第3話 「危険な放課後 ― バレちゃいけないキス ―」
秘密の恋は、甘いけれど危険。
少しの油断で全部バレてしまう――そんなスリルが、時に恋をさらに燃え上がらせる。
今日は、私と旦那様の「あと少しで見つかりそうだった」放課後の物語をお届けします。
あらすじ
放課後の教室。
他の生徒が帰った後、主人公と斎藤先生はいつものようにこっそり甘い時間を過ごしていた。
先生の机に寄りかかって話しているうちに、ふと手が触れて、視線が重なる。
もう少しでキス――という瞬間。
廊下から同僚教師の足音が……!
慌てて距離を取る二人。
机の陰に隠れたり、プリントを装って取り繕ったりとドタバタの連続。
けれど、秘密を守るために必死なその姿さえ、なんだかおかしくて愛しい。
――先生、誰にも言えないけど、私たちの時間が一番大事。
笑いとスリルと恋が交錯する、放課後のラブラブ攻防戦。
チャイムが鳴り終わって、教室が静かになった。
最後の生徒が「お疲れ様でーす」と手を振って出て行くのを見届けると、私はこっそりとドアを閉めた。
「……もう、行ったよ」
「そうか。じゃあ、少しだけ話そうか」
先生――いや、私の旦那様は、いつもの穏やかな声でそう言った。
昼間は「斎藤先生」だけど、放課後のこの時間だけは、私にとって“斎藤さん”になる。
机の上に広げられたプリントを片づけながら、私は先生の横顔を盗み見た。
黒板に残るチョークの粉、カーテン越しに差し込む夕陽。
その光の中にいる先生は、いつもより少しだけ柔らかい表情をしていて――思わず見とれてしまう。
「どうした? そんな顔して」
「え、あ、なんでもないですっ」
焦って否定したけど、顔が熱くなる。
先生はクスッと笑って、私の頭をそっと撫でた。
その手の温かさに、心臓が跳ねた。
「学校じゃ“先生”って呼ばないとダメだろ」
「でも今は放課後ですもん……先生」
「……その言い方はずるいな」
少し照れたように視線を逸らす先生。
私はその横顔を見つめたまま、机の角に手を置いた。
ほんの少し、距離が近づく。
あと数センチで、唇が触れそうで――
「……っ、誰か来た!」
先生の声が低くなり、私は反射的に身を引いた。
廊下から靴音が近づいてくる。
トントン、と規則正しい足音。
しかも、聞き覚えのある声――副担任の佐々木先生だ。
「斎藤先生、まだ職員室に戻ってないのかしら?」
「やば……」
「ど、どうしよう先生!?」
私は慌てて机の下にしゃがみこんだ。
先生は咄嗟に黒板の方を向いて、なに食わぬ顔でプリントを整理するフリをする。
ガラッ、とドアが開く音。
「……あら、まだいらしたんですね」
「えぇ、少しプリントの整理をしていまして」
「そうですか、あの明日の会議資料、確認してもらえます?」
机の下から、私は息をひそめて見上げた。
先生の足元、ほんの数センチ先に佐々木先生のヒールが見える。
――見つかったら終わりだ。
夫婦だなんて知られたら、きっと先生の立場も……。
手のひらが汗ばんでくる。
心臓の音がやたらと大きく聞こえる。
佐々木先生の声が遠のいていく。
ドアの閉まる音。
静寂。
「……行った?」
「たぶん、もう大丈夫だ」
机の下から這い出ると、先生は深く息をついていた。
そして私を見ると、吹き出すように笑った。
「おまえ、顔真っ赤だぞ」
「だ、だって! 本気でバレるかと思ったんですもん!」
「まぁ、バレても……仕方ないかもしれんな」
「え?」
先生は小さくため息をつき、それから微笑んだ。
「俺が、君を好きなのは隠せそうにないからな」
その言葉に、私は一瞬言葉を失った。
頬が熱くなり、目の奥がじんとする。
「……もう、先生ってば、ずるいです」
「ずるい先生でごめん」
彼は机に手をついて身をかがめ、私の額にそっと唇を寄せた。
キスではないけれど、胸の奥がじんわりと温かくなる。
「……これくらいなら、誰にも見られないな」
「……でも、心臓はバレちゃいそうです」
先生は笑って、私の手を軽く握った。
夕陽が差し込む教室。
その光の中で、私たちは小さな秘密をもうひとつ、胸の奥に閉じ込めた。
あのときもし、ほんの一秒でも遅れていたら……。
きっとすべてが終わっていたのかもしれない。
けれど、先生は笑って私の頭を撫でた。
「危なかったな。でも、君がいたから助かった」
そう言われた瞬間、また恋に落ちた。
――次の放課後も、秘密の時間が続きますように…




