2話
リフカは家の中に入ると、拾ってきた薪を木製の容器に入れた。数本は調理場スペースに設置されてある釜戸の下に突っ込んだ。
勇参は戸口に立ったままだった。
両刃斧を壁に掛けながら、リフカはそれに気づくと、
ーどうしたの。入りなよ。
と声をかけた。
勇参は中に入った。
ー朝から一人で薪割り?
ーうん。昨日サボっちゃったからねー。
ー教えてくれたら手伝ったのに。
ーいいよ。一人で薪割るの、好きだから。
ー・・・。
ー朝ごはんはもう済ませた?
リフカが勇参に聞いた。
ーううん、まだ。
ーおにぎり、持ってないの。
勇参は首を横に振った。
ー何も食べずに稽古したって、すぐ疲れちゃうぞ。
ー・・・。
ー朝ご飯、食べていかない?
ーいいの?
ーいいよ。
リフカは囲炉裏の鍋に昆布の出汁を入れた。それから出刃包丁で葉物野菜を切り始めた。
ー・・・手伝うことある?
ーいいよ。座ってて。
野菜を切り終わると、釜戸の近くで、火打ち石を打ち合わせる音が響いた。石が経年劣化で小さくなっているせいか種火はなかなか出来なかった。
ーなんか手伝うことある?と勇参が尋ねた。
ー座っててー。
ー・・・。
手持ち無沙汰の勇参は床の上で腕立て伏せを始めた。リフカのほうを見ると、リフカの突き出たお尻が、腕を立てたときの勇参の目の高さとちょうどピッタリだった。勇参は赤ら顔を伏せた。
キンキンという、石を打ち合わせる音がした。種火は生まれていなかった。
勇参は腕立て伏せを切り上げてリフカのそばに近寄った。
ー火、つかないの。
ーうん。石。今日のうちに新しいの貰ってこなきゃ。
ー・・・。
ー・・・。
ー火、おこそうか。
ーううん、いいよ。
リフカは火打ち石から目を離さなかった。
リフカは少し意地になっていた。
種火は生まれそうになかった。
ーちょっと外出てくる。
勇参は外に出た。
東から昇りかけの太陽の光が、勇参の小柄な身体を照らした。
キンキンキンキン・・・。
しばらくして火打ち石から火花が生まれた。リフカはホッと一息ついた。背後から戸が開き、閉まる音がした。リフカは振り返って、
ーイサン君、おかえり。今やっと・・・あっ。
そこまで言ったところで、リフカは言葉をつぐんだ。すぐに火花は消えてしまったが、リフカは気にしなかった。
リフカの目の前に、勇参の背丈とさほど変わらない、二足歩行型の小柄な竜が、家の中で直立していた。




