第4話 「何故、私たちは結婚出来たのか? ― はちゃめちゃデートと婚約の夜 ―」
先生と私の関係は、ただの“教師と生徒”じゃない。
けれど――どうして、私たちはこんなにも特別な関係になったんだろう?
少し昔の話をしよう。
笑って、泣いて、そして少しだけドタバタだった、あの“婚約の日”の物語を…
あらすじ
休日、先生との久しぶりのデート。
だが予定は次々に狂い、映画館ではチケット紛失、レストランでは予約ミス、そして雨に降られる大騒動。
それでも二人は、笑いながら手を取り合い、傘の下で寄り添って歩く。
夜――落ち着いたカフェで、先生がぎこちなく差し出したのは、小さな指輪。
「俺、きっと教師としては最低かもしれない。でも、一人の男として、君を守りたい」
涙があふれた夜。
その夜から、私の“先生”は、“旦那様”になった。
「今日は……ほんとに、デートですよね?」
私が問いかけると、斎藤先生――いや、当時はまだ“先生”だった彼が、少し照れたように笑った。
「デート、って言葉を君から聞くと変な感じだな」
「だって……先生、いつも教壇に立ってばかりなんだもん」
あの日は、春の始まり。
桜がまだ少し残る公園を歩きながら、私は小さなワンピースの裾を押さえた。
先生はジャケットのポケットに手を突っ込んで、少しだけよそ行きの顔をしていた。
私たちの関係はまだ“秘密”。
でも、互いの想いはもう止められなかった。
⸻
最初の目的地は映画館。
ところが、チケットを確認しようとした瞬間――。
「……あれ?」
「どうしたんです?」
「チケット、ない」
え? まさか、と思って先生のバッグを覗くと、見事に空っぽ。
さっきコンビニで飲み物を買ったとき、どうやら財布と一緒に置き忘れたらしい。
「先生……」
「いや、違う、これは……えーと、授業の癖で整理整頓してしまって……」
「それ整理じゃなくて、置き去りです!」
私が半ば呆れ顔で笑うと、先生もつられて笑った。
結局、映画は見れず。代わりにカフェで作戦会議を開くことに。
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カフェでもまた事件が起きた。
店内に入ると、先生が一言。
「えっと……予約してた“サイトウ”ですが」
「“サイトウ”様は……キャンセルされてますが?」
店員の声に二人で固まる。
どうやら先生、予約サイトで“明日”の日付を押していたらしい。
「先生、まさかと思ったけど……」
「……授業準備の時も、日付ずらして提出してたかもしれん」
「もう、それ完全に先生あるあるですよ!」
笑いながら、空いたテラス席に通される。
風が少し冷たくて、先生が自分の上着をそっと私の肩に掛けてくれた。
「ほら、風邪ひくなよ」
「……先生って、こういう時だけ大人ですね」
「こういう時“だけ”か?」
その言葉に、思わず笑ってしまった。
ふと、テーブルの影で彼の指先に触れた。
彼は驚いたように瞬きし、それでも逃げなかった。
⸻
夕方、帰り道。
空が淡く染まり、雨粒がぽつ、ぽつと降り始めた。
「傘……持ってないですよね?」
「うん、持ってない」
「はぁ……もう完璧ですね、今日」
仕方なく、コンビニの透明傘を一本買って、二人で肩を寄せ合って歩いた。
傘の中は狭くて、距離が近すぎて、呼吸が重なる。
先生の肩に頬が触れた。
雨の音が静かに包み込んで、世界が少しだけ優しくなった。
「……ごめんな」
「え?」
「全部、予定通りにできなくて。デートも、俺らしくないし」
その声に、私は首を振った。
「でも、楽しかったです。全部ドタバタで、でも……私、笑ってばっかりでした」
「……そうか」
「先生と一緒にいると、いつも何か起きる。でも、嫌じゃないです」
その言葉に、彼の目が少しだけ潤んだ気がした。
⸻
夜。
小さなカフェの個室。
雨音の中で、先生はぎこちなくポケットを探っていた。
「……どうしたんですか?」
「いや、ちょっと……」
出てきたのは、小さな箱。
白くて、少し手に汗がついていた。
彼は深呼吸をして、私を見つめた。
「俺……教師としては、失格かもしれない」
「そんなこと――」
「でも、一人の男として、君を守りたい」
箱の中には、小さな銀のリングが入っていた。
照明の光が反射して、彼の手の震えまで照らしている。
「……俺と、結婚してくれ」
世界が止まった。
外の雨音も、心臓の音も、全部遠くに消えた気がした。
気づけば、涙が頬を伝っていた。
「……はい」
ただ、それだけ言った。
先生――いや、“私の旦那様”は、安心したように笑った。
その笑顔を見て、私は心の底から思った。
――この人となら、どんなハプニングでも乗り越えられる。
⸻
あの日の夜から、私たちの秘密の毎日が始まった。
教師と生徒であり、夫婦でもある奇妙な関係。
でも、どんなに笑っても、泣いても、すれ違っても、
私の心はいつも、あの春の夜に戻っていく。
あの、雨の音と指輪の光を、今も覚えている。
思えば、あの日のデートは本当に散々だった。
でも、あんなに笑って、あんなに泣いた日も、あれ以来なかった気がする。
どんなトラブルも、二人で乗り越えられる――そう信じさせてくれた日。
だから、今も私たちは笑い合える。
秘密の夫婦生活はまだまだ続くけど、あの夜の言葉だけは今も胸の中で輝いている……




