4話 木彫り
イサン竜の火焔で、上手く焦げついた味噌焼きおにぎりが出来ていた。リフカは、おにぎりを朝食用と昼食用に分けるため、沢山握っていた。
ーリフカちゃん。翼のない竜なのに、竜って名乗っていいと思う?
落ち着きを取り戻した勇参が呟くように言った。
現存するミノウチ竜のなかで、翼がない非翼竜はイサン竜だけだった。
ー・・・いいんじゃない。翼のない竜がいたって。
作業を続けながら、リフカが言った。
ー翼がなかったら、兄さんたちの仕事、手伝えない。
ー・・・。
ー軍事演習にも参加させてもらえない。
勇参はリフカに話しながら、去年の公開軍事演習を思い出していた。
演習の上覧席に時間になっても姿を現さず、落雷御殿にいるところを隊士たちに発見され、連れ戻された勇参は、演習場の遠くから、駆けつけた民衆に混じって演習を見ていた。
演習場の周りに集まった民衆は、大人も子供も頭をもたげて、空を翔んでいるミノウチ竜の動向を見守っていた。それから、父親に肩車をされた子供が父親に、
ーねえ、お父さん。あの水色の大きい竜は?
ーウィズロー様だよ。ミノウチで一番強い竜だ。
父親は空を指差して、ウィズロー竜の飛んでいる場所を子供に教えてあげた。
村澤雨泉浪。
それが勇参の二番目の兄の名前であり、国民から最も人気があり、支持されているドラゴンアクターだった。
ウィズロー竜が空中で火焔を吐くと、近くで大きな歓声が上がった。
民衆から上空のウィズロー竜へ、憧憬の眼差しが向けられると、勇参は民衆から離れた。
座りながら勇参の話を聞いていたリフカは、立ち上がると、棚の上から二番目の引き出しを開けた。そこから一体の木彫りを取り出し、勇参に見せた。
ーこれをイサン君にあげる。
リフカは木彫りを勇参に渡した。その木彫りは爬虫類の生物の形をしていた。鋭い目つきで、二本の足があって、翼がなかった。
ーこれって。
ー昔の木彫り師が彫った竜。
ー・・・。
ー私が生まれた村ではね、木彫り師は皆、生きている間に何かを成した人か、神様がいたことを忘れないために木彫りを彫るんだ。
ー・・・。
ー昔の竜は、翼なんかなくったって、尊敬されてたみたいだね。
ー・・・。
それから二人は朝ご飯を食べた。囲炉裏の近くで、二人とも足を崩した。足を崩すと、勇参は女の子っぽく見えた。リフカがそのことを指摘すると、勇参は自分のペタリとした足を見て可笑しくなって笑い出した。二人とも箸の持ち方が変だった。
外出支度を整えた二人は外へ出た。
ーリフカちゃん。
ー・・・。
ー出来れば、今朝ここで、僕が泣いていたことは。
ー二人だけの秘密にする?
リフカはいたずらっぽく笑った。
ー・・・。
ーいいよ。誰にも言わない。
ー兄さんたちには・・・。
ー絶対に言わない。
ーありがとう。
リフカはミノウチ城と城下町がある方向へ、勇参は落雷御殿のほうへ、歩いて行った。




