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聖戦士コウタの物語
第十九章:クロードの焦燥と聖都の苦境
1. 高潔なる勇者の決断
聖都アウローラ。コウタの不可解な足取りを追っていたクロードは、魔王軍による本格的な侵攻の報を受け、追跡を中断せざるを得なくなった。
クロードが歯ぎしりしながら言う。
「くっ……あの無軌道な聖戦士の追跡を続けるのは、今の我々の使命ではない。」
クロードは、コウタの汚名や不潔な見た目に対する苛立ちよりも、目の前の民衆の危機を優先した。彼の顔には、高潔な使命感がにじみ出ていた。
「長老方の命に従いましょう。フィオナ、ゼノス、オズワルド。今は、目の前の人々の命を守ることが、真の勇者の務めです。あの聖戦士の真実は、戦いの後に必ず解き明かします!」
聖女フィオナが感動したように答える。
「はい、クロード様!貴方様の清らかな決断こそ、皆の希望です!」
クロードは、爽やかな笑顔で仲間を鼓舞し、迷いを振り切った。
しかし、彼の心には、「あのコウタという男の異常な力」という、どうしても無視できない影が残されていた。
2. 絶望的な戦場と勇者の奮戦
クロード一行は、聖都の西側防衛線へと急行した。
そこでは、魔王軍の圧倒的な物量を前に、戦線は硬直し、徐々に劣勢に追い込まれていた。
クロードが兵士たちに呼びかける。
「絶望するな!我々がいる限り、この防衛線は破らせない!」
クロードは、風を纏った美しい剣技を繰り出し、最前線で兵士たちを鼓舞した。彼の剣戟は光となり、何十もの魔物を一瞬で薙ぎ払った。
賢者オズワルドが状況を報告する。
「クロード様の奮戦、拝見いたしました!しかし、敵の戦術は巧妙です。このままでは、兵士たちの疲弊が限界を超えます!」
クロードの勇者の奮戦と、フィオナの聖なる癒やしをもってしても、戦況は覆し難いものだった。領土は次々と魔族に奪われ、民衆の犠牲は増え続けていた。
クロードの内心が焦る。
(このままでは、聖都が危ない……!私は、全てを救える完璧な勇者でなければならないのに……!)
クロードは、己の限界と、目の前の絶望的な現実に直面していた。彼の心は、高潔な理想と厳しい現実の板挟みになっていた。
3. 無知ゆえの苦悩
クロードは、ふと、「汚い聖戦士」コウタが、何の苦労もなく魔族の要塞を破壊し、荒廃した領土を次々と解放していたという事実を思い出した。
クロードが内心で葛藤する。
(もし、あの男の力が本物であったなら……。そして、あの男が我々が戦うべき敵ではないとしたら……。)
クロードは、目の前の激戦で身体を削りながらも、自分たちが追うべき敵と守るべき民、そして「真の力」を持つ者が誰なのか、という根源的な問いに苦悩し始めていた。
彼の爽やかな主人公像は、この硬直した戦況の中で、苦悩する英雄へと深まっていった。
しかし、彼はまだ、コウタの「チート」がもたらした恩恵(ハルジオン領の復興と兵力増強)が、聖都の戦況を覆す唯一の鍵だということに、全く気づいていなかった。
聖戦士コウタの物語
第二十章:勇者の覚醒と聖都の疲弊
1. 新たな四天王との激突
聖都アウローラの西方防衛線。
クロード一行の奮戦も虚しく、魔王軍は新たな四天王『残虐のガラマード』を投入した。ガラマードは、漆黒の甲冑を纏い、配下の魔族を消耗品として使い潰す非情な戦術で、聖都の防衛線を圧迫した。
残虐のガラマードが嘲笑する。
「ほほう、これが聖都の『聖なる光輪』か。たかが人間風情が、我が魔王軍の圧倒的な物量に抗えると思うか!潰れろ、塵芥ども!」
クロードは、完璧な剣技でガラマードの配下を次々と切り裂いたが、魔族の波は途切れることがなかった。
クロードが叫ぶ。
「くっ……キリがない!フィオナ、回復を頼む!」
聖女フィオナが苦渋の表情を浮かべる。
「これ以上は無理です、クロード様!私の聖なる魔力は、既に底を尽きかけて……」
賢者オズワルドが警告する。
「敵の魔力は尽きません!これが消耗戦の目的です!我々を疲弊させる気だ!」
激しい攻防の中、ガラマードは「殲滅の一撃」を放った。
クロードは咄嗟にフィオナとオズワルドを庇ったが、剣聖ゼノスがその直撃を受けた。
剣聖ゼノスが苦痛に耐えながら言う。
「ぐっ……私は、まだやれる……!」
ゼノスは深手を負い、戦線を離脱せざるを得なくなった。
直後、魔力の限界を迎えた聖女フィオナと、戦略眼を失った賢者オズワルドも、意識を失い倒れた。
2. 絶体絶命のピンチ
クロードが仲間の名を叫ぶ。
「フィオナ!オズワルド!ゼノス!」
仲間の倒れた姿を見て、クロードの爽やかな笑顔は消え失せ、苦痛と怒りの表情に変わった。彼の全身は、傷と疲労でへろへろになり、肩で息をするのが精一杯だった。
しかし、彼の高潔な意志は折れていなかった。
残虐のガラマードが宣言する。
「たった一人か、勇者よ。お前の高潔さも、無力な人間の理想論でしかない。聖都の希望は、ここで潰えるのだ!」
ガラマードの巨大な剣が振り下ろされる。
クロードは、限界を超えた身体で剣を受け止めたが、その力に押し潰されそうになった。
クロードの内心が燃える。
(くそっ……!私は、完璧な勇者でなければならないのに……!まだだ、私はここで倒れるわけにはいかない!誰も救えなかったら、コウタのあの男と同じではないか!)
3. 勇者クロードの覚醒
「救う……私は、全ての人々を救い出す!」
クロードの高潔な魂と、理想を捨てない強い意志が、絶体絶命のピンチを前に、ついに限界を超えた。
彼の体内に眠っていた純粋な光の魔力が、堰を切ったように噴き出し、全身を眩い輝きが包んだ。
それは、コウタの異臭を放つチート光線とは違い、荘厳で清らかな、真の勇者の力だった。
クロードが叫ぶ。
「『聖なる光輪の解放!』」
覚醒したクロードは、疲弊した肉体を感じさせない一閃の光を放ち、ガラマードに強烈な一撃を叩き込んだ。
残虐のガラマードが驚愕する。
「なっ……馬鹿な!この純粋な光は……!?」
ガラマードは、その一撃の威力に怯み、体勢を崩した。
4. 撤退と聖都の疲弊
クロードは、覚醒した力でガラマードを押し返したが、その力は消耗も激しく、彼自身も今にも倒れそうだった。
残虐のガラマードが撤退を決断する。
「チッ、これ以上、我々も無駄な消耗は避けよう。聖都の息の根は、既に半分止まった。撤退だ!」
ガラマードは、コウタとの戦いとは違い、十分な損害を与えたと判断し、魔族軍を率いて一旦撤退した。
クロードは、力尽きてその場に倒れ込み、かろうじて引き分けに持ち込んだ。
彼は、最高の力と高潔な覚悟を見せつけたが、その代償は大きかった。
5. アウローラ、疲弊の極地へ
聖都アウローラは、勇者クロードの覚醒という希望の光を得たものの、その代償として甚大な被害を被った。
· 兵士の士気は崩壊寸前
· 勇者パーティーの仲間は戦闘不能
· 領土の大部分は魔族に奪われたまま
魔王軍の狙い通り、聖都は疲弊の極地に達し、資源も兵力も枯渇していく消耗戦へと追い込まれたのだった。
倒れたクロードが心の中で呟く。
(コウタ……お前は、この絶望的な戦場を、一体どんな顔で、どんな力で進んでいるんだ……!)
彼は、自身の覚醒した力をもってしても、コウタの理解不能なチートとの力の差を感じざるを得なかった。
聖都の運命は、真の主人公であるはずのクロードの肩に、重くのしかかっていた。




