることができます。人がつくった物には神が宿り、それを体内に取り込んだり、身につけたりすることで、神を身近に感じることができるのです。細かく言えばもっとあるんだけど、それを語り出すと1日じゃ足りないかな。」


聞きたい? と問われたので、とっさに首を振る。聞いている途中で多分寝る。


「じゃあ、次の質問。聖女ってなんなんだ?」


「聖女とは、神に選ばれた人のことです。東西南北の都市にそれぞれ一人ずつ聖女がいて、神の声を毎日聞いて、自分の派遣された都市の人たちに神の声を伝えたり、神の教えを広めています。」


「さっき言ってた結界っていうのも、聖女の仕事なのか?」


「そうです。神が結界を張りなさいっておっしゃったから、結界を張ってたんです。他の都市のことは知らないけれど、多分同じなんじゃないかな?」


「結界って、張れっていわれたら張れるもんなのか?」


「私は優秀だから、できるのさ。」


胸を張って答えられた。


「じゃあ、神に張れって言われたのに、俺なんかを国に入れちゃって良かったのか?」


「一応相談したけど、お返事がなかったから、沈黙は肯定と捉えて入れちゃった。」


「……それ、後々神のたたり、とかで怒られないのか?」


「怒られるかもしれないね。」


へへっとエミルは笑った。そして、いたずらっ子のような笑顔を浮かべて言葉を続けた。


「私はこの都市へ来るまでは、神の言うことに従って行動することが何よりも正しいことだと思ってた。神が何も仰らないなら動くべきではないし、やるべきことではないって。でも――――」


「でも?」


「この都市で生活する中で気づいたんだ。神の仰ることは正しいけど、それだけじゃダメなんだって。私たちは人間として、この世に存在しているんだから、神のみ言葉だけにすがって生きるんじゃなくて、自分で考えて行動すべきだって。」


エミルは言葉を続ける。


「私はもっといろんなことを知りたい。そして、この東の都市をもっと豊かな国にしたい。そのためには、国を閉ざしたままじゃ、変化を受け入れないままじゃいけないんだ。良いところは今のままで、よりよくしていくために、他の国とも交流をしていきたいと思っている。」


「それは、神の意志に背くことになっても?」


一瞬エミルの顔がこわばった。


「それは――――それは、背かないように何とかやっていくよ。なんたって私は当代の聖女の中で最も賢いと評判の聖女だからな」


強がりともとれるような表情で答える。俺はこの国の人間ではないからこの国がどうなろうが関係ない。だが、一度でも関わりをもってしまった相手が――それも子どもが――あまり幸せになれなさそうな表情をしているのは心にくるものがある。


「俺は、王弟だ。だが、兄とは15も年が離れているし、放蕩息子なんて呼ばれていてすぐに内政に干渉できる立場ではない。」


それでも


「それでも、お前が何か困ったとき、隣国の王族の者として助けてやる。だから、心配するな。」


確約はできない。しかし、そう言ってやらないとこの子はこの先潰れてしまう。そんな予感がした。


精一杯大人びようとしている幼い子ども。たった一泊二日滞在しただけでも、この国がどれだけ「神」の存在に頼っているか、そして「聖女」と呼ぶ存在にすがって生きているのか理解できた。この細い肩にどれだけの重圧がかかっているのだろう。


思わず、頭をなでた。今度は嫌がらずにおとなしく頭をなでられていた。まるでもっと幼い子どもを相手にしているような感覚だった。

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